政略結婚で始まる愛の話_52_急展開3

「錆兎、ずいぶん個性的なカバン抱えてんなァ。
なんか今の流行りかァ?」

必死の形相で宇髄コーポレーション本社ビルに飛び込んで、宇髄は忙しいだろうからと、受付で実弥を呼び出してもらう。

そうして案内された部屋で待っていると、まあすぐ人物が特定できるような、バタバタとそれはそれは騒々しい音をたてて、実弥が飛び込んできた。

「会社やめてきてくれたのかァ?!!」
と、まずノックもなしにドアを開けての第一声。
「退職届を出して半日でやめられるわけがなかろうっ」
と、それに思わず立ち上がってツッコミを入れる錆兎。

そこでくるくると動き回る実弥の興味は錆兎が座っていたソファの横に置かれたざっくりと切られたカバンに移ったらしい。

そして冒頭のセリフ…

言っている言葉はふざけたものだが、実弥の目がすぅっと殺気を含んで細くなる。
ああ…これはちょっとやばいものを呼び覚ましたか?…と思いながらも、錆兎はとりあえず

「こんな流行り、俺は嫌だぞ。断固拒否する。
こんな流行りなら俺は流行りに逆行して生きる」
と、きっぱりとそれを否定した。

すると今度は
「ふ~ん、それなら誰にやられたんだァ?」
と、声が低くなる。

いつも少しばかり強面の容姿に似合わず面倒見が良く気のいい兄ちゃんなこの男だが、怒らせると一転、やんちゃをしていた頃の何かが顔をのぞかせることがあった。

まあ、はっきり言えば実弥は元ヤンというやつだ。
恐ろしいことに中学から高校までは、このあたり一帯の総番だったという過去を持つ。


「言えよォ?
隠し立てはなしだぜェ?」
そういう実弥は笑顔だが、目が笑っていない。
気のせいなのだろうが、室温が一気に下がった気がする。

「俺のダチを切りつけるってことは、それなりの覚悟があってのことだよなァ?」
という目はすっかり現役。

これ…ここに駆け込んだのはやばかったか?
と思って顔が引きつった。
被害者を脅してどうする?と思うが、本人は別に脅しているつもりはないのだろう。
単に加害者に腹をたてているだけで……

「いや…会社出たら急に切りつけられて…避けたんだけどな。
体制崩してたから逃げられた」
と、錆兎は正直に状況を伝えた。

すると、実弥は黙って内線を取り、
「ああ、俺だァ。
会社の入り口に防犯カメラあるだろ?
ここ1時間くらいのデータを俺の携帯に送ってくれェ」
と、指示。

しばらくしてどうやら送られてきたらしい。
すると、今度はその携帯でどこへやらメール。
そして電話。

「おう、俺だァ。久しぶりだな。
データ見てくれたかァ?
おお、今送ったやつな。
そのナイフ持って写ってる男探してくれや。
おう、若いのも使って。
見つけた奴には今度なんか奢ってやるからよォ。
ああ、そうだ。
見つけたらいつもの場所にご招待してやってくれェ。
で、俺に連絡してくれなァ?
おう、さんきゅー。頼むわ」

…………
…………
…………

どこに連絡したのかわかった気がする…
というか、まだ色々つながりがあるのか…。


スマホの通話を終了すると、
「んじゃ、この件は俺の可愛い後輩たちが調べてくれるって言うからお任せだァ。
で?錆兎、うちに来れそうなのかァ?」

関わりたいかというと関わりたくはなかったりもするのだが、実弥の可愛い後輩たちには素直に感謝する。

そして、
「まじ、悪気はないんだろうけど、なんで重役みんなあんなに仲悪いんだろうなァ。
ガタガタなんだよォ。
宇髄はなんつ~か…どっちかっつ~と少人数行動の方が得意で、大勢をまとめるとかあんま得意じゃねえみたいだしなァ
なんとか一刻も早くこっちにこれねえかァ?
錆兎、そういうのまとめたりとか、めちゃくちゃ得意そうだろォ」
と、電話を終えたら一転、いつもの情に厚い気のいい兄ちゃんに戻っている変わり身がすごいと錆兎は感心した。

ああ、自分の半日でやめてこれないというのをもしかしてやめられないととったのか?
そう思って
「いや、退職届は受け取ってもらえたから、最終的に転職は出来るけど…」
と伝えると、実弥は
「早くしてくれなァ、下手すると潰れかねねえ状況なんだよ…」
と、情けない表情で眉尻をさげる。

「…潰れる?宇髄が?」
「それと会社も」

主語がないので口にした質問に返ってきたその答えに、いくらなんでもトップが亡くなったからって2日で潰れる会社はないだろうよ…と、錆兎は頭を抱えた。


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