全部で8部屋ほどのペンションなので、大浴場といってもとてつもなく広いわけではない。
善逸は実は掃除は嫌いじゃないので鼻歌を歌いながらデッキブラシで浴室のタイルをみがきあげる。
それでもさっさと終わらせればいいだけだ、と、善逸が掃除を続けていると、しばらくして
「ごめんな。1人で掃除は疲れただろう。
俺が変わるから休んでくれ」
と、ガラガラっとガラス戸が開いて、ズボンと服の袖をまくりあげるなど掃除する気が満々の格好の炭治郎が姿を表した。
「炭治郎っ!」
これまでの善逸の人生で仕事を一人で押し付けられている時にこんな風に手伝いに来てくれた人間はいなかったので、普通の人間なら当たり前の事なのかもしれないが善逸はなんだか感動してデッキブラシを放り出してかけよる。
すると、炭治郎は、来てくれただけでも十分嬉しいのに
「クラスごとに宿題が違うらしく、ずいぶんと時間がかかってしまって悪かった」
と、何故か謝ってくれた。
「ううん。俺の関係者だし。
むしろ巻き込んでごめんね?」
と、善逸はそれに逆に謝る。
それからは2人でなかよくフロ掃除。
「そう言えば…錆兎達はどうしたんだろう?
まだ部屋?」
ゴシゴシとタイルを磨きを再開しながら言う善逸に、炭治郎は
「いや。キッチンらしい」
と苦笑した。
まあ…本当はふたりでゆっくりしたいのだろうが、あの会話を聞いては致し方無いと思ったのだろうなと思う。
「みんな、伯父さんこれから見回り行くからご飯の支度手伝ってくれる?」
炭治郎がようやく宿題を終わらせた頃、ドアがノックされて真由が顔をのぞかせた。
そして開いたドアの向こう、廊下でそう依頼してきたのだが、その言葉に女4人が顔を見回した。
「えっと…お皿運びくらいならっ。
でも家庭科の授業以来料理した事ないんだけど、私」
という由衣をかわきりに、私も私もと手をあげる女性陣。
その友人達に、真由は深く深くため息をついた。
「とりあえず…家庭科でやったわけだから全くできないわけじゃないよね?着替え置いたら来て」
と言いおいて、またクルリとキッチンへと消えて行く。
「どうしよう…私家庭科は味見係だったんだけど…」
「私も同じ様なもんよ」
と由衣と利香が顔を見合わせる。
そんな2人に
「皮むきくらいなら…ね」
と真希はそれよりはちょっとはマシらしいが…あまり自信がなさそうだ。
とにかく他に客がいない宿の廊下で女性陣が高い声でそんな話をしていれば、当然部屋の中にも聞こえてくる。
そこで
「怖いな…一応手伝うか…」
と、錆兎は義勇を連れて部屋から出てきて、彼女達と共にキッチンへと向かったのだった。
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