「会長様達の部屋訪ねてみたんだけど…なんでいないの?」
一方で女性陣ご一行は当たり前に善逸達の部屋に押し掛け中だ。
それに対し善逸と炭治郎は顔を見合わせる。
いや、まずいよね?
たぶん恋人にメロメロな錆兎が女性陣の義勇に対する言葉にイライラしながらもそれでも口にしないくらいなのだから、言っちゃいけないことなんだろうな…と、二人は互いにアイコンタクトで確認し合う。
「あ~…義勇は人見知りだから…気を遣いすぎて疲れないように錆兎が気を回していると思われ……」
と、善逸がまああながち嘘とは言い切れない言い訳をしてみると、
「デリケートなのねぇ。姫様」
と、女性陣は意外にもそれにあっさりのってくれた。
「姫様を優しく労わる会長様の図…素敵…」
「ああ、会長様達の部屋の壁になりたい」
「私はお二人が横たわるベッドになりたい」
「一応全部ツインのはずだけど、どうせならダブルベッドとか用意してほしかったっ!」
という発言まで出てくる女性陣に、どうやら二人の仲に割って入ろうとかそういう方向にならないのは良いが、なんだかおかしな方向に暴走していて、男二人うわぁぁ~~と焦る。
そのまま女性陣のおしゃべりが続き、やがて、
「そう言えばさ、会長様は超頭いいんだよね。
あとで勉強教えてもらえないかなぁ…。
あたし宿題持ってきたんだ~」
と、由衣が言いだす。
「あ~、いいね~」
と利香も言う。
「じゃ、そう言う事であとで宿題持って特攻?」
と言いだす由衣に、善逸が待ったをかけた。
「待って!勉強なら炭治郎に教えてもらうと良いよっ!
海陽ほどじゃないけど、都立松倉高だからねっ。
同じ都立でも俺らと偏差値10以上違うからっ!」
「おお~~っ!!!!」
と女性陣から上がる歓声。
「すごいっ!炭治郎君も頭良いんだっ。
我妻、地味に人脈すごくない?!」
盛り上がる女性陣。
「でもこの人数だからさ、会長様にもお願いできないかなぁ…」
と、それでも諦めない女性陣に、ここであまり良くなさそうな錆兎の機嫌を損ねないよう、義勇と二人の時間を増やしておきたい善逸が悩んでいると、なんと炭治郎が伝家の宝刀を抜いた。
「解いて答えを教えてもいい…」
「炭治郎大先生っ!!」
と、とたんに掌を返す女性陣。
そして
「大先生の気が変わらないうちに、今すぐもってくるっ!」
と、嵐のように去っていく。
一気にシーンとする部屋。
「炭治郎…ああいうの嫌いだよね?ごめん」
炭治郎は基本的に自他共に真面目な男なので、答えを写すような行為は好きではない。
それなのにあえてその主義を曲げさせてしまった。
だからさすがに善逸も悪い事をした気がして肩を落とした。
しかし炭治郎はそれに対して、
「別に俺は良いんだけどな…。
まあ最終的にお前の身の安全に結びつくならしかたがない…
錆兎が本気で怒ったら俺にも止められないし」
とため息をつく。
「本人のためにならないが。善逸、お前は?宿題とかは大丈夫か?」
頬づえをついて言う炭治郎に善逸は首を横に振った。
「いや、試験で間違った部分を直して提出なんだけど、旅行前に終わらせてすっきりとして来たかったから、もう終わってる。
といっても、今回、爺ちゃんの知り合いの元塾の先生に見てもらったんだけどね」
「元…塾の?」
「うん。その先生は塾の講師やってた人なんだけどさ、受け持ってた塾生の一人が自殺したとかでショックを受けて、こっちの生活に見切りつけてUターンらしいよ」
「自殺か。そのくらいなら塾などやめるか別の塾を探すほうが建設的だと思うけど…。
参考までに、どこの塾だったんだ?」
「あ~計西会だったかな。大手の。
確か真由の彼氏の木村達も行ってるって真由から聞いた気が…」
「なるほど。確かに進学率は確かに良いが、キツい事でも有名だな。受験ノイローゼか」
「ん~そういうのと違うみたいだよ。塾のクラスでいじめだって。
若い女の先生だしさ、高校2年の男子とかだともう体格的に大人と変わらないじゃないない?
担当してたクラスで二人の男子が同じクラスの男子に嫌がらせしてたのは気付いてたけど怖くて注意できないうちに自殺しちゃったらしいんだ、その嫌がらせ受けてた方が。
で、怖かったのもあるし責任も感じちゃって郷里では小学生相手の塾に務めるらしいよ。
ま、木村なんかは殺しても死ななさそうだけど、真由とか一緒の塾じゃなくて良かったよ」
そんなことを話していると、伯父の手伝いをすると言う真由をのぞいた女3人が早速善逸達の部屋に押し掛けて来た。
「おまたせ~!!」
「よろしくお願いしま~す!」
と、上機嫌で炭治郎に宿題を差し出す女性陣。
それを受け取り、黙々と解き始める炭治郎。
そんな中で善逸はどうしても気になってコソっと由衣の肩をつついた。
「由衣…ちょっといい?」
少し真面目な顔で言う善逸に、はしゃいでた由衣も真剣な顔になってうなづいて、集団から少し離れた窓際に移動した。
「どした?」
と、コソっと聞く由衣に、善逸はちょっとうつむく。
「あのさ、俺が聞いていいような事じゃないんだけど…」
「うん?」
「真由ってなんで木村なんかと付き合い始めたの?」
一時期は結構真剣に片思いをしていたこともあって、真由のことはそれなりに見てきたしわかっているつもりだ。
ちゃっかりしたところはあるが不良に憧れたりとかそういう方向の趣味はないと思う。
むしろ好きなタイプは高学歴、高収入、高身長…いわゆる3Kのはずだ。
だから木村みたいなタイプは嫌いこそすれ真由の好みではなかった気がする。
今それを聞いたからといってどうなるものでもないのだが、それでも長い間片思いをしてきた人間としては…できればもうちょっと彼女に似合った男に乗り換えてくれないものかなと思う。
「ん~…」
由衣は善逸の言葉にチラリとドアの方へと視線を移した。
「今それ聞いてどうするのかな?
だって他に目を向かせようにも、フリーで真由の好みにぴったりの男子なんて用意できないんだから」
と、もっともな言葉を口にする由衣とそれに
「そうだよね…」
と肩を落とす善逸。
確かに錆兎とかなら好みにピッタリかもしれないが、彼はそういう意味では義勇以外に全く興味はない。
「ま、それでもあの状態じゃ気になっちゃうのがお人よしの我妻だよねっ」
由衣はそう言ってうつむくと、
「実はね…」
と話し始めた。
「真由さ…親離婚してるじゃん?
元々親は真由が物心ついた頃には喧嘩ばっかしてて、よく弟と一緒にここの拓郎伯父さんに預けられてたらしいの。
んでさ、ほぼ家族って両親よりは伯父さんと弟って感じだったわけよ。
だから学校卒業したら母親ん家出てここで伯父さんを手伝って暮らすつもりらしいんだ。
で、弟は音大目指してて、でもやっぱり最終的にはここで暮らすつもりだったらしいのね。
ところがさ、去年の7月ね、しばらく真由休んでて。
あたしらもあとで知ったんだけど弟が事故で死んじゃったからなんだって。
で、すご~くガックリしてたその頃にたまたまバイトで一緒になったのが木村だったらしくて…。
まあ…もう過去の話だから言うけど、1年くらい前からかな。片思いの相手がいたらしいのよ。で、あたし達がそれ聞いたのが5月頃。
口も聞いた事ないって当時言ってたから、相手は木村でないことは確か。
それでも真由、夏休み前日にはダメ元で告白してみるって言ってたから、休みあけたら木村と付き合い始めててびっくりしちゃった。
今にして思えば、弟亡くなって、片思いの相手に告白して玉砕のコンボでヤケになって木村だったんじゃないかなと思うんだけど…」
「そう…だったのか…」
「でもせめて…真由ももうちょっと良さげな奴に乗り換えてくれたらな…」
それでも口をついて出る善逸に、由衣もうなづいた。
「うん…。だから今回我妻が男友達連れてくるって聞いた時ちょっと期待しちゃった。
スペック的には問題ないんだけどね…会長様にちょっかいかけたら全国にどれだけいるかわからないモブ女会の会員に殺されちゃう」
善逸と由衣が部屋の隅のベッドの影でコソコソっとそんな話をしていると、不意に内線がなって炭治郎が出る。
そして内線を切ると
「今朝倉さんから連絡があった。
部屋にも風呂はあるが、大浴場あるから夜に入りたいなら掃除しろということだ。
善逸行くぞ」
立ち上がりかける炭治郎の服の袖を利香と真希がしっかりつかむ。
「…な、なんだっ?!」
とその真剣な顔に若干びびる炭治郎に、二人はきっぱり
「炭治郎大先生はダメっ!宿題終わるまでは絶対にダメっ!!」
と言ったあとに、くるりと善逸の方を向いた。
もう女性陣の決死の形相は、下手をすれば空手部より怖い気がする。
「お風呂掃除くらい我妻一人でできるよね?!」
と、もう断ったら殺されそうな血走った眼で言われて、善逸は思わずコクコクと言葉もなくうなづいた。
Before <<< >>> Next (10月5日0時公開予定)
0 件のコメント :
コメントを投稿