──兄さん、突然なんだが、俺、離婚するよ
といきなりかかってきた電話。
まあ子どもが産まれて時点で副社長も親権が取れるなら絶対にダメだとは言わないだろうが、だからと言って普通の生まれ育ちというだけでなく同性でもある善逸との仲を認めたりはしないだろう。
だからそういう意味ではこの時点での離婚にはあまり意味がないのだが…。
原因が炭治郎にあるのか嫁にあるのか。
この時期にと言うなら嫁の方か?
と秘かに思っているとその通りだったらしい。
『嫁に好きな相手が出来たらしいんだ』
と炭治郎から返ってきたのは実にシンプルな答え。
『元々俺は嫁を利用していたようなものだし、彼女に本当に好きな相手が出来たんだとしたら解放してあげたいし、いくばくかの生活が落ち着くまでの糧を渡してあげたいんだけど、今の俺には何もないから…。
それで、兄さんには本当に申し訳ないんだが、務めて給料をもらうようになったら返却していくからいくらか貸してもらえないだろうか…』
と、錆兎の側が援助する気満々でも申し訳なさそうに言う炭治郎。
「金の事は心配するな。
元々円満に別れてもらうための慰謝料に10憶ほどみていたから、全く問題ないぞ。
一応な、お前が生まれる前に俺に生前贈与されているが、実家の爺さんの個人資産は本来はお前も相続できるはずのものだったんだから、お前に使うのは当たり前だしお前は何も気にすることないからな」
と、それに錆兎はそう言ってやる。
正直母方の実家の資産ですら錆兎一人では一生かかっても使い切れないほどあるし、子ども達に遺すとしても彼らもまた普通に暮らしていたら使い切れないほどのもので、父方の資産は極力炭治郎のために使ってやろうと思っているのだ。
炭治郎はそれでもやっぱり申し訳なさそうに礼を言ってくる。
そうして今回はとりあえず報告と資金援助の依頼で詳しいことはあとで…と電話を切った。
炭治郎の電話を切って帰宅すると、その日は錆兎が最後だったようで家族全員揃っている。
そこで錆兎はとりあえず夕食時まで待って、食後の落ち着いたところで炭治郎から離婚する旨の電話があったことを皆に告げる。
そこでまず反応するのはなぜか義勇だった。
「それ…ひどくないか?!
善逸にあれだけのこと言っておきながら、愛がないから離婚って…!」
と大人しい義勇にしてはぷんすか怒っているので、当事者の善逸がなだめている。
義勇だけではない。
義勇の隣の子ども椅子に座った娘の桜も
「じぇーいちゅいじめたのにっ!!」
とスプーンを振りまわして、父親達が居ない間、おっとりしすぎな母二人では心もとないと桜の躾を一手に引き受けているまきをに食器を振りまわすのは行儀が悪いと怒られた。
「でもねっ、でもねっ、」
と興奮気味の桜はそれに不満げに訴えるが
「お行儀悪い子の言うことは正しいことでもきいてもらえないよっ。
スプーン置いてもお話はできるよね?!」
と注意されて、納得したらしい。
「…ごめんなしゃい…スプーン置く」
と素直に謝ってスプーンを置いて再度怒り始めた。
まあ昨今親でもきちんと躾が出来ない人間が多い中で、自分の子どころか宇髄の子でもない桜をきちんと躾けてくれるまきををありがたく思いながらも、錆兎は義勇と桜の言葉にひっかかりを覚えた。
善逸にあれだけのことを言っておきながら?
善逸をいじめた?
誰が?炭治郎が?それとも炭治郎の嫁が?
そこのところが気になって視線を向けると、義勇はむすっと
「…昼に善逸がたまたま新作パンを持ってきてくれたことがあって…その時に善逸の携帯に電話があったんだ。
その時どうせ電話がかかってくるのは雛鶴さんか錆兎だろうっていうことで、手が離せないからスピーカーにしてくれって言われてそうしたら知らない女で…。
なんでかわからないけど、炭治郎が跡取りになれないのは善逸とパン屋をやりたいとか言い出したせいだ、お前のせいだ、もう絶対に近づくな、連絡も取るなって…」
──…あ~?!なんだそりゃぁ…
錆兎もキレそうになったのだが、その前に宇髄がそうキレた。
いつも声高な男が低い声で静かにキレた。
「善逸も錆兎も悪かった。
別れやすい女が良いって言っても、こいつぁ俺の人選ミスだった」
と、まず宇髄は頭をさげる。
「いや、頼んだ俺の責任だから…」
と、錆兎が言うのはいいとして…
「いえ…俺が炭治郎に見合わないのは本当の事ですから…」
と善逸に力なくうつむかれてしまうと、さすがの宇髄も困ってしまった。
しかしそこで空気を読めないのか読まないのかはわからないが、
「でもっ!相手の不貞で離婚ならガツン!と行けますよねっ!!」
と、須磨が、そして義勇もおそらく無意識なのだろうが
「見合う見合わないというのは飽くまで本人が決めることだと思う。
そういうこと言い出したら俺だって錆兎に似合いだとは言い難いし…子ども連れて実家に戻らないといけなくなる…」
と、ナチュラルに錆兎をピンポイントでけしかける。
まあ…その発言に娘のみならず義勇の躾もする気満々のまきをに
──”俺”じゃなくて”私”!戸籍も変えたんだから言葉もちゃんと直さないと錆兎さんや子ども達も恥かくからねっ!
と、姉のように叱られるのはご愛敬だ。
ともあれ、その義勇の一言で、錆兎の脳内ではすでにこの一件は弟とその恋人のことという他人事ではなくなったらしい。
「そうだな。とりあえず相手には身の程を思い知らせないとな。
宇髄も協力するよな?!」
と、なんだか陣頭指揮を執る気になってしまったようである。
とりあえずそれにはまず一番の当事者である炭治郎の説得からだ、と、電話をすべく早々に自室に戻っていった。
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更新されたお話を早く読みたくて夜更かししてしまいました。動き出しましたね。円満離婚できるのはいいけど、これはちょっと。そもそも本当に炭治郎の子なんだろうか、なんて邪推してしまいます。
返信削除鋭いですね😎
削除久々に誤字報告です。「起こり始めた」→「怒り始めた」かと…ご確認お願い致します。(*- -)(*_ _)ペコリ
返信削除あけおめですっ。
削除今年もご確認&ご報告ありがとうございます✨
修正しました。