「さあ着いたよ」
雑談をしつつ陸地を離れて約2時間。やがてクルーザーが船着き場に止まる。
そこは半径2kmくらいの小さな島で、船着き場から少し奥まった所に直系100mくらいの湖。
その中央にそれはそれは可愛らしいミニチュアの城のような建物が建っていた。
各部屋のバルコニーも可愛ければ、上には見晴し台のような塔に鐘まで着いている。
本当におとぎ話のようなシチュエーションだ。
思わず歓声をあげる女性陣。
城と岸は跳ね橋でつながっていて、岸の方には可愛らしい呼び鈴のついたポールが立っている。
可愛いものが大好きな義勇も目をキラキラさせていて、それを錆兎が優しい目で見降ろしているのをチラリと横目でうかがって、善逸はとりあえずホッと胸を撫でおろした。
今回の旅の安全…というか、一緒にいる時の自分たちの身の安全は全て錆兎が握っていると言っても過言ではないし、その錆兎の機嫌を損ねたくはない。
そして…義勇が楽しんでいることこそ錆兎の機嫌に直結するので、義勇の機嫌が最重要課題なのだ。
「一応…防犯の関係上私が18:00にあたりを警備に見回ってその後19:00にはこの跳ね橋はあげてしまうからね。で、翌朝8:00にまた降ろすよ。
夏は海水浴とかもできるから外の倉庫には浮き輪とかゴムボートとか釣り道具とか諸々入ってるけど、今使えそうなのは釣り道具くらいかな。釣りは外に行かなくても部屋から釣り糸垂らせるしね。言ってくれれば餌も提供するよ」
拓郎は一同を中にうながしながら、説明をする。
「ということで部屋割りは女子は由衣と利香、私と真希が同室ね。
で、あとは会長様と義勇君、炭治郎君と我妻、剛と田端、柿本と湯沢の組み合わせで♪
客室は全部が海の見える方向に面してるから眺めはいいよ♪」
そうして広いリビングにとりあえず腰を落ち着けて拓郎が食材の確認へ奥へ消えると、
「おい、ガリ勉、さっきの続き…」
と、田端がにやりと錆兎の前に歩を進めた。
それを合図に他の3人も左右と後ろをかこむ。
「ちょっと、やめなさいよっ!」
由衣が言うが
「怪我したくなかったらひっこんでろっ!」
と怒鳴りつけられて身をすくめた。
「私、伯父さん呼んでくるっ!」
と、真由も青くなって走りかけるが、木村に腕を取られ
「お前誰の女なんだよっ」
とすごまれると、同じ様に身をすくめる。
「で?我妻は?お友達に加勢するならしてもいいぜ?」
真由の腕を乱暴に放すと、木村はにやりと今度は善逸に目を向けた。
これは…自分も一応参戦しないとダメな奴なんだろうか…と善逸は青ざめ、炭治郎は
──錆兎、加勢しますっ
と、腕まくりをする。
が、錆兎はそれをあっさり断って、
──あ~、炭治郎、俺より義勇の護衛を頼む
と、普通では納得しないであろう炭治郎に役割を与えた。
「なにぃ?連れて来ておいて自分は参戦しないの?我妻ぁ!」
と女性陣からブーイングの嵐だが、そんな無茶を言われても…と、善逸は思う。
そこで自分だってお前らの巻き込まれだと言い返さないところが、女子に優しい善逸の善逸たるゆえんだ。
そんな女子に代わりに返事を返したのは錆兎である。
眉尻を下げて少し困ったように笑いながら
「人には向き不向きがあるしな。
善逸は荒事に向いていないから、怪我をする人間は少ない方が良いだろう?」
と言う錆兎に、空手部は勢いづいて
「怪我すんのは自分だけで充分ってか?
泣かせるな、ガリ勉君」
と、嫌な笑いをうかべた。
それに対しては、錆兎は満面の笑みで
「いや、俺はたぶん怪我はしないぞ?
お前たちにも極力怪我をさせないようにとは思っているが、加減を間違ったらすまん」
と、返す。
それに空手部の男子たちは一気に逆上したようだ。
「なんだとっ!調子にのってんじゃねえっ!」
といきりたって距離を詰める田端。
しかし繰り出された拳は軽く避けられ、逆に錆兎に投げ飛ばされる。
転がってうめく田端を見下ろして
「武道やってるのに受け身もとれないのか…」
と、心底不思議そうな目を向ける錆兎。
「この野郎っ!」
それに逆上してかけよる3人が田端と同様、錆兎に床に転がされるのはあっという間だった。
ポカ~ンとする一同。
「ちょっ何これっ?!」
シン…と静まり返った沈黙を破ったのは由衣の声である。
「武道の有段者ってこんなに強いものだったんだ?!」
と言う女性陣に善逸はぽりぽりと頬をかきながら
「えとね…去年の高校生連続殺人事件の凶器持った犯人を素手で取り押さえた人だから…部活レベルでちょっと空手かじったくらいの素手の高校生なら、こんなもんじゃない?」
と苦笑いで答えた。
「うっそ~~!!!」
女性陣は大騒ぎ。のされた男4人は呆然だ。
「まあ…またやるなら一人ずつならなるべく投げない様に気をつけてやるから、単体でこい。
受け身も取れない相手を投げて怪我されるの怖いからな」
錆兎は、まだ呆然と床に転がっている男4人にやっぱり淡々とした口調でそう声をかける。
そしてそのまま
「先に部屋行くぞ」
と善逸に声をかけると、義勇の荷物も持って階段を上がって行く。
それをダダ~っと利香、由衣、真希が追って行った。
真由は木村にかけよるが、手を振り払われて怒鳴りつけられている。
それを複雑な気分で見る善逸。
告白もできないまま失恋した自分が口を出す事じゃないが、それでも好きだった相手なので、真由がなんで木村みたいな奴とつき合う事にしたのかがよくわからない。
「…善逸?」
どこか悲し気な目でそちらを見ている善逸に炭治郎が気づかわし気に声をかける。
それに我に返った善逸は、真由の事が気にならないといったら嘘になるが、自分がどうこうできるわけでもないと
「あ、ああ、ごめん。俺らも行こう」
と、炭治郎にそう応えて客室のある二階へとうながした。
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