政略結婚で始まる愛の話_74_離婚

炭治郎がそれに気づいたのは結婚して1年半ほど過ぎた頃。

最初に──あ~…これは…決定だなぁ……と思った理由は大学の長期休みの間だけでもと会社に引っ張り出されて色々教わっていた夏休み。
支社に研修に行った時に帰宅が予定より2日ほど早まって帰宅したら、嫁が家にいなかった。
ダイニングテーブルに放置されたスマホ。
悪いと思ったが何か非常事態があったならわかるかもと開いてみる。

ロックはかかっていた。

しかし嫁自身はとっくに忘れているだろうが、以前彼女に頼まれて彼女のスマホで友人との写真を撮る時に電源が落ちてロックがかかるからと聞いた暗証番号は、未だに変わっていなかった。

なのでロックを解除して、Lineを立ち上げて見知らぬ名があったので覗いてみると男。
わかりやすくデートの約束やら、ピロトークの延長線上のような会話の数々。

それを見て炭治郎はLineを閉じてスマホも閉じ、つけた灯りを急いで消して、自室にこもる。

Lineを見るとまだ0歳の息子は嫁の実家にあずけていて今日デートらしいが、おそらく嫁は何かスマホをいじりながら支度をしている時にうっかりダイニングにそれを忘れたまま出てしまったのだろう。

待ち合わせの時間と場所を考えれば、まだ家を出てからそうたってはいないので、取りに戻ってくる可能性もある。

だから鉢合わせしないように…と、炭治郎は書斎に入ると目立たない小さな光源の間接照明をつけてスーツをハンガーにかけ、そのままソファに寝転がって社会人のマナーについて書かれている本を読んでいることにした。


ほんの数分後、炭治郎の予測の通り、鍵の音とドアが開く音がした。
自分のものよりは若干軽い嫁の足音。

──これ忘れたら大変っ
と、ダイニングの方からつぶやきが聞こえる。

もちろん炭治郎は声をかけない。
それどころか極力息を潜めて嫁が再度家を出るドアの音と鍵をかける音がするのをじっと待った。

そのまま念の為30分ほど待って、炭治郎は再度スーツを着てカバンを持つと、そっと自宅を出て自宅を離れるとネット検索。
出張の本来の帰宅日の明後日まではビジネスホテルに泊まることにする。

嫁の浮気を知った男の行動としてはどうなのだろう…と、思いはするが、炭治郎自身は他に好きな男を作ってくれた嫁にホッとしていた。
ずっと感じていた罪悪感が和らいでいく。
相手が独身なら炭治郎の考えていた時期よりは少しばかり早いが即離婚して、再婚の後押しをしてやりたい。

そんな風に炭治郎が思うのにはわけがある。

炭治郎にとってこの結婚はあと2年ほどしたら離婚する前提での結婚だ。
会社の実権を握っている伯父が炭治郎の同性の恋人に危害を加えないための結婚。

伯父にバレるとすべてが水の泡となるので相手には伝えていないのだが、顔の広い兄の友人が”結婚生活を長く続けることに重きを全く置いていないタイプ”の女性を数人紹介してくれて、その中からさらに”大企業の社長の息子である炭治郎”が好きそうな相手を選んだ。

それでも利用しているのは大変に申し訳ない。
なので伯父から権力を取り上げて炭治郎がある程度自由に生きられるようになって善逸の元に戻れることになった時には迷惑料として彼女が特別に贅沢をしなければ一生働かなくとも食べていけるくらいにと、兄が10憶円を用意してくれることになっていた。

そういう事情なので子が産まれたら子どもは可哀そうなことになると思って子は作らないつもりだったのだが、何故か出来た。
おかしい…と思いつつも嫁に内緒でDNA鑑定をしてみたら自分の子ではなかったのだが、恋人が同性である以上実子を持つことはないわけだし、別に自分の子として育てても全く構わないので、検査をしたこと、その結果は誰にも言わず、墓場まで持っていこうと思っている。

検査をしたのは、飽くまで子を産めないということで炭治郎の側の実家から拒絶された形の善逸が肩身の狭い思いをしないようにいうだけだ。

そういう事情なので、彼女に他に好きな相手ができたとしても、責める気は本当にまったくなかった。
むしろ彼女の相手が彼女との事を真剣に考えてくれるなら、こちらから頭を下げて彼女を送り出し、円満離婚をしても良いと思った。

ということで、彼女の相手が判るまでは浮気のことには触れないようにと、この行動なわけである。


ただ少しばかり気になるのは、嫁はまだ赤ん坊の息子にあまり興味がないらしく、下手をすると親権を放棄しそうに見えることだ。
まあ伯父にしてみたら炭治郎の子は絶対に離したくないのだから表面上はそれも円満と言えば円満なのだが、子にしてみたら血のつながっていない父親と同性のその恋人に育てられるというのはどうなのだろう?

色々な感情やら感傷がクルクル脳内を回る中、ホテルにチェックインすると、金銭的に物理的にもまず迷惑をかけるであろう実兄に離婚する旨を電話で報告した。

自分でも嫁に好きな相手がいるらしいことは今知ったばかりで具体的なことは離婚するであろうということ以外は何も考えていなかったので、詳細はあとでということでいったん電話を切る。

そうして一人きりの時間なわけだし少し落ち着いて考えようと思っていると、今度は兄の方から電話がかかってきた。


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