「そんなに根を詰めないほうが良いんじゃないか?」
コンコンとドアをノックして、錆兎が食事の乗ったトレイを置いていってくれるのに礼を言いつつも布から目を離さない義勇に、錆兎が気遣わしげに綺麗な形の眉を寄せる。
「ごめん。
どうしてもイメージが消えないうちに仕上げちゃいたいんだ」
との義勇の言い訳に、
「良いけどな。
ちゃんと食うだけは食って、寝るだけは寝ろよ?」
と、錆兎はそういい置いて、リビングへ戻っていった。
別荘から帰って、3日ほどたっていた。
それは戻った初日からすでにそうだったのだが、胃のムカムカが収まらない。
なんだか気持ちが悪い。
食べ物の匂いをかぎたくない。
でも胃痛とかではないので、おそらくあちらの空気が良すぎてそれに慣れてしまって、こちらの空気や水に合わないだけだろうと、義勇は思う。
だから病気ではないと思うし、1ヶ月に及ぶ自宅勤務を通常の状態に戻したばかりで忙しいであろう錆兎に心配をかけたくはない。
ということで、朝は眠いからと申し訳ないが錆兎が出るギリギリまで眠っていて出る前に起きてお見送りだけして、昼は作っておいてくれる昼食を、これも本当に申し訳ないがこっそり処分させてもらって、夕食は、あちらで見た綺麗な花々の印象が薄れないうちに刺繍にしたいのだと理由をつけて自室にこもって、運んできてもらった夕食も、もう申し訳ないことこの上ないが、こっそり容器に移して、錆兎が会社に行っている昼間の間に処分している。
これを帰って来た翌日から2日間。
バレたらどうしよう…せっかく用意してくれた食事なのに…と思う気持ちと、わざわざ時間をとって別荘に連れて行ってやったのに戻った途端に体調を崩すなんて面倒なやつと思われたらと言う不安。
どちらにしても嫌われる気がして、絶対に伝えられない。
隠すしかない。
もちろんこれからずっと刺繍を理由に夕飯を一緒に食べるのをパスするわけにもいかないし、なんとかこちらの生活に身体を戻さないといけないとは思うのだが、どんどん胃のむかつきはひどくなってくる気がするし、どうしたらいいのだろうか…
今日で3日目。
朝はやっぱりパスして錆兎の見送りだけして、そのまま30分ほど戻って来ないか様子見をして、それから部屋に隠しておいた昨日の夕食をダスターシュートに。
その瞬間…仕事で疲れて帰ってきているのだろうに義勇のためにと作ってくれたソレを捨てている自分が申し訳なくて申し訳なくて、涙が溢れてきた。
…やっぱり病院に行ったほうがいいのだろうか……
でも、実家では体調を崩すと医者のほうが家に来ていたから、病院に行くと言ってもどうしたらいいのかわからない。
本当に自分は生活力もないどうしようもない人間だ…と、ひどく落ち込んで、義勇はまた泣いた。
これがここ2日間続いている義勇の午前中の日常だ。
だが今日は少し違った。
錆兎が出社して1時間ほど。
いきなりエントランスのベルが鳴る。
インターホン越しに見ると、なんとそこには宇髄がいて、カメラに向かって
『ちっと錆兎に頼まれてきたんだ。開けてくれぇ~』
と、笑顔で手を振っていた。
本当に得な人間だと思う。
宇髄はなんというか、一見イケメンすぎて近寄りがたく思われるのに、話をしてみるとなんだか気さくな感じで、見た目とのギャップもあるのだろう、するりと上手に人の心の中に入り込んでくるところがある。
「…今あける……」
と、エントランスのドアを開けると、管理人にエレベータの使用を許可してくれるよう連絡をいれた。
そして数分後。
ぴんぽ~ん!と自宅ドアのベルが鳴る。
『派手な祭りの神!天元様が訪ねてきてやったぞ~』
と、自宅ドアのインターホン越しにやはり笑顔で手をふる宇髄。
一体何をしにきたのだろう…とここにきて思ったが、ここまで通しておいて今更なので、義勇は玄関の鍵をあけて、ドアを開いた。
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多分、変換ミスかと思うのですが「通常の通常状態」→「通常の状態」若しくは「通常の通勤状態」か「通常の勤務状態」でしょうか?
返信削除ところで悪阻だとするとオメガバーズなのか続きにドキワク💞です
ご報告ありがとうございます。修正いたしました😀
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