政略結婚で始まる愛の話_46_驚愕の事実5

『ちょうどよかった。今電話をかけようと思っていたところだったんだ』

慎一に電話。
コール音ふたつでつながった瞬間、スマホの向こうの相手はそう言った。

まさかこの事態を予測するような何かがわかったのか?
もしそうなら、少し嬉しいと錆兎は思った。

実弥から話を聞いても錆兎はまだ半信半疑だった。
だが、本当だといいなと思っている。
だって義勇と暮らし始めて、家族と暮らす楽しさを自覚したあたりで思ったのは、子どもが持てないのは少し残念だなということだったのだ。

そんな僅かな失意の気持ちも義勇がいるからまあいいかと流れていったのだが、義勇も子ども両方手に入るとなったら、それに越したことはない。

義勇は拒絶されるのではないかと泣いたが、錆兎にとってはあまりに良い事づくしで、本当に子どもができたのだとしたら喜ぶ要素しかない。
むしろこれがなにかの間違いだったとなった時に、過度にがっかりしないように気をつけなければならない。
義勇はなんにせよ自分に失望されるというのを過剰に恐れているので、ストレスを与えすぎることになる。

そんなわけで、今回の普通はありえない事態について話そうと思って電話をかけた時に、向こうも何やらわかった事があると言われて、錆兎はこれが本当のことなんじゃないかと期待した。
思い切り期待した。


「ああ、そうなのか。
じゃあ、こっちの話は長くなりそうだし、そっちの要件から頼む」
そう言うと、よく世間様であるような無意味な譲り合いをすることもなく、慎一は、
『そうか、じゃあ俺から話す』
と、話し始めた。


『報告しておく。
以前愚弟が誘拐された時にラボにいた研究者を1人捕まえて、かなりのことを聞き出すことができた。
まず最初に…オヤジは愚弟のDNA鑑定をしたらしい。
結果、愚弟の父親は俺らの親父ではないとわかった。
誰というのはわからないが、状況からすると親父が引き離した愚弟の母親の恋人だろうな。
親父が彼女を手に入れた時に、おそらくもう愚弟が腹にいたんだろう』

初っ端からそれで、錆兎もさすがに驚いた。
そんな錆兎に構わず、慎一は淡々と続けていく。

『…ってことで、愚弟と言ってはいるが、実は俺らと愚弟の間には血の繋がりはないということが判明したわけだが…まあ、それはいい。
戸籍上は兄弟だし、親父がやらかしたことを考えるといやでも俺が面倒をみなきゃならん相手だというのは変わらん』
と、その言葉に、錆兎は苦笑した。
言い方や発言は優しげとはいい難いが、慎一はいいやつだと思う。

それを実際に口にすると、
”いいヤツ”じゃなく、”都合のいいヤツ”ってやつだな』
と、自虐的な答えが返ってきて、思わず吹き出した。

すると
『いいから、本題はそこじゃねえ。さっさと続けるぞ』
と、面白くなさそうな声が返ってきて、了解すると話が続けられる。


『ここからは絶対に他言無用というか…世間様にバレたらうちが破滅するから言ったら殺すぞ』
と、そこでいきなりすごい発言が飛び出してきた。

「ああ。まあ俺は義勇が健やかならなんでもいいし、戸籍上の自分の実家が破滅したら義勇が嫌だろうから言ったらやばいことは言わないが?」
と、錆兎が答えると、一瞬の間……

──それは…そっちの条件から逸脱することになっても…か?

探るように言われて、ああ、もしかしてソレに関することか…と、錆兎は半分確信してやや期待を強くしながら言う。

「あ~前言撤回させてくれ。
先にこっちの要件話しておく。
なんだかな、義勇の体調が悪くて色々あって妊娠検査薬なんて試してみたら陽性だったんで、”そんなこともある”んだったら、子どもを生む環境整えないとならん。
だから有り得る話なのか、生むとしたら医者もいるだろうし協力してもらえないかと思って連絡してみたんだが…」
そう言うと、電話の向こうで息を飲む気配がする。

『………………………”子どもができない”って条件は良いのかよ?』

「ああ、そのことについては義勇にも言ったんだけどな。
なんだか副社長が持ってきた釣書見た限りそんな意図が見受けられた気もするが、俺はそんなこと了承してないし、俺自身はあっちが持ってきた大量の釣書の中から、一番気に入ったやつを選びだしただけで、なんの条件もつけてない」

錆兎のその言葉に、心底安堵したようなため息。

「本当に…愚弟の相手がお前みたいにこだわりのない男で良かったよ…」
と、しみじみとした口調で言うと、慎一は、まあ驚かないで聞いてくれ…と、話し始めた。



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