リトルキャッスル殺人事件sbg_16_幽霊は桜の海で釣られるのか?4

そして木村と田端の部屋。
田端は鍵を開けて入ると、
「どこでも探してみやがれ!」
と、少し体をずらして他をうながした。

「全員でぞろぞろもなんだから…誰か、頼むよ。」
との拓郎の言葉に、

「木村も田端も初対面でどちらもよく知らない上に、姫様をきっちりと護衛している、なんだか完璧な勇者様でもあらせられる錆兎閣下が良いと思いますっ!」
と女子高生3人組はピシっと手を挙げて宣言した。

こんな時でも通常運転の同級生達に善逸はさすがに頭をかかえ、炭治郎はため息をつく。

当の錆兎はというと、”義勇の護衛”と認識されているという一点で秘かに機嫌を良くしたらしい。

「ま、ここにいる限り、義勇の身の安全の確保の一環にもなるしな」
と、当たり前にポケットから出した手袋をはめて、炭治郎に義勇を託すと部屋の中に歩を進めた。


部屋の作りは自分達のものと全くかわったところはない。
だから当然収納その他はわかっている。

なのでゴムボートレベルの物が入りそうな場所、ベッドの下を確認した後、次にクローゼットを開けた。

「これ…ですか?」
そこにはビニールに入った膨らますタイプのゴムボートが空気を抜いた状態でしまってある。

「あ~、それだよ、それ!君達がくるまでは確かに倉庫にあったんだが…」
と、驚いた声をあげる拓郎。

「え??しらね~ぞ!ざけんなっ!俺らがくる前にここにいれといたんだろっ?!!」
焦る田端だが、

「鞄を入れた時に気付くんじゃないか?」
と、同じくクローゼットの中にしまってあった鞄を見ていう炭治郎の指摘に、言葉につまった。

「ま…まじ知らないんだっ!ホントだって!」
救いを求めるように錆兎にすがりつく田端だが、拓郎はほうきを手に

「錆兎君っ!そいつから離れるんだ!」
と、叫んで田端を威嚇する。

実はこの時点で、錆兎は田端に対して一片の危険も感じては居ない。
だが、それを説明するのにはもう少し時間がほしいところではあるし、なにより犯人と思われる相手を野放しにされては、皆の精神衛生上よろしくないだろうとは思う。

なので田端と拓郎を交互に見比べて少し考え込んだあと、

「まあ…とりあえず俺なら平気なので。こいつは一応二人以上で見張りましょうか」
というが、拓郎は

「そんな必要はないっ!
他の子に危害を加えられたら危険だし、とりあえずワイン蔵に放り込もう!
あそこなら外から鍵かけられるからっ!」
と呆然とする田端を引きずって行こうとする。

「ちょ…待って下さい」
止めようとする錆兎の腕を、今度は真由がつかんだ。

「友達…巻き込んじゃったの私だから。剛だけじゃなくて、これ以上誰か死んじゃったりしたら申し分けなさすぎて生きていけない!」
と、また号泣する真由に困る錆兎。

チラリと救いを求めるように善逸に視線を送ると、善逸は
「大丈夫、真由のせいじゃないから。」
と声をかけ、真由の肩をだいて女性陣と共に下へと降りて行った。

「錆兎、とりあえずまだ何か確認に時間がかかるようなら、善逸と義勇さんは俺が連れて行くな?」
と、気を利かせて言ってくれる友人に感謝をしつつ了承して頷くと、3人もまた階下に降りていき、錆兎は1人静かになった場所に残される。

そして改めて考え込んだ。

確かに…鍵のかかった部屋にゴムボートを運び込めるのは部屋の主で鍵を持っている田端かマスターキーを持っている拓郎。

しかしもし木村の遺体をゴムボートで運んだとすればボートを使用したのは木村の死後になるから早くても11時すぎ。その時刻から朝食までは田端が部屋にいた。
その後から今までは拓郎は2Fに上がっていない。

では姪の真由が朝にといっても真由は真由でずっと真希達と一緒だったためそんな事をできる時間はなかった。
状況的には確かにボートをクローゼットに隠せたのは田端だけという事になる…。

ということは…遺体を運べたのも田端だけなわけで…。


錆兎はため息をついた。

正直…田端は犯人ではないんだろうと思う。
犯人ならあんなに堂々と犯罪に使ったであろう道具の隠し場所を見せないだろうし…。

柿本や湯沢はそこまでの犯罪を犯す理由も頭脳も度胸もない気がする。

とすると必然的に残るは…真由を心配するその他の面々なわけで…
もしくは真由自身か…。

謎を解くべきなんだろうか…解いてしまえばそれを黙認する事は当然できなくなる。
犯罪と確定したものを見逃す事はできない。
やめるならいまだ。

そう、それは暴くべき犯罪なのかが判断できない。
少なくとも殺された木村と生き残った側の空手部以外の面々を比較した場合に、どちらのほうが問題を起こしていそうかと言えば前者なわけで…

田端以外のおそらく善良そうな面々が犯人なのだとしたら、何か法では裁けないがやむにやまれぬ事情がありそうな気がしないでもない。

検証と推理をスタートすべきかしないべきか。
少なくともしなければいけない義務は、たまたま巻き込まれてこの旅行に同行することになっただけの錆兎にはない。

このままだと警察が来ても状況証拠からすると田端が犯人として捕まるだろうが、それが冤罪だったとしても田端とは縁もゆかりもないわけだから、錆兎が気にするところではないのもわかっている。

ならわざわざ友人である善逸が仲良くしている同級生の女子達を困らせるようになるかもしれない事件の真相を暴く意味が果たしてあるのだろうか……


廊下の壁にもたれかかって腕組みをしながらそんな事を考え込んでいると、1階に続く階段の方から軽い足音が聞こえてきた。

一応田端が犯人と仮定されて彼が密室に隔離されている状態とは言え、こんな殺人が起こったばかりの状況で1人で行動するなんて、随分と剛毅なことだと半ば感心、半ば呆れつつも視線を向けると、そちらから缶コーヒーを片手に真由が歩み寄ってくるのが見える。

そして錆兎の隣までくると、

「…これ…よかったら。
下ではみんなお茶してるから」
と、手にした缶を差し出してきた。

「ありがとう。少し脳に糖分入れたいとこだったから、ありがたい」
と、錆兎はそれを素直に受け取ると、プシュッとプルトップを開け、甘いコーヒーで喉を潤した。

そんな自分を隣でじ~っと見上げている視線。
それに気づくと、錆兎は窓枠のところにトン!と缶をいったんおいて、視線の主を見下ろした。

錆兎の視線が向いた事に気づくと、真由は、あのね、と、まっすぐその視線を受け止めつつ口を開く。

「鬼…だと思うの」
「鬼??」
唐突な言葉に首をかしげる錆兎。

真由はそれに大きく頷いて続けた。

「悪魔とかでも良いわ。
とにかく人の心に巣食う悪いもの。
それが今回の事件を起こしているんだと思う。
だから絶対に錆兎さんの手で事件を解明して悪魔を捕まえて。
でないと……」

「…でないと?」

”無関係な人”にまでその悪意の矛先が向かうかも知れないから……」

言いたいのはそれだけ、と、真由は錆兎がそれについて言及したり聞き返す間を与えず、1階に降りていってしまった。


呆然とする錆兎。

何故彼女が自分にそんな事を言ってきたのかはわからない。
普通に事件を解明しろとだけ言われるなら、なるほどただ自分の恋人を殺した人間を糾弾したいのだろうと思うわけなのだが、そういうわけではないだろう。

何故なら皆田端が犯人だと思っている。
それで事件は解明したと思われているが、彼女は”そうでないこと”を知っている。
だから”真実を解明しろ”と脅してくるのだ。

そう、あれは…脅しだ。

”無関係な人”というのは、言うまでもなく、空手部達と同級生でもある3人娘でも、他の空手部の面々でもない。

問題の人物と全く面識がない初対面の自分達。

その中でも一応空手部の同級生の元同級生である善逸を除いて一番彼らから遠くて無関係なのは、炭治郎と自分と義勇だ。

その中で自分と炭治郎はある程度武道の心得があって身を守りやすい。
そうなると…ターゲットに一番なりやすい無関係な人間はただ一人だ。

おそらく…とても嫌な認識なのは言うまでもないが、彼女のあの言葉は、“真犯人をみつけないと義勇にも被害が行くぞ”ということなのだろう。

やっぱり一筋縄では行かない油断のならない女だ…と、錆兎は息を吐き出す。

大切な大切な恋人を人質に取られているようで実に気分が悪い。
が…気になることは気になる。

真由は田端が本当の犯人じゃないということを知っているからこそのあの言葉なのだろうが、何故知っているのだろうか…。

田端と特別な関係があるのか、あるいは…真犯人を知っているのか…
もし真犯人を知っているとするなら、何故それを言わないで錆兎に解明させようとするのか…

どちらにしても、これで錆兎的には真相を暴かないという選択肢はなくなってしまった。

他人の手のひらで踊らされているようで不快だが、大切な義勇の安全には変えられない。

──さあて…探偵モード発動か……

ぱしっと両手で頬を叩いて気合をいれると、錆兎はもう一度状況を整理し始めた。



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