──まあ…医療関係あるあるかもしれんが……
と、慎一が話し始めた内容は、決して”あるある”ではないと錆兎は思う。
こんなことが“あるある”と言うほどあったら、世の中空恐ろしすぎだろう。
思わず声がでかくなりかけたが、リビングにはソファで眠っている義勇がいる。
それを思い出して錆兎は慌てて声のトーンを落とした。
「…そんなこと…現代の医学で可能なのか?!!」
携帯を手で包み込んで声を隠すように、コソコソっと話す錆兎に、おそらく電話の向こうの慎一は近くに人がいなくて1人なのだろう。
おそらく機密レベルの話になるのであろう会話も、ごくごく普通のトーンで返してくる。
『うちの医療チームと研究チームの中では女性体に関してはまだ未知数だが、男性体に関してはだいぶ進んできた。
というか、半分以上完成したと言って良いだろう。
マウス段階ではかなりの確率で成功しているらしい。
まあ非常に簡単に言うとな、人間は最初はみんな女性体として出来て、途中で男性体に枝分かれする。
で、枝分かれ段階で、男性として必要なものが育って、女性特有の機能というのは育つことなく残骸となっていくわけなんだが、この残骸となった子宮部分の成長を促すため、薬を投与して、強引に子宮を作るってわけだ。
ただ、実際に実用化できるかというと、倫理的な問題とか色々あって難しい。
それこそ遺伝子治療や出生前検査ですら賛否両論あるわけだからな。
で、あのクソが愚弟にその処置を施すことに踏み切ったわけは、さっき言った通り、自分が惚れた女に自分が産ませたと思っていた愚弟が他の男の子だったから。
今度こそ自分のガキを産ませたかったらしい。
で、確実に自分の子を産ませたいと色々調べて、その一つが、感じたほうがデキやすいってことで、そのための暗示が、その時期にアマリリスの香りを嗅ぐとおかしくなるって暗示だったんだと。
だからお前が前に言ってたのは、アマリリス効果だったのかもな』
「…まじ…か……」
本当にまったくもって恐ろしい。
結果的にはそのおかげで錆兎はおそらく自分と伴侶の子を持てて、家族ができるわけなのだが……
『とにかくそういうわけだから、生むのかおろすのかはそっちで決めてくれ。
望むなら子宮を取り出す手術もするが?』
淡々と言う慎一に錆兎は慌てて否定した。
「なんでそうなるんだっ!!
俺の子だぞっ!!なんで殺すとかそういう話になるんだっ!!
生むっ!産ませるに決まっているだろうがっ!!」
おろすなんてとんでもないっ!!
そう語気も荒く言い放つと、
『自然分娩はできねえし、医者は俺がこっちで信頼できるあたりを手配する。
ただ医療施設は会社関係のものは使えねえし、買うしかねえんだけど…用意できるか?』
「数千万単位くらいならすぐ。
まあ…数億でも出せと言われるなら早急に用意するが…」
現金の預貯金とその他の金融資産を脳裏に浮かべてそう言うと、
「十分すぎだ」
と、少し緊張したようなような慎一の声音が安堵したように柔らかくなった。
金融資産を処分すれば数百億くらいまではなんとかなりそうだが、子どもは生まれたら終わりというわけではなく、育てていかなければならないので、ある程度は残しておきたい。
特に自分達の場合、色々と秘密を保たねばならない相手がたくさんいるのだから…。
物理的には困難な事だらけだが、そんなことも可愛い嫁とその嫁との可愛い子どもが手に入ることを考えれば、たいしたことではない。
とりあえず今後の打ち合わせ後、慎一との通話を終えた錆兎の顔には自然と笑みが浮かんでいた。
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