「義勇どうしたんだっ?!!」
錆兎が帰宅すると、リビングのソファに寝かされていて、その正面で宇髄と実弥が座っている。
だから錆兎はその状況を見て何かあったのだろうと、青ざめた。
錆兎がリビングに入ってきた時には、宇髄は何か考え込んでいて、錆兎の姿を認めると、少し不思議そうな不可解そうな顔を錆兎に向けていった。
「なあ、錆兎。
お前らさ、やることはやってるんやんだよな?」
「はあ??やることって…」
あまりに唐突な質問に、錆兎はぽかんと口を開けて呆ける。
「夫婦でやること言うたら一つしかないだろうが」
「あ~…うん…まあ、…そう…だよな……」
飽くまで天気の話をするようにあっけらかんとそんなことを言うが、錆兎はあまり恋愛関係は得意ではないので、どこか気恥ずかしい。
が、宇髄の顔は別にふざけた様子もちゃかしている様子もないので、その会話に何か意味があるのだろう。
「…やったと言えば…やってるけど……それがなにか?」
「…初めてだったとかは…女じゃねえしわからねえよな?」
「いや?普通に初めてだと思うけど?
本人すごく戸惑ってたし…義勇はその手の演技できるタイプじゃないと思う」
「ふむ…」
「…なんなんだ、一体。
それが今義勇が寝ているのと関係あるのか?」
義勇が寝ていることに関して何かあるのだろうとは思うものの、宇髄の様子を見ると、別に緊急を要する事態には見えない。
しかも謎な質問。
さすがに何をいいたいのかわからずに首を傾げていると、宇髄はやっぱり複雑な表情で立ち尽くす錆兎を見上げて言った。
「あのな…錆兎。
落ち着いて聞けよ?」
「ああ」
「俺が来たときはな、坊ちゃんは起きてたんだよ」
「ああ?」
「で、土産に持ってきたトマトな、生なら普通に食べれだんだが、火ぃ通したら匂いがダメだって、戻したんだ」
「…?…そうか…」
「でな、話聞いてみたんだがな?
匂いがすごく気になったり、眠かったりダルかったりとかな…なんか、うちのとこの女子社員が言ってたのと、めちゃ似てる気がしてな」
「?」
「たまたま頼まれて買ったんだが要らなくなったっていう検査薬持ってたから、ありえねえよなぁと思ったんが使ってみさせたら、まさかの陽性だったんだ」
「…???」
検査薬??なんのだ???
と、きくまでもなく投げてよこされるブルーと白の箱。
それを見て、錆兎の頭の中にはますますハテナマークが飛び交い始めた。
「ちょ、待てっ!
義勇はこんな可愛い顔してるし、やった時は確かにごっこ遊び的にドレスとか着させてたけど一応性別は男だぞ?!!」
「それはわかってるけどな。
最初はねえなと思いつつ試させたんだが、結果見て思い出したんだよな…」
「なにを?!」
「坊ちゃんの親、製薬会社の社長だろ。
でもって…昨今のジェンダーレスの流れから男でも赤ん坊をつくれねえかって研究しているチームがあちこちであるって…
確か坊ちゃん一度父親に誘拐されてラボから救出されたってことあったって言ってたろ?」
「………」
「まあ、どっちにしろ本人が今マジ動揺しててな…」
「そりゃ動揺するだろうよっ!!」
錆兎だって自分が子どもを作る可能性は考えても、自分が子どもを身ごもるなんて思ったことはない。
男に生まれたからには誰だってそうだろう。
だが、宇髄が言う動揺はそういう理由ではないらしい。
「あのな、お前は子ども出来たらまずいか?
坊ちゃんは出来ねえはずの自分に子どもが出来たかもって言うことより、お前の子どもが出来たことのほうに動揺してる気がするんだが……」
「あ~そっちか…」
男である義勇に子どもが出来たことのほうが大変なことだとは思うのだが、まあ考えてみればそっちの問題もあったか…と、錆兎は今更ながらに思い出した。
二人にもうっすら話はした気はするが、一応もう一度繰り返す。
「俺、義勇と籍入れることになった時にお前ら2人には話したよな?
本来異性愛者だったはずの俺がなぜ義勇と籍入れることになったかというと…だ、うちの副社長が財閥の跡取り問題でもめないように、俺に子どもを作らせたくなくて、子どもが出来ない前提の見合い相手を大量に探してきて、その中で選んだのが義勇だったんだ」
「つまり、あの坊ちゃんを選んだ理由は子どもができねえからでできるんだったら選ばなかったってことか?
馬鹿副社長ははどうでもいいし、このさい跡取りうんぬんも置いて考えろ。
錆兎自身はデキたら困んのか?」
「…えっ………?…」
その発想はまったくなかった。
…が、考えてみればそれが一番重要な気がする。
「…本当に…お前、核心つくよな…」
幼い頃から財閥を背負うために育っている宇髄はいつも一番重要な事だけをピンポイントで拾い上げる男だ。
重要な案件ほど余計な枝葉は省いて考える。
宇髄のそんなところに感心していると、
「俺のことはいいから。
それよりどうなんだ?
馬鹿野郎がダメって言うならお前もダメなのか?」
と、言われて、錆兎はあらためて考えた。
「いや?全然。
ちょっと面倒なことにはなるとは思うが、子どもは好きだしな。
義勇と籍を入れた時には、下手をするとこれで自分の子どもは一生持てない可能性もあるかと少しだけ残念に思ったくらいだ。
でも義勇が俺の弟で子どもみたいなものだからまあいいかって思い直したんだけどな。
両方手に入るのなら、それにこしたことはないだろう?」
親友たち相手に嘘をついても仕方ない。
思っていたそのままを伝えると、宇髄は
「それだったらそう言ってやれ。
パニック起こしすぎて気を失っちまったから」
と、ちらりと義勇の方に視線をむけた。
ああ、なるほど、納得だ。
身体的にという意味ではなく、メンタルの問題か…。
本当に検査薬が正しいのかということはおいておいて、どちらにしても条件によって義勇を突き放したりすることはないということを、きちんと伝えておいてやらないと、戻る場所のない義勇をひどく追い詰めることになる。
その上で、まず、本当に信じられないことだが、義勇に子どもができているかどうかを確認しなければならない。
本来ならありえないことなので、確認する場所も考えないと大騒ぎになって義勇を傷つけるだろうから、そのピックアップも慎重にするべきだろう。
そして…もしそれが間違いではなかったとしたら、さらに大変だ。
どうやって生むのか…。
普通に産めるのか、帝王切開になるのか…
その時の医者は?
最悪、普通に産めるのなら錆兎がこれから勉強をして自宅でということもできなくはないが、帝王切開になるなら医者と場所が必要だ。
さあ…どこから始めればいい。
錆兎が必死に考え込んでいると、やがて義勇が目を覚ました。
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