政略結婚で始まる愛の話_06_衝撃!嫁はロリショタ、ノット・ノータッチ3

錆兎のマンションはひとり暮らしするにはやや広すぎる。
間取りも広ければ部屋一つ一つも広い。

なので広々とした寝室には1人で寝るには広いベッドを置いているのだが、その上には帰宅時にだきしめていたあのクマをしっかりかかえこんだ少年がちょこんと座っていた。

そして錆兎はここでまた、その場に固まったのである。

何?何だ??

部屋間違えた?
いや、さっき俺が風呂にはいる前にちゃんと部屋教えて入っていったよな?

雷でも鳴ってて怖かったとか…でもないな。
雨すら降ってない。

慣れない場所で1人で居るのが怖い?
ないな。そこまで幼い子どもでもない。

う~ん……
色々可能性を考えてみるものの、結局理由がわからずに本人にきく。


「えっと…なんで俺の部屋にいるんだ?」
「ご、ごめんなさいっ!」
「いや、いいんだけどな。
あっちの部屋、何か寝にくかったか?」

そう言うと、義勇はひどく動揺した様子で
「あっちの部屋でするんですねっ。
すぐ戻りますっ!」
と、ぴょんとベッドから飛び降りた。

へ??する???

錆兎は今度こそ本当に目を丸くした。
そして考える…考える…あああ~~!!!!



「ストップ!!」
と、ようやく合点のいった錆兎は、少年の腕を掴んで、そのままベッドの端に座らせて、自分は椅子を直ぐ側まで持ってきてそれに座る。

そのあたりの誤解を正しておかなければならない。


錆兎がわざわざ椅子を持ってきて座ったところで、少年の方も緊張を解いて、きょとんと目を丸くした。

そんな表情をするとますます幼く見えて、これをそういう意味で頂いたりしたら犯罪じゃないか?と錆兎は思う。

まあ、先日副社長が監視の元、義勇のサインも入った婚姻届けを役所に出しに行ったので、法的にはなんら問題はないわけなのだけれど…


「あのな、もう少し落ち着いてから意思の疎通をすれば良いかと思ってたんだが、今いろいろ確認しておいたほうが良さそうだな。
ちょっと遅いけど、あと1時間ほど起きてられるか?」

なんだか1人で知らない場所に送り込まれて緊張しているように見える少年に威圧感を与えないように、錆兎の方が少し見上げる形のこの体制を取ったわけなのだが、それは意外に功を奏したようで、少年はまたきょとんとした顔でこっくりとうなずいた。

うん、可愛い。
いちいち可愛い。
なんだ、この可愛い生き物は。

錆兎はそんな事を思いながら、自分はわりあいとキツイ顔立ちだと言われることもあって、なるべく相手に緊張させないようにゆっくりと口を開く。

「あのな、俺はお前の方の事情は全く知らないわけなんだけどな?
俺の方の事情としては、簡単に言うと今俺の実家の財閥を実質取り仕切ってる副社長が俺の腹違いの弟を次期総帥にしたいと思っているのな。

で、俺はそれはそれで良いと思っていたんだが、俺に実子が出来たら俺の方も気を変えるかもと思われているらしい。
だから、その副社長が俺が子ども作ったりしないように、子どものできない相手を選んで結婚しろと言ってきたわけだ。

俺は現時点で結婚したい相手とかもいなかったし、それなら今そういうことで揉めるのも面倒だということでそれを了承した。
で、まあそういう欲求は自分で処理すればいいし、それで色々面倒な口出しされてこないなら、同居人が出来たと思えばいいかと、男のお前を選んだわけなんだ。
だから無理してすることはないと思っているんだが?」

紛れもなく今日が初対面だし、初対面の同性に抱かれたいというやつもいないだろうし、と思って言うと、何故か真っ青になる少年。

え?と思っていると、

「…俺じゃ…だめ…ですか?」
と、ポロポロ泣き出した。

へ?えええっ???!!!

「いや、ダメとかじゃなくてっ!」
と、錆兎はまた慌ててバタバタと顔の前で手を降ってみせる。

「普通な、男でも女でも誰でもいきなり初対面の相手と寝たいと思わないだろう?!
俺、実はお前の事を結構気に入ってるし、上から目線で悪いんだが、まあ一生衣食住の面倒みてやっても良いなくらいには思っている。

逆に一回だけ寝て別れる相手じゃないほうが、そのあたりは時間をおかないか?
まず相手の事知って、ちゃんと家族になってからというか…」

そう言ったあとに、もしかしてそれも誤解されてる一端かと補足説明をした。


「今回、俺がGO!出してから1週間後に式どころか顔見せすらせずに入籍、同居だったから、そういうものかと思わせてしまったのならゴメンな。

さっきも話した通り、今回の話はすごくえげつない義理の伯父が弟に跡を継がせるのに俺が邪魔にならないようにということで持ってきた縁談だったからな。
正直、跡取りの座なんてどうでも良いと思ってる俺からしたら、面倒なだけのものだったんだ。

だから俺が普通に楽しく日常を送る邪魔さえしないでくれれば、子どもを生むような特別な女性を作らせないためだから別居はできないが、部屋も余っているし同居人の1人くらいいてもいいかくらいの感覚だった。

でもお前はなんだか思ってたより随分と子どもにみえるしな。
なんだか兄弟みたいに世話するのも悪くないなと勝手に思い始めてる。
というか…もう少しちゃんと飯食って大人の体型になってからじゃないと、そういうことするのは無理だろう。
先は長いしな。
俺がちゃんと3食くわせて、規則正しい生活させてやるから、まず嫁うんぬんよりちゃんと大人になっておけ」

異性愛者だということもあるが、ソレ以上に、目の前の戸籍上の配偶者は幼なすぎて、そういう気分にはならない。
愛らしいとは思うし、愛おしいとも思うのだが、それが性的なものに結びつくかと言うと、また別だ。

とりあえず少年は夫婦のいとなみのような事をしない=返品事案だと認識していたらしい。
そういう意味ではないという説明をしたところで、安堵の息を吐き出してぎゅっとだきしめていたクマに顔をうずめたところで、納得したのだろうと判断した錆兎はそのままベッドにもぐりこむと、半身起こした状態でベッドの縁に座り込んだままの少年をかかえこんで、自分の隣に横たわらせた。


「とにかくな、俺は明日も仕事なんだ。
早急に確認しないと困りそうなこと以外は明日以降な。
聞きたい事があるなら眠るまでは話をきいてやるけど、とりあえず明かりは消すぞ」

そう言って明かりを消すと、少年はわずかな時間、腕の中で固まっていたが、弟の炭治郎が小さかった頃にやってやったようになだめるように背をとん、とん、と叩いて眠りをうながしてやると、すぐ、ほぅっと小さな息とともに、力がぬけていった。

そこで
「おやすみ、ぎゆう」
と、つむじに軽く口づけてやると、腕の中で
「おやすみ…さびと……」
と、小さな声が返ってきて、やがて規則正しい寝息が聞こえてくる。


実母が生きていた頃の記憶はないので、錆兎にとって一番幸せだった家族の思い出はまだ祖父が生きていた頃の弟との時間だったわけなのだが…そんな時代の優しい空気が何故かそれをぶち壊してくれた副社長の企みでまた戻ってくるのはなんとも皮肉なことだ。

だが、別に錆兎としてはそんな事はどうでもいい。
他人の思惑なんてどうでもよい。自分自身が幸せで快適ならそれでいいのだ。
だから今回の事は本当に副社長に感謝してやらないでもない。

そんなふうにつらつらと思いながら、錆兎もまた人肌の心地よさに誘われ、いつのまにか眠りの世界におちていった。


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