「…さ…さびと…やだ…やだやだやだっ……」
目を覚まして錆兎が膝枕をしていることに気づくと、義勇はパニックを起こしたように泣き叫んで飛び起きた。
「おい、気をつけろっ!」
と、錆兎が慌てて倒れかかるその半身を支えるが、義勇はそれを押しのけようとする。
が、力の差は歴然として、
「お前、落ち着けっ」
と、錆兎の腕のなかにかかえこまれた。
「大丈夫…大丈夫だから。全部俺がなんとかする。
だからあんま暴れるな。
身体に障るだろ」
そう言っていつも義勇をなだめる時のようにぽんぽんと軽く背を叩くと、少し冷静になったのか、力ではかなわないことを悟って、義勇はシャクリをあげながらも、錆兎の腕の中でおとなしくなった。
「…さびと…おれ…っ……できたかもって……」
と、泣きながらとぎれとぎれに言う義勇の頭を錆兎は優しくなでながら、
「あ~聞いた。
とりあえず本当にそんなことがあるのかはっきりさせて、本当ならちゃんと医者に見せて…あとは子ども育てる環境作らないとな。
ここじゃあ小さいうちは良いが、大きくなってきたら部屋足りないし。
セキュリティはここくらいしっかりしてて、でももう少し広い家を探さないとな」
と、それは困るようなことではないのだと言うことを暗に伝えると、義勇はおそるおそる顔を上げた。
「…子ども…できないから、俺と結婚したとかじゃ…?…」
涙でいっぱいの大きな目。
こんないとけない様子の伴侶と子どもがデキたから別れるとかどれだけ外道だよ…と、錆兎は内心思う。
「俺がいつそんなこと言った?
確かに副社長はそんな意図があって集めたのかもしれないが、俺は単にこの中から選べって大量に並べられた釣書と写真の中から義勇を選んだんだ。
子どもは好きだし、義勇の子どもがいたら可愛いと思うし、ちゃんと育児もするぞ?」
…本当にそんなことがあったらいいな、と、ぎゅうっと抱きしめて、義勇の広い額に口づけると、義勇は少し安堵して落ち着いたらしい。
コトンとおとなしく錆兎の肩に頭を預けた。
さて、義勇のメンタルの方は大丈夫そうだとして、あとは情報を集めて状況をはっきりさせなければならない。
関係ないと言っても副社長に知られると面倒なことになるし、自分が面倒なだけならいいのだが、義勇や万が一いるかもしれない腹の子に危害を加えられることになるのは避けたい。
とすると、とてつもなく珍しいケースなだけにきちんとした病院でなおかつ秘密裏にとなると難しい。
あいにく出身は経済学部なので、医療関係に知り合いはいないし……と、考えた瞬間に思い出した。
そうだ!そう言えば義勇の実家は製薬会社じゃないか。
とすると、その総括をしている慎一ならアテがあるかもしれない。
そもそもこうなったことについても、何かわかるかもしれないし、協力を求めればいいんじゃないだろうか。
「とりあえずトマトでもなんでも食えるなら食っておけ。
実弥、悪いが時間があるならキッチンであっさりしたもん片っ端から作ってもらって良いか?
俺も色々調べるから、宇髄はちょっとここを頼む」
義勇が完全に落ち着いていることを確認後、錆兎は義勇の頭をもう一度ひと撫ですると立ち上がって、あとを親友たちに任せて、慎一に電話をするために自室へとむかった。
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