リトルキャッスル殺人事件sbg_15_幽霊は桜の海で釣れるのか?3

「空手部3人…念のためそのあたり見回れ。変わったものあったら教えろ」
義勇達が行った後、錆兎は遺体の側に膝をついて言うが、

「じょ、冗談じゃねぇ!!犯人いたらどうすんだよっ!!!」
と、3人とも固まって叫ぶ。


「…怪しい奴いたらのしてやるんじゃなかったのか?」
丁度手袋をしたままの手で遺体を少し調べながら言う錆兎に

「お前ぜってえおかしいぞ!この状況で平気でそれって!!
お前やったんじゃねえだろうなっ!!」
と、3人がさらに叫ぶが、錆兎はそれにも淡々と答えた。


「…跳ね橋上がるまでは確かにこいつも俺も室内にいて、跳ね橋がかけられてからお前達と一緒に出て来ているのに、どうやったらそんな時間あるんだ?
まあ平気ではないんだがそれでも去年の夏に殺人犯に遭遇してからは大抵の事には驚かなくなったな。
普通に考えたら俺達が本土からこの離島まで2時間かけてついたということは、警察がつくまでそのくらいかかるって事だろう?
それまでに何か起きないという保証はないわけだから…現状把握はするに限る。
お前らも男なら無駄にガタガタ騒ぐな。
黙って手伝え」

「は…犯人は島の外からやってきて木村を殺したんすか?
まだこの辺に潜んでるとかなんすか?」
他から一歩離れて湯沢が錆兎に歩み寄る。

いきなり敬語…。

どうやらこの殺人が起こっている現状で安全な立場でいるには、この妙に冷静な武道の達人に守ってもらうのが一番と判断したようだ。

「今の時点ではわからない。
状況的には内部の人間が跳ね橋が上がった状態で殺しに出るのは難しいが、外部の人間がいきなり殺すような動機はないだろう。
金もなさそうだし、要人でもないんだから」

一通り気になるあたりはチェックしたらしい。

錆兎は立ち上がってビニールの手袋を外すと、
「行くぞ」
と、男3名を宿の玄関の方へとうながした。



死体を発見後錆兎と空手部3人が戻ると

「錆兎君…本当なのか?殺人て…」
と拓郎は玄関のところで出迎える。

「はい。丁度手袋持参してたので調べましたが…遺体の状況からおそらく死後10時間前後というところですね。
今が9時だから…犯行推定時刻は昨夜11時から今朝1時くらいですか」
当たり前に答える錆兎に拓郎を含む、義勇達3人をのぞいた全員が唖然とした。

「ちょ…ちょっと待ってくれ、錆兎君。君は一体何者なんだ?!」
まあ…当然の疑問ではある。

「あ~…」
錆兎はその質問にちょっと困って、どうしよう?と問いかけるように善逸に視線を送った。

善逸がちょっと息をついて、
「とりあえず…話せば長くなるんで、中で落ち着いて話したいんですけど、」
と、驚く一同に言った後、一旦言葉を切って錆兎に

「えっと…その前に…何か至急しておかないとなことある?」
と逆に聞き返した。

その言葉に錆兎はちょっと空をみあげた。

「あ、そうだな。雨振りそうだし現場保存したいんで大きなビニールシートかなにかあればありがたい。あとそれが風で飛ばないような重石になるような物も」

「ということで…用意できますか?
こういう時は錆兎の言う事聞いておいた方がいいから」
と、善逸が言うと、

「ああ、大きなレジャーシートでいいかな?重石は大きめの缶詰で。とってこよう」
と、拓郎が奥へと駆け出して行った。

そしてすぐ青いビニールのレジャーシートと缶詰の入った箱を取ってもどってくる。

「じゃ、そういうことで空手部、手伝え」
という錆兎の言葉に大人しく従う男3人。
この状況だ。命は惜しいらしい。


こうしていったん遺体周りをビニールシートで保護して戻ってくる4人。
その4人が中に入ると不用心だから、と、拓郎は跳ね橋をまた上げた。


「で?警察はどのくらいでつきますか?」
落ち着くなりまず聞く錆兎に、拓郎は少し厳しい顔で言う。

「実は…沖の方が今濃霧らしくて…海もあれてるし、明日くらいになるらしい」

その言葉にざわめく一同。

そんな中で錆兎だけが内心
(あ~、またこのパターンかっ)
などと思っている。

「ということで…君の身元というか…教えてもらえないかな?普通の高校生にしてはあまりに…」
全員に温かい紅茶をくばりながら、拓郎がまた話題を最初に戻した。

「身元は…本当に普通に言った通りなんですが…」
なんと説明していいやらわからなくてそう口ごもる錆兎の代わりに、炭治郎が答えた。

「なんの因果かわからないんですけど、昨年夏の連続高校生殺人事件に始まって、同じく昨年の秋頃に海陽学園内で起こった殺人事件、それに同時期に聖星学園での殺人事件、年末の箱根の山荘で起こった殺人事件…さらにもう一件正月の群馬の温泉宿で起こった殺人事件と5連続で俺達、殺人事件に巻き込まれてまして…」

善逸の言葉に女性陣からは
「うっそ~~!!会長様、本当に勇者様だったのっ?!!」
と驚きの声があがる。

「それでですね、まあその全ての殺人事件の真相を暴いて犯人確保したのが錆兎なんです、実は。
親も警察関係者で色々詳しいし、本人も幼少時から警察関係者に囲まれて育ってて、犯罪の話やら危機管理の話やらを子守唄に日々武道と護身術を叩き込まれながら大きくなったという奴なんで…まあ警察がくるまでは彼の言う事きいとくのが一番安全かなと」

「カッコいい~~!!!」
と女性陣が叫ぶのはいつものことだ。

「なんというか…他の子と随分違う子だなぁとは思ってたが…いやはや驚いたな…」
拓郎も目を丸くして口を開く。

「いえ、親は親ですし、俺は所詮少しだけ危機管理に詳しいだけのただの高校生なんで」
錆兎はそれにそう言って苦笑した。

「ただ不本意ですけどとりあえず事件慣れはしてしまってるんで、警察に引き渡すまでの現場の管理と警察がくるまでの安全対策についてはある程度こちらの指示に従って頂けると助かります」

「ああ、もちろんだよ。女の子も多いしね。何かあったら大変だ。
むしろこちらからお願いするよ。」
錆兎の言葉に拓郎は了承する。

「一応…殺人犯が中に入ってこれないように跳ね橋はあげておくが…あとは何かする事はあるかい?
なんでも言ってくれ」

「あ、俺も手伝いますっ!
もう何でも言って下さいっ!」
湯沢もいきなり立候補する。

「湯沢~、てめっ何いきなり良い子ぶってんだよっ!」
それに田端が表情を険しくした。

「でもさ~湯沢が正しくね?相手殺人犯だし。
つかさ、お前やったんじゃねえの?木村と昨日もめてたしさ~」
田端の言葉に今度は柿本が言う。

「ざっけんなっ!てめっ!」
それに激昂して田端が立ち上がってその襟首を掴んだ。

「そもそもそこの名探偵様が言ってただろうがっ!
跳ね橋上げるまでは木村も生きてて俺も中いて、跳ね橋かかってからは俺はてめえらと一緒だっただろうがっ!いつ殺るんだよっ!!」

「でも…窓から抜け出せば…」
それまでしゃくりを上げていた真由が顔をあげて田端をにらみつけた。

「馬鹿かってめえはっ!男死んで頭おかしくなったのかよっ!
この宿周り水だぞっ?!泳いでわたんのかよっ!
よしんば泳いで渡ったとしてもそんなとこまで木村がおびき寄せられてくると思うのかよっ、ば~かっ!!」

田端の言葉にムッとする女性陣。

「…でも…ゴムボート…なくなってたよね」
そこで真由がさらに言うと、

「結構田端の部屋とかにかくしてあったりとかな~。
部屋で殺して遺体をゴムボートで運んだとか?」
と、柿本が口笛を吹いた。

「や、やめなよ~」
険悪な雰囲気に止めに入る真希だが

「うるせえっ!」
と、田端が怒鳴って

「そうまで言うなら見に来いよっ!そこの名探偵もなっ!」
と、先に立って階段に向かった。


「一応…変に疑心暗鬼になってもだし、行こうか」
錆兎の肩をポンと軽く叩いてうながす拓郎に続いて、錆兎も仕方なく階段を上る。


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