政略結婚で始まる愛の話_42_驚愕の事実

「よおっ!別荘で会って以来だな。これは土産なっ」

ドアを開けるといきなりヌッと差し出される紙袋。
中には赤々とした大量のトマト。

なぜ手土産がトマト??と思いつつも受け取ろうと礼を言って手をのばすと、
「ああ、重いから俺が持ってってやる。
なんならキッチン使っていいなら、料理もしてやるよ」
と、一緒に来た実弥が宇髄の手から袋を取り上げる。

ギャップと言うなら彼も恐ろし気な見た目とは真逆に細やかで面倒見のいい優しい男だ。
当たり前に袋をかかえて、おそらく何度か来たことがあるのだろう。
勝手知ったるといった感じにダイニングへ向かう。

「あ、すみません」
と、義勇はドアの鍵をかけると慌てて実弥の後を追った。


実弥はダイニングテーブルの上にドサッと紙袋を置くと、
「錆兎に聞いたんだけどなァ、なんかお前このところ食欲ないんだってな」
と、その中からトマトを2,3個手にとると、奥のキッチンでジャブジャブと水洗いをする。

「へ??」

気づかれていたのかっ?!!

驚きと焦りで青くなる義勇の頭を、実弥はシャツで濡れた手を拭いたあとにくしゃくしゃと撫でて

「あ~、錆兎は別に怒ってねえからなァ?
錆兎には言いにくいのかもしれねえし、あいつもお前が言いたくないなら聞けねえっつ~んで、俺らが来たんだ。
俺もなァ、前に言ったかもだけど7人兄弟の長男で、年下の人間が手間暇かかるのは当たり前の環境だし、ついで感覚で面倒みられるからよォ。
それにほら、かえって他人のほうが話やすいときとかあるだろォ?
錆兎に言わねえでほしいっつ~ことなら言わねえし、言いたいけど言いにくいっつ~ことなら俺から上手に言ってやるから、心配すんな。
とりあえず、水分だけでも摂ったほうがいいし、宇髄がな、食欲ねえ時でも食いやすいって選んだ美味いトマトだから、一口食ってみ?」
と、もう片方の手で真っ赤なトマトを差し出してきた。


義勇はそれをおそるおそる受け取って、ちらりと宇髄を振り返る。
満面の笑顔の宇髄。
要らない…とは言いにくい。
しかたなしにカプッと一口。


「…お…いしいっ!!!」
少し実は固めだが、甘みと酸味がじゅわっと口に広がって、思わず出た言葉に、

「だろっ!うちの嫁が家庭菜園やってて庭のハウスで丹精込めて育てんだよ。
たまに周りにも配ってんだけどな。派手に美味いって評判なんだぜ?」
と、宇髄は胸を張ってうなずいた。

確かに文句なしに美味しい。
こんなに美味しいトマトを食べたのは初めてかもしれないくらいに美味しい。
このところ食べ物どころか水分も不足しがちだったので、トマトの旨味が身体中に染み渡っていく気分だ。

「たくさんあっから、いっぱい食えよォ?」
と、実弥はいくつか洗って皿に置いてくれる。

義勇がそれを食べている間に、今度はトマトを使って色々料理を作ってくれたが、それはダメだった。
食べた瞬間、気持ち悪くなってトイレに駆け込んでしまった。


作ってくれたものを食べてトイレに駆け込んで吐くなんて、ずいぶん失礼なことをしていると義勇は動揺したが、実弥は気にすることなく、

「あ~、火ぃ通したらダメなのかァ。
レモン水作ってやるから、吐いてすっきりしたら飲んどけェ。
口ん中がすっきりするからよ」
と、吐く義勇の背をさすってくれた。


こうして吐き終わって、うがいをして、作ってもらったレモン水を少し飲んでまた生のトマトを切ってくれたものを3,4切れほどつまみながら、義勇は何も考える気力もなく、ただ宇髄の質問に答えていく。

別荘から帰る数日前から少しずつ胃のむかつきを覚え始めたこと。
なんとなく怠くて眠くて…それからすごく落ち込むこと。
料理の匂いが気持ち悪く感じて、食べられなくてこっそり処分していたことなど…


宇髄は、ほぉほぉと、それを聞いては少し考え込んで、『いや、それはおかしいだろ?』と独り言を口にしつつ、首をひねって……そして最後に、『あ~、そう言えば頼まれて買っておいたの、持ってきてだな。考えててもしかたねえ。ないと思っても確かめたらいいかもな』と、ブツブツと言いながら、かばんの中から何か棒状のものを取り出して義勇に渡した。

「えっとなぁ…念の為というか…俺もさすがにありえねえとは思うんだけどな?
ちょっといま変な事思いついてて…これ使ってみて欲しいんだが…。
ま、尿検査みたいなもんだ」

渡されたそれに、もしかして宇髄も義勇の実家と同様に製薬関係なのか、もしくは宇髄自身が見かけによらず医療従事者なのかと不思議に思いつつ、義勇はそれを受け取ってトイレに行った。


そうして言われたままに試して、丸い窓のようなところに赤紫のラインが浮かび上がったそれを宇髄に見せると、宇髄の切れ長の目がまんまるになって、口がぽか~んと開いた。

「えっと…?何か悪い病気とか…?」
義勇が固まる宇髄に不安になって聞くと、

「あ、いや、そういうわけじゃねえんだが…
なんつうか…少し珍しい体質というか……」
と、言葉を濁す宇髄。

青ざめたり厳しい表情になったりとかではなく単純に驚いている様子なので、確かに深刻な病気とかではなさそうなのだが……


「えっと…とりあえず錆兎を呼ぶな?
これ…錆兎も聞いたほうがいいと思うわ」
と言って、義勇が口を挟むまもなく、携帯を出して錆兎にかけ始める。


「あ~。錆兎?
とりあえず今から帰れそうか?
いや、別に具合悪くなったりはしてねえよ?
ただなんつうか……とにかく帰ってこいよ?」

言いたいことだけ言って、どうやらガチャ切りしたらしい宇髄。


「えっと…俺のことなら仕事中の錆兎に迷惑かけなくても……」
心配になって言う義勇に、宇髄はなんとも言えない表情で首を横にふる。

「いや…これ、錆兎にとっても重要だと思うしな…
1人で考えてもしかたねえことだしな?」

あまりに複雑そうな顔をする宇髄に、義勇もまた不安になってきた。
そして聞く。

「えっと…結局なんだったんだ?これ?」
と、手の中の棒に視線を落とすと、宇髄は、ん~~~と目を閉じて少し考え込んで、落ち着いてきけよ?と、最終的に目を開けて義勇の顔を見て告げた。
その、驚くべき事実を…

「それな、いわゆる妊娠検査薬ってやつだ」



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