政略結婚で始まる愛の話_76_離婚の提案

それからわずか2日間で兄は計画を建て、必要なものを全てそろえてくれたようである。

離婚とは別に炭治郎はこれからまだ副社長である伯父と対峙していかなければならないし、それが終わって善逸と暮らすようになれば、当然善逸に負担をかけないようにしたい。

それには嫁から恨みを買ったり、世間から恐ろしい人間だという評価を得たりしないようにした方がいい。
しかし善逸をひどく傷つけた嫁に何もペナルティを与えずにいたくはない。

さらに言うならそういう相反する態度と気持ちを持っていることを嘘が下手な炭治郎があえて言わないことはあっても極力嘘をつかないで良いように…。
そんな無茶な条件を全てクリアした案を考え出してくれた兄錆兎は天才だと炭治郎は思う。

彼自身が炭治郎と伯父のせいで随分と色々苦労をして世間を渡り歩いてきたというのがあるのだろう。
それなのにそれを恨みに思うことなく、その苦労して身に着けた思考力を炭治郎のために使ってくれる優しさに本当に感謝しながら、炭治郎は嫁に離婚を切り出した。


「え…離婚?」
元々帰宅する予定だった日に帰宅をしてその話を出した時、嫁は動揺した表情を浮かべた。

言い出される覚えはあるのだろう。
とぼけるかどうか迷っている嫁が口を開く前に、炭治郎は努めて冷静な表情を作って続ける。

「好きなヤツがいるんだろう?
それは良いんだ。別に責めるつもりとかないから安心してくれ。
まだ結婚してそんなに長くはないし、気持ちがなくなったのならお互い若いうちにやり直した方が良いと思う。
別に有責うんぬんと言うつもりは本当にないし、無職の君に慰謝料とか言うつもりもない。
息子…一彦は君が好きな相手とやり直すなら俺が引き取ろうと思っているが、どうだろう?
もちろん君は今無職で相手の給与で暮らすようになるんだろうから、養育費とかも要らないよ。
その代わり一彦にはなるべく早く母親のいない生活に慣れさせてやりたいから、養育費を取らない代わりに、離婚成立後は会わないって約束をしてほしい。
このマンションは兄が俺に資金を援助してくれたもので俺名義だけど、もし相手が結婚してくれるなら、相手と君名義にしてあげるよ。
そのかわり残ったローンも俺から相手名義に変わるけどあと5年で終わるし、すでに払い終わってる4000万は返せとは言わない。
さらに兄がくれた結婚の時に贈与してくれた資金をそのまま貯金していて、これは本来は俺個人の特有財産なんだけど、繰り返しになるけど君は専業主婦だったから収入がないしね。
当座ローンや生活に困らないように、これも俺が引っ越しとか一彦と住む家の準備とか諸々に必要になる分以外は渡そうと思っている。
とりあえず…それから家賃をだしていたから3千万あったのが1年半ほどで280万くらい減ったけどほぼほぼ残っているし、君には2千万くらい渡せばなんとかなるかな。
ということで、実質財産分与は君が4000万分の不動産+貯金2000万で、俺は720万の預貯金てことでいい?
君の分は俺の8倍以上になるけど、専業だったしな。
すぐには稼げないだろうから、俺はそれで良い。
これはあとで互いに揉めないように弁護士挟んで公正証書にしておく。
そんな感じでどうかな?」

嫁は浮気がバレたら当然責められると思っていたのだろう。
驚きすぎてぽかんとした顔をしていたが、炭治郎は淡々と

「俺は親族がほぼいない伯父がどうしても俺に子を残してほしいと言われて困っていて、そんなときに君が息子を産んでくれて本当に助かったし君にはその点においてはすごく感謝しているから」
と、続けると、嫁は感動したようだ。

「炭治郎…ごめんなさい。ありがとう」
と涙ながらに声を震わせて礼を言う。

そこで炭治郎はもう一声。
「でな、すぐ開放してあげたいところ申し訳ないんだけど、一彦と一緒に住むってことになると新居もどこでも良いってわけじゃないし、ちょっと時間かかるだろう?
家が決まらないと保育園も探せないし、次の家が決まるまでの間で良いから同居は続けて俺がいない間だけでも一彦の面倒を見てほしい。
最長でも1ヶ月以内には絶対になんとかするから。
で、本当に申し訳ないけどその間だけは君が恋人と会うのは俺が在宅している日や時間にしてほしい。
今までは実家に預けてたんだろうけど、今後それもできなくなるし、一彦も少しずつ俺と二人きりの時間に慣れさせたいし」
そう言うと、嫁はそれにも同意した。

色々な意味で息子の親権を主張されたら困るところだったのだが、嫁は息子には興味がないらしい。
炭治郎の子でないとしたら浮気相手の子かと思ったのだが違うのだろうか…

まあどちらにしても子に罪はないのだから、親の身勝手で片親になる赤ん坊に対しては出来る限りのことをして育ててやろう、と、その点については炭治郎は赤ん坊がこれから大変になるであろう母方に引き取られることがなくなってホッとした。



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