ファンタスティックタイム_5_モブ子について

今日は質問コーナーにも質問を送ったというリスナーからメッセージが来ていた。
…モブ子について……

「こんにちは。いつも配信を楽しみに聴いています。
ハキハキとした錆兎君の前向きな言葉に元気づけられ、ほわほわっとした義勇君の言葉に癒されています。
質問コーナーにも何度か質問を送らせて頂きましたし、リアルでも先日のお二人の夏休み全国ツアーにも足を運ばせて頂きました。
そんな風に日々水柱漬けの生活を送っている私ですが、最近一つ気になっていることがあります。
義勇君が放送中何度か口にする”モブ子”という同級生のことです。
この前もモブ子がくれたお菓子が美味しかったとか、モブ子に何かを手伝ってもらったとか会話の合間に呟いてましたが、一般の同級生の総称ということでしょうか?
それとも特定の女子なんでしょうか?
ファンとしてはどうしても気になるところなので、教えて頂けると嬉しいです」

錆兎は一応自分たちが芸能人でアイドルということでリアルの人間関係については同じ芸能人の姉達のこと以外は極力口にしないように気を使っているが、義勇の方は何も考えずにポロリポロリしてしまう。

特に女性関係はまずい、自分たちは良いが相手に迷惑をかけると義勇には口を酸っぱくして言うのだが、その時は頷いてもやっぱりうっかりポロリするのが義勇の義勇たるゆえんだ。
もうこれはどうしようもない。

しかしこのまま何もフォローをしないと非常にまずいことになる気がするので、錆兎はちょうど来たメッセージに便乗して説明することにしたのである。


「え~っと…たぶんこのリスナーさん以外にも気になっている人は多いと思うんだけど…モブ子は端的に言えば俺達の幼馴染で義勇の親友で俺の親友の彼女です。
ファンの皆の中には知ってる人もいるとは思うけど、義勇は女の子物の服のモデルするくらい可愛い顔立ちしてたんで、女の子と間違われることがめちゃくちゃ多かったんだ。
で、幼稚園で一緒になったモブ子は最初義勇を女の子だと思って仲良くなって、その後も異性というより同性の友達って感じの付き合いで…。
俺は俺で小学校にあがったあたりで義勇とは別に男の親友が出来て、俺と義勇が一緒に居るから俺の親友とモブ子も一緒に居ることが増えて、いつのまにか二人が付き合い始めてたって感じだな。
義勇とは本当に同性の親友の延長線上だから、性別は気にしないでくれると嬉しい。
…というか、今でもモブ子は義勇を自分自身より女子扱いしてる気がするし」
と、さらりと流す形で説明をしようとする錆兎だが、そこで義勇がまた爆弾を落とす。

──モブ子は本名だから。俺は親友をその他大勢扱いでモブとか呼ばない。
と、そこにひっかかりを覚えたらしく頬を膨らませた。

本人は大切な友人をそんな扱いすると思うなと言いたいのだろうが、これはまずい。
非常にまずい。

これがよくある名前とかならそこまで気にすることもないかもしれないが、百舞子(もぶこ)という名前はすごく珍しい。
もしかしたら全国の同年齢の女子の中で1人きりかもしれない。
絶対に身バレする。

ああ、明日は学校に行ったらモブ子に土下座だが、それで済むだろうか…。
いや、済まないよな…

くるくると色々が回って一瞬言葉が出ない錆兎に視線を向けて不思議そうに小首を傾ける義勇。


それでもその日もなんとか配信を終わらせて、帰宅後、社会経験も芸能人経験も豊富な姉の真菰に泣きつくと、

「うん、それならいっそ彼氏の村田君も巻き込んで、一般人が手を出せない立場に置いちゃおう。
事務所が今度正式にあんた達の公式ファンクラブを作るって言ってたから、その会長副会長に村田君とモブ子ちゃんを据えてもらうよう、あたしが交渉しといてあげる」
と、頼れるお姉さまが請け負ってくれて、錆兎はようやくホッと肩の荷を下ろせた。

幼少時から何でも出来る優秀なお子さん、神童と称えられることが多々あった錆兎だが、本当に本当に、そういう人間関係は姉にかなう気がしない。
真菰様々である。


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