政略結婚で始まる愛の話_53_急展開4

「誰がやったのかわからねえし、危ないから家まで送ってやるわ」

すぐは無理にしてもなるべく早い段階で宇髄を助けるために転職してくるということで話がまとまったあと、さあ義勇の待つ自宅に帰ろうとすると、実弥が自分も上着を着て外にでる準備を始める。

いやいや、タクシー呼んでもらえばそれで良いから…と錆兎はそれを固辞するが、実弥はきっぱり
「タクシーじゃぁ安全とは言えねえだろォ。
車ごとひっくり返されたら終わりだからなァ。
いいから待ってろ」
というと、なんと”可愛い後輩達”に電話をかけているようだ。


「よお~!今から会社来れるやついるかァ?
最低でも車一台囲めるくらいは欲しいんだが。
おう、そうだ。あ~、別に単車組いてもいいぜェ?
単になぁ、ふざけたことする車とかいたら、どついてやりてえだけだ。
そうだなァ。じゃあ、よろしくなァ」

それで通話を終わらせる実弥。
これ、どう考えても暴○族の車で帰れってことだよな……いや…わざわざ来てくれるのはありがたいけど……

「お前の可愛い後輩たちが護衛してくれるって?」
と言いつつ向ける笑顔がひきつる。
数十分後、会社の前にずらりと並んだ単車と、それに囲まれた車をみて、さらにひきつる。

道ゆく人達がなにごとか?と驚いて向けてくる視線が痛い。
それでも彼らは赤の他人の錆兎のために時間を割いてくれたのだ。
礼を言っておとなしく用意された車に乗った。

こうして実弥に伴われて”特別車”でマンション前まで。

「わざわざ時間を割いてもらったんだ。
これでなんか旨いモンでも奢ってやってくれ」
と、錆兎は念の為とエントランスまでついてきた実弥に大卒の初任給くらいの紙幣を渡す。

「え~。別に気ぃ使わなくてもいいんだぜ?
錆兎がいなかったら、俺も就職どころか卒業できてねえし?
これからも助けてもらうことになるんだから」
という実弥に

「お前にじゃない。
お前の可愛い後輩たちにだから、ちゃんと奢ってやってくれ」
と言うと、
「んじゃ、今回来てねえけど色々調べるのに動いてもらってる奴らも呼んで、みんなで焼き肉でも食わせてもらうわ~。さんきゅー」
と、実弥はそう言って後輩たちの元へと戻っていく。

そうしてもう攻撃なんてされようがない方法で帰宅をした錆兎は、エントランスからエレベータに乗る。


カバンはもう少しで産み月な義勇がショックを受けると困るので、とりあえずと実弥に用意してもらったものだ。
これが服だったりするとサイズもあるし今言ってすぐというわけにもいかないので、カバンで良かったなぁなどと、その新しいかばんを見て呑気に思う。


「ただいま~」
と帰る我が家。
「おかえりっ!!」
と飛び出してくる嫁。

腹がもうだいぶでかくて、危なっかしいので飛び出してくるのはやめて欲しいと常々言っているのだが、聞いてもらえずハラハラする。

「俺、転ぶと怖いから走るのはやめてくれって言わなかったっけかな?奥さん」
飛びついてくるのを受け止めながらも、そう言って苦笑する錆兎に、
「だって…いつもより遅かったから……待ってたんだ」
と、萎縮することなく答えるようになったのは、まあ前進したのかなと思う。

なにしろ自己肯定感が地の底まで低くて、さらに籍を入れたきっかけもきっかけだったせいで、本当に好きだ大切だと言っても全然信じてもらえない時期が続いたのを、毎日毎日、自分にとって義勇がどれだけ大切なのかを語って聞かせ続けたのだ。

なかなか根気のいる作業だった。
でもおかげでこうやってちょっとくらいなら注意しても怯えずに、甘えてくれるようになった。


「わるい、わるい。
このところ言ってたけど、宇髄を助けるために転職しようと思って辞表出したんで、呼び出されてな。
それが終わったら、今度は実弥のとこに行ってたから」
…というと、大変だな、お疲れ。と、脱いだ上着を受け取ってハンガーにかけてくれる。

嘘は言っていない。
だが、お腹の大きい伴侶に心配をかけてもいけない。

それでなくとも、本来出来るはずのないこどもが出来て、産むまでは全てが未知の状態で、そっちでいっぱいいっぱいなのだ。
とにかく義勇に気づかれる前に、色々を解決してしまわなければならない。

その日はいつもの通り錆兎が食事を作って、悪阻も収まってきた義勇に栄養のある食事をたっぷり取らせると、滑ると危ないからと一緒に風呂に入って洗ってやって、あがったら早めにベッドに放り込む。

もちろん義勇が寝付くまでは自分も一緒に横たわって添い寝。
その後こっそり抜け出した。

そうして電話をかける先は慎一のところ。
今日の一連を報告して、情報を共有して置かなければならない。




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