──それ、いつどこでだ?こちらでも調べてみる。
錆兎が切りつけられた報告をすると、慎一はなんだか嬉しそうな声で言う。
それに、え?え?俺こいつにそこまで嫌われる事したか?
と、思う錆兎だったが、なんのことはない、
ということらしい。
「え?でもお前、前に犯罪者の家族には…とか言ってなかったか?」
と言えば、電話の向こうで苦笑。
『俺は残る。で…おふくろと弟2人は海外だな。
とりあえず親父がいなくなれば今よりは会社で権限が出来るし、会社を立て直して3人に不自由ない生活をさせるくらいはまあ、死ぬ気でやればなんとなる気がする。
会社で特許もいくつかかかえてるし』
とどのつまりは家族の生活のために自分だけ残って矢面にたつということか…。
長男の鑑のような男だと思う。
自分は長男であることよりも、自身の幸せを選んでしまった錆兎としては余計に…。
彼がそんな道を選ばざるを得なくなった一因が錆兎の愛する伴侶だったりするので、なんだか申し訳ない気にもなったが、それを口にすると相手は苦笑して
──いや、逆だろう。家庭の問題に巻き込んでいるのはこちらのほうだ…
と、言うと、最終的に双方どちらかが犯人を突き止めたら連絡をする約束をして通話を終えた。
通話を終えて寝室に戻ると、眠っていたはずの義勇が半身起こして待っていた。
そしてどこか不安げな表情で戻ってきた錆兎を見つめている。
「義勇、どうした?
ちゃんと寝ないと身体によくないぞ」
と、慌ててかけよる錆兎に
「…錆兎…もう、いい。良いから……」
と、義勇は泣きながら笑った。
「は?」
何が良いのか全くわからない。
ポカンとする錆兎に義勇が、それ…と指差したのは、今日切られたカバンの代わりに実弥が用意してくれたカバンだ。
「…?カバンがどうした?」
ひっくひっくと目の前で嗚咽する義勇の泣いている理由が分からずにオロオロとする錆兎に、義勇は両のこぶしで目元をぬぐう。
腹がもう大きくて、その中には子がいるというのに、そんな仕草は幼子のように愛らしい。
「な、俺は何をてしまったんだ?
理由を教えてくれ、理由を。
ちゃんと謝るからな?」
そう言って冷えないようにと義勇の肩にガウンをかけてやると、義勇はぽろり…とまた涙を一粒。
そして言った。
「…カバン…くれた女性と電話してたんだろ…?」
「はああ????」
何故そうなる?本当に何故そういう発想になるのかがわからなくてポカンと口を開けて呆ける錆兎。
それを別の意味にとったのだろう。
「…いいんだ……。元々錆兎は家のための結婚だったし……子どもできたのだって普通ありえないレベルの想定外の出来事だったし……錆兎のせいじゃない……
好きな女性が出来たなら、夜中にこっそり電話とか、そんなことしないでいい…
俺は…1人でもちゃんと子ども育てるから……」
大きな瞳からポロポロ涙をこぼす最愛の伴侶に、
「あ~の~なぁ~~~見るか?履歴」
と、錆兎は大きく肩を落としてスマホを立ち上げると、通話履歴を出して義勇に差し出した。
当然そこにある名前は……
「しんいち……にい…さん?」
大きなまんまるの目がさらに大きくまんまるになって、こぼれ落ちてしまうのではないかと心配になるほどだった。
「そ、カバンをくれたのは実弥。
前のカバンを不注意で壊してしまってな。帰りに寄った時にちょうど新しいの一つあるっていうから。
で、義勇の出産とか諸々で慎一とは定期的に連絡とってて、今電話してたのはそれだ」
「え……じゃあ……」
見る見る間に赤く染まる頬。
「本当に…いい加減俺の愛情信じてくれたかと思ったら、まだこれか。
甘やかし足りなかったな。
俺は自分の伴侶も自分の子も絶対に手放す気はないから、いい加減、執着されまくる覚悟をしておけ」
そう言って頭をガシガシ撫でると、義勇は錆兎にだきついてわんわん泣き出した。
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