リトルキャッスル殺人事件sbg_19_犯人はショパンの調べに嘆息す1

「錆兎、どうした?何かあったのか?」
炭治郎はすぐ来た。
すぐ後ろには善逸もいる。

厳しい顔の錆兎にあまり良い話ではないのだろうと硬い表情の炭治郎と善逸。
しかしもう真相を暴くという決心はしたのである。
錆兎は一瞬躊躇するが、大きく息をすって吐き出した。

そして
「善逸、すまないっ!」
と、そのまま頭を下げる。

「ちょ、錆兎、なんなの、いきなり」
戸惑う善逸に錆兎は言った。

「俺はこれから善逸の大事な人間関係壊しに行く事になる」

さすがに…これまで3回も殺人事件を越えて来ていると、それだけでわかったらしい。
「もしかして…真由?」
善逸は意外に静かな声で聞く。

「だけじゃ無理だから…拓郎さんもか。つか、謝らないでよ、錆兎」
言って善逸も苦笑した。

そして
「あ~あ、また由衣にいぢめられるね、これは」
と肩をすくめる。

「ま、またクラス替えあるしね。同じクラスになってもあと1年だ。
錆兎を誘った時点でさ、やらかしてるならこうなるのは仕方ないことだし…」

善逸が顔をおしつけた炭治郎の肩口が濡れていった
それを慰めるように、炭治郎はポンポンと善逸の頭を軽く叩く。

こうして明かしにくい真実でも知ってしまったからには明らかにする…そう決意して、4人は湯沢と共にそのまま下に降りて行った。



硬い表情の錆兎と義勇。
珍しく表情のない善逸の手は炭治郎がしっかり握ってる。
唯一湯沢だけが飄々とした能天気な様子で、リビングへと足を踏み入れた。


「どうしたんだい?錆兎君も善逸君も」
そんな二人に拓郎を始めとして残った一同が少し不安げな顔を向ける。

「重大な…報告があります」

少しでも錆兎の負担を減らそうと、まず炭治郎がそう切り出した。
言ったらもう引き返せない。

真実は…必ずしも正義ではない。
それがわかってても言うべきなのか、4人ともわからない。
それでも…言うしかないのだ。

今回は完全に他人と言うわけでもないので、善逸のことを考えると憂鬱な気分だった錆兎だが、隣に立つ恋人様が実に可愛らしい顔で

「…俺は…実は颯爽と事件を解決する時の錆兎はすごくカッコいいと思う…」
と、上目遣いでそんなことを言うので、ンンッ!!と、錆兎は少し顔を赤くする。

今言うことか?と思う人間もいるかもしれないが、錆兎にとってはその言葉で色々がもういいか…と思えるし、憂鬱な気持ちが霧散した。

義勇はどういうつもりで言ったのかは謎なのだが、義勇のなにげない言葉はいつだって錆兎の心を軽くする。

二人がそんなやりとりをしている間に、炭治郎が話を進めている。

「木村を殺害したのは…田端じゃありません」
と、続いている炭治郎の言葉はリビングにいるみんなに衝撃を与えた。

「木村の殺害について、これから錆兎が説明しますので、全員着席をして下さい」

炭治郎はそこで錆兎にバトンタッチして自分は席に着く。
善逸と炭治郎、それに湯沢にもチラリと視線を向け、3人が席に付くと話を引き継いで錆兎が続けた。

「結論から言うと、殺害方法は遺体を見る限り絞殺だ。
木村は絞殺された上で魚網に包まれ、見晴し台から遺体が発見された桜の木まで張り巡らされたロープを滑らせて桜の木まで運ばれた。
善逸と義勇が昨日見た白い物体というのは、その滑り落ちる魚網に包まれた木村の遺体だったんだ」
錆兎の言葉でリビングにざわめきがおこる。

「あ~…始めから説明をするとだ、
犯人はその仕掛けをつくるため、まずロープを持って見晴し台に登り、ロープを手すりを挟むようにして、ロープの両端を下に落とした。
その後、見回りと称して外に出ると倉庫からゴムボートを出し、宿の裏側に回ってボートを使って水に垂れたロープの両端を回収、そのまままた岸に戻ってその両端を桜の木の後ろで結び、丁度見晴し台の手すりと桜の木を輪っかでつなぐような形にして、ゴムボートの空気を抜いて宿の中に持ちこんだ。
その後跳ね橋があがったんだ。

そして普通に全員揃っての夕食。
この時点で共犯者があらかじめ木村と田端の間に亀裂が入る様にさせ、なるべく二人がコミニュケーションを取らない様に画策した。
そして食後、共犯者が自分が田端をひきつけておくからと、木村に自室にボートを隠す様にうながした。
これはたぶん…田端が自分に気があるだけで、自分は木村といたいから、後でボートで抜け出して二人きりででかけようとでも言ったんだろう。
ここで木村は”自分で”自分の部屋にボートを隠し、のちに何も知らない田端が自室に戻った。

そして犯行時刻。
共犯者が携帯かメールか何かで木村を呼び出した。
これはおそらく空き部屋の鍵が手に入ったから一緒にとでも言ったのかと思う。
そして普通に身一つでオートロックの部屋から木村が出た事で田端以外入れない密室の完成だ。
その後犯人は空き部屋で木村を殺害。そのまま見晴し台まで連れて行き、あらかじめ持ち込んでおいた魚網に魚と共に遺体をいれ、ロープの結び目を引き寄せてロープをほどき、網を通すとまたロープを結んで木村を桜の木の根元まで滑らせた。
そして木村が桜の木に到着したタイミングでまた結び目をほどいて一本のロープに戻してそれをたぐり寄せて回収したんだ。
魚を一緒に網にいれたのは、おそらく遺体を魚に見立てている様にみせて、遺体を網に入れないといけなかった本当の理由を隠す為だと思う。
その後は朝まで普通に過ごし、跳ね橋をおろして皆が遺体を発見するのを待つ。
そしてさりげなくボートが田端と木村の部屋から発見されるように誘導し、それで田端が犯人ということにして拘束。
見回りに行ったのが誰か、木村と田端で揉めていた原因は誰かを考えて行けば、主犯、共犯はわかると思うから、ここでは明言を避ける。
以上だ」

「これは…すごいな。推理小説みたいだが…。実際それが行われた証拠があるのかな?」
錆兎が一旦言葉を切ると、拓郎が拍手をして立ち上がった。

「証拠は…いくつか…。一つはこれ…」
錆兎は俯き加減にそう言うと、ビニールに入ったハンカチを取り出した。

「蜘蛛の巣と…それについた桜の花びら。
昨夜客室の掃除をしていたという拓郎さんの肩についていた蜘蛛の巣を払ったハンカチです。
客室は全部海の方向を向いています。
もし窓を開けていたとしても…さすがに反対方向にある桜の花びらは入ってきません」
錆兎は深いため息をついた。

「遺体を包んでいた網は…その日の朝に漁に使ったはずなのに何故か埃のついた蜘蛛の糸がついていた。これは見晴し台で付いた物かと思われます。
さらに桜の木の幹には何か紐のような物で擦った後、見晴し台の手すりも同様に何かで擦ってその部分だけさびがはげたような跡がありました。
以上から遺体の移動法はほぼ間違いないと思います。
おそらく…以上の推論を説明した上で要請すれば警察も通話記録を調べるだろうし、そうしたらさらに…」

「もういいよ、錆兎君」
感情を殺して淡々と語る錆兎の言葉を拓郎が遮った。

「君の言う通りだ。木村を殺害したのは私だ。
真由は何も知らずに私の指示の通りに動いただけだ」

「伯父さんっそれはっ!」

「黙っていなさいっ!」
立ち上がって口を開く真由の言葉を拓郎は強い口調で遮った。

「動機は…真由さんの弟さんの事ですか?」
そこで俯き加減で言う錆兎に、
「驚いたな…そこまでどうやって調べたんだ…」
と、拓郎は目を丸くする。


「そう…真由は4月生まれ、京介は3月生まれと約1年違うが、二人とも高校二年生だった。
二人とも両親の夫婦仲が悪くて小さな頃からよくここに預けられていてね。
真由は調理や掃除などを担当、京介はよく食事時にピアノを弾いてくれて…小さなピアニストとして喝采を受けていた。
ずっと独身だった私には二人は我が子も同然だったんだ。
二人とも大きくなったらここで働くんだと言ってね、真由は高校を卒業したらそのまま、京介は音大を出て有名なピアニストになったらここでコンサートを開くんだとよく言ってた。

そのためには普通の勉強も必要だからと塾に行って…勉強は得意じゃなかったがあの子はあの子なりに一生懸命勉強して…クラスがあがったと思ったら入れ違いにクラスが下がった田端とその仲間の木村に暴力を振るわれて…指を骨折。
特に左手の中指はもう二度と動かないとわかった翌日、京介は塾の屋上から飛び降りて命を絶ったよ。
しかしスキャンダルを怖れた塾に受験ノイローゼで片付けられ、京介を殺したも同然の二人はなんのお咎めも無しだった。
そこで私は真由に奴らに近づくように言って、ここに連れて来させたんだ。
あとは錆兎君達の言う通りだよ。

…まったく…驚いたな。
君達みたいな子に出会う確率なんてありえない低さだろうに…こんな時にこんなタイミングで出会うとは…。
運がいいのか悪いのかわからないな」

「自首…してもらえませんか?」
そこで錆兎が声をかけると、拓郎はにっこりと微笑んだ。

「そうだな…復讐はもう終わったし、もう一度ワルツ第7番嬰ハ短調をリクエストさせてくれるなら。
今朝半年以上ぶりに聞いた生演奏は…本当に懐かしくて楽しかったよ」

「わかりました…」
その言葉に錆兎は立ち上がるとピアノの前に座って蓋を開けた。

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2 件のコメント :

  1. 修正漏れ報告です。最初の方で錆兎が「俺様...」って言ってます。ご確認お願いします。そして義勇さんは推理している時以外も錆兎の事を格好いいと思ってるに違いない(。-`ω-)b

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    1. ご報告ありがとうございます。修正いたしました。
      義は錆が何かするたびいつもカッコいいと思っていますし、錆も義が何かするたび愛らしいと思っていると思います😁

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