政略結婚で始まる愛の話_55_用心の日々

実弥の可愛い後輩たちはなかなか優秀だったようだ。
あっという間に錆兎に斬りかかった男を特定。
そのバックにいる反社会的勢力を割り出し、その上の組織に実弥が土産を手にご挨拶にいったらしい。
もちろんその手土産の黄金の菓子…もとい学問ノススメの著者の印刷された紙の束のでどころは錆兎だ。

実弥に言われるまま理由も聞かずに用意したのだが、それがそんな風に使われるとは思ってもみなかった。


錆兎を襲った男は組織の下っ端で、しかも組織の方の許可を得ずに勝手に個人的に金を受け取って勝手に行動を起こしたらしく組織でも処分対象だったということで、組織で依頼主を吐かせて男を引き渡してもらえたらしい。

思った通り仲介したのは冨岡拓郎の秘書だったので慎一に連絡を取り、最終的に警察へ。
実行犯の男と直接つながっていたのは秘書だったため、拓郎は不起訴にはなったものの、さすがに退任させられ、こちらもしばらくドタバタが続きそうだがなんとか慎一が実権を握れそうだ。


「おめでとう…と言っていいんだよな?」

テレビでは今回の諸々は鱗滝財閥とのつながりを強化したい息子の慎一と独立性を保ちたい父の拓郎との対立から来たお家騒動として放映されている。

そのニュースを見ながら慎一に電話をかけると、
『あ~…まあ、いまだ親父の息のかかった爺さんたちを抑えるのに奔走してるけどな。
でもさすがに秘書が個人的な付き合いは絶対にない別企業の要人に対して刑事事件起こしてたら、親父も無関係とは誰も思わねえし、もう舞い戻ってくるのは不可能だろうな』
と、それを目指していたわりには疲れた声で慎一が言う。

ある意味こちらも宇髄コーポレーションと同じように突然行われることになった社長の交代劇にバタバタとしているのだろう。
いや、ことがことなのでマスコミ対応もあるだけ宇髄よりもまだ忙しいか…。


何か協力できることがあれば…と思わないでもないのだが、錆兎自身もつい先日辞表を出してから今月中に移れるようにと引継ぎ関係で目が回るほど多忙なので、たいしたことができそうにない。

それを詫びると
『いや…こっちよりお前の方が気をつけろよ?
一応こちらでも親父の監視はつけているが、刑務所と違って閉じ込めておけるわけじゃねえからな。
逆恨みで自分で刺しに行きかねねえ』
と、どこまでも自分の事よりも他人の事を考えることが身についているのだろう。
気づかわし気に言われて錆兎はその気遣いに礼を言った。


確かに錆兎自身の身の危険もないとは言わないが、今いちばん気をつけなければならないのは、腹の大きい義勇の姿を見られないようにすることだろう。
義勇の父親にも見られたらまずいが、副社長にバレるのはもっとまずい。
さらに言うなら、利害の一致でその二人に手を組まれたりしたら厄介だと思う。

なので義勇には錆兎自身は帰ってきたら自分で鍵を開けて入るから絶対に来訪者があっても絶対に応対するなと言ってあるし、届け物はコンシェルジュで預かってもらって錆兎が帰宅時に受け取るようにした。

まあ帝王切開になるということでこのマンションでの出産は無理なため、妊娠がわかった時点で購入した医療設備を運び込める大きな一軒家がもうすぐ完成するため、このマンションとも近々お別れである。

そのあたり、もちろん引っ越しがバレないようにと言うのは無理なため、副社長には自宅にいることの多い義勇がガーデニングを楽しめるように庭付きの家に越すことにしたと事後報告でもするつもりだ。

副社長的には子が産めぬはずの同性の伴侶で錆兎が満足してくれればそれが一番だと思っているので、義勇のためと言えば特に言及されることもない。

ただし…子が産めない前提の対応なので、腹に子がいるとなれば何をされるかわからない。
だから引っ越しの移動の時には本当に気をつけねばならない。


新しい自宅は警備にはかなり力を入れた物件なので着いてしまえば一安心なのだが、それまでは日中は錆兎も会社だし義勇を一人で居させるのは不安なので、宇髄の3人いる内縁の妻達が来てくれている。


そうしてなんとかやりすごし、翌日にようやく環境が整った新居に引っ越しということになって心の底からホッとして、会社の方の引継ぎもなんとか終わったので有休を取り、なんのかんので長く過ごしたこのマンションでの最後の夜を義勇と二人でまったりと過ごそうとしていた錆兎の携帯で着信音が鳴り響いた。

相手によって変えているその着信音は今一番聞きたくない相手…副社長からで、錆兎は嫌な予感に駆られたが、ここで無視をするとさすがにあとが怖い。

なので仕方なく通話をタップした。


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