リトルキャッスル殺人事件sbg_4_不穏な始まり

そうして全員が乗り込んで船が動き出すと、重い空気を破るかの様に
「とりあえず…自己紹介しよっか」
と、真由がにこやかに切り出した。

「まず私達からねっ。
私達女4人と我妻と男4人は都立高2年で同級生っ。
私は朝倉真由。今回の宿の持ち主の姪ですっ。
で、ポニテの子が市川利香、その隣が榎本由衣。
さらにその隣が工藤真希。
男性陣は我妻は良いとして…私の隣が木村剛、これは私の彼っ。
その隣が田端浩平、柿本元、湯沢政史、敬称略って感じで。
ということでよろしくっ」

そんな風に真由が一通り紹介すると、
「んじゃ、俺の側ね」
今度は善逸が引き継いだ。

「宍色のガタイの良いのが鱗滝錆兎、その隣が冨岡義勇。
なんかさ、由衣達なんでか知ってるみたいで今更なんだけど、二人とも”あの”日本屈指の進学校海陽学園の生徒で錆兎は生徒会長、義勇は書記ね。
後の一人炭治郎は都立高。
全員高2。俺達と同い年」

善逸の言葉に
「会長様と姫様と一緒に旅行できるなんて~~!!」
と、女3名がまた嬌声をあげて、男3名が嫌~な顔をした。

「なんだ、ガリ勉かよっ」
と男側から声が飛ぶ。

それに対して炭治郎がちょっとムッとして何か言いかけるのを制して、錆兎は淡々と
「ま、そうだな」
と答えるが、女3人からは
「いや~ね、ひがんじゃって~」
と、声があがる。

それに逆上した田端が
「なんだよっ!」
と、立ち上がって一番近い由衣のジャケットをつかみかけるが、その手首を錆兎が少し身を乗り出して掴んだ。

それを振りほどこうとする田端の手がプルプル震えるが、軽く掴んでいるように見えて全く振りほどけない。

錆兎はそのままゆっくり田端の手を本人の膝まで誘導すると、
「船の上で揉めると落ちるぞ」
と、自分も席に座り直す。

「船降りたら覚えておけよっ!ガリ勉!」
赤くなった手首をさすりながら自分をにらみつける田端の言葉に、錆兎は
「まあ…そのくらいの時間なら覚えていると思うぞ」
と、また淡々と言って肩をすくめた。


『錆兎、なんで言わせておくんですかっ?』
制された炭治郎がコソコソっとつぶやくが、錆兎は
『言わせとけ。俺に敵意が向いてるくらいの方が楽でいいだろう?
俺なら物理で来られてもねじ伏せられるしな』
と、やはり小声で実に頼もしいことを言ってくれる。


錆兎と炭治郎がそんな会話を交わしている間、義勇は女性陣の熱い視線も男性陣の妬みに満ちた視線もフツメンの自分には関係ないし、錆兎は強いからチンピラごとき何かあってものしてしまうし大丈夫だろうから…と、全てが他人事として、延々と続く波間に視線を漂わせていた。

なにしろ同じ生徒役員といっても会長と書記では格が違う。
容姿だって錆兎のような目の覚めるイケメンと違い、貧相なフツメンだ。
と、本人は心の底からそう思っている。

……が、
実は他人事ではない。
本当は他人事ではないのだ。

その証拠に…

「ねぇ…あれ見て…。絵になるよねぇ…」
コソコソっと小声で言って由衣が義勇を指差す。

「うん…物憂げに波間を見つめる麗人…」
利香がうなづいて同意し、真希も
「まつげ長~い!色白~い」
「うんうん」
はしゃぐ女性陣。

「…野郎はむかつくけど…女は悪くねえ」
「着いたらちぃっとお近づきになるかぁ?」

…と、実はネットで展開されているスレ、海陽学園生徒会の役員の皆様を愛でる会、別名【モブ女会】のスレ民である女性陣がそのノリで”姫”と呼んでいたのと、大柄な錆兎の横でぶかぶかの錆兎の上着に包まれて小さく見えることで義勇を女子と勘違いしている空手部が舌なめずりをしている。

そして、ハッキリわかるくらいに下降していく錆兎の機嫌。
あわあわ…と動揺して善逸が
「あの子は無理だからね?やめといてねっ」
と女性陣に哀願した。

それに彼女達は
「わかってるって~!姫様は会長様のものだも~ん!
手を出すものじゃなくて、二人まとめて愛でるものだよっ。
ま、どうせならフリーのさねみんとか杏寿郎様とかも連れてきて欲しかったけど…」
と、楽し気にはしゃぐ。

その言葉に
「へ???」
と、ポカンと口を開けて呆ける善逸に、由衣がにこりとご本人達には秘密だよ?と言いつつ
「実はね、【海陽学園生徒会の役員の皆様を愛でる会】っていう海陽学園生徒会役員の方々を遠くから拝見して楽しむだけのファンクラブみたいなものがあるんだよ」
と、教えてくれた。



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