青い大地の果てにあるものオリジナル _4_16_基地攻略会議

「今では城という形態はとっていませんが、確かにそれらしき建物は存在してますね」

ツクシがルビナス&ジャスティスを隠れ家内の会議室に集めて報告したのは4日後だった。

「表向きは普通の高層ビルですが、レッドムーンのダミー会社の所有で、地下から魔導生物やイヴィルの種子を運び出す通路が港に通じている様です。
中はまだ探索中ですが十中八九間違いないでしょう」

椅子の上で足を組んで、つくしは現在の段階でわかっている事実をプリントした資料をまずひのきとなずなに手渡し、あとはヒュッヒュッとテーブルの上を滑らせてそれぞれに送る。

「二人にだけ態度違うし…」
と言うユリの言葉に、ギロっと冷たい視線を送るツクシ。

言いたい事はありそうだが、とりあえず会議中に兄妹喧嘩を始めない理性があるのは、さすがに鉄線一族の長ではある。

「ここから運び出される生物や種子の行き先もチェック中ですが、一部判明した範囲でも北米、北欧、豪州、中国等広範囲に及ぶので、ここは前線基地ではなく、むしろ魔導生物や種子の製造所と考えるのが妥当でしょう。
ということで…なずな様がご覧になってきた場所にほぼ間違いないと思います。
本拠かどうかは別にして、ここをつぶせばある程度魔導生物や種子の製造がストップし、敵の数が減る可能性も高いですね」

ここでツクシが言葉を切って周りの反応を伺う。

「まず…街中にある事を考えると被害を最小限にとどめる為にも地下通路や各入り口からの敵の流出を防ぐのにフリーダムをもう少し送ってもらうのが先決ね」
ルビナスが顎に手をやって言うのに、ツクシは
「いや、その人員はこちらで用意させてもらう」
と手を軽く振る。

「でも…一般人にそれをさせるのは…」
と少し眉をしかめて不快の意を示すルビナスを、ツクシは鼻で笑った。

「敵を止める事にかけては世界のどの軍隊よりも堅固な石頭集団と幸い連絡が取れたんでな。
まあ、やらせておけばいい」

「まさか…?」
「はい。河骨の杉が小躍りしてましたが?」

「杉か」
ツクシの口から漏れた名にひのきは懐かしげにその名を繰り返す。


「失踪前は河骨の跡取りですしね。
紫苑に付いて行った輩と地元に残ったわずかな人間以外の河骨は全て杉の指揮下でお館様のご命令を待ってますよ。
そりゃもう、どこぞの忠犬ハチ公なみに。
呼んでやったらどうです?尻尾ブンブン振ってやってきますよ?」
クスっと若干見下したような言い方で言うツクシに、少し顔をしかめるルビナス。

「ツクシ君て…身内だとほんっとに馬鹿にしたような見下した言い方するのね。
よくそれでよく皆ついてくるものだわ」

「そりゃあ…それだけの実力ありますからね、"副部長様”」
ニッコリと言うツクシに、ルビナスは
「コーレア!このクソ生意気なお子様なんとかしてよ!!」
と横に座るコーレアに怒りを抑えた小さな声でつぶやいた。

コーレアはふられて困ったような視線をひのきに送る。

「ツクシ、いちいちルビナスの神経を逆撫でする言い方するな。
本部の人間とあまりもめるようならブルースターには連れていけないぞ」

ひのきがしかたなく間に入ると、ツクシはとたんにガタっと立ち上がり
「申し訳ありません!」
とひのきに向かって90度頭をさげる。


「…その態度もやめろ。とにかく座れ」
ひのきが軽く手を振ると、はっ!とまた軽く頭をさげてツクシは座った。

「で…敵を防ぐ役だが…やはり今更河骨まで巻き込むのもなんだしフリーダムを呼ぼう」
とひのきが書類を丸めてコンコンと軽くテーブルを叩きながら言うと、ツクシは首を横にふる。

「いえ…どっちにしても来年杉が20歳になれば河骨も一族あげてブルースターに駆け込むつもりらしいんで、時間の問題かと」

「河骨までか…」
あきれるひのき。

「まあ俺ら鉄線と違って頭悪いんで試験にパスできるかどうかは別ですが、そのつもりらしいですよ。
今回俺ら鉄線だけお館様と一緒なのをすごいひがんでたんで、うっとおしいし呼んでやって下さい」

「…連絡はすぐ取れるのか?」
もはやあきらめの境地でため息をつくひのきに、つくしは
「実はもう隣の部屋に呼んでます。」
とにやりと笑った。



「お館様っ!お久しぶりでございますっ!!」
つくしに呼ばれて会議室に入った杉は、ひのきの前に膝まづいて男泣きに泣いた。

「お前にも…苦労かけたみたいだな」
そのあまりの勢いに苦い笑いを浮かべてひのきが言うと、
「もったいないお言葉っ!!」
と、杉は叫んで絶句した。

「これはまた…ツクシ君とは真逆な意味ですごい子がきたわね」
ルビナスも苦笑する。
あのツクシと気があわないはずだ、と納得する。


「とりあえず…ツクシから話は聞いているか?
今対峙している敵の街への流出を止めるのに、お前達河骨の力を借りたい。
敵は俺や俺の仲間のジャスティスが持つ特殊な武器以外の攻撃は効かないんで足止めするにも防戦一方になるから甚大な被害になると思う。だから無理にとは言わない。
お前も長として守るべきものがあるだろうし、駄目なら駄目で断ってくれ」

「とんでもありませんっ!!!」
ひのきの言葉に杉は声の限り叫んだ。
その勢いに若干びびるなずな、ホップ、ルビナスの3人。

一族の面々は杉らしい態度に苦笑する。

「我らが一族はたとえ負け戦と知っても最後の最後まで主を守って勇敢に散った武士の血統ですっ!!
お館様をお守りせずに何を守れと申されますかっ!!
例え一族郎党一人残らず死すともご命令は果たしてご覧にいれますっ!!!
どうか河骨にお任せをっ!!!!」
杉はガバっとその場に土下座した。

「え~っと…」
額に冷や汗をかくホップ、ルビナス、コーレア。

「すごいね…この人達が本当にいつか本部に来るん?」
こそこそとユリに耳打ちするホップ。

「ん…まあ…試験に受かれば…だな。脳筋ぞろいだし」
若干落ちるといいな、という空気を匂わせてユリがあらぬ方をみて答えた。

河骨の気質や行動パターンも知ってはいたのだが久々に見るとなかなか強烈で、なんと言ったらいいものか迷うひのき。
ツクシはそのひのきと杉を見て面白そうにニヤニヤ笑っている。

「えと…杉…さん?」
誰もが動かない、もしくは動くに動けない中、なずなが立ち上がって杉の前にしゃがみこむと、顔を上げて下さいな、とその肩に軽く手をかけて顔を上げさせた。

「危なくなってきたら敵を止めるより周りの一般の方々を危険な区域から逃がす方向に切り替えて下さい。
一族郎党死なれるとタカも少し…いえ、だいぶ悲しいと思うので、くれぐれも死なない程度にお願いしますね」
少し困った笑みを浮かべて言うなずな。

そこでようやくひのきも我に返ってなずなを立ち上がらせると、その肩に手をおいた。

「そうだ、なずなの言う通りだぞ。くれぐれも無駄死にはするな。
河骨ほど防衛に優れた一族は他にいないんだ。
その優れた能力も生きていればこそ発揮できるんだからな」
杉はぽか~んと口をあけたまま二人の顔を見比べる。

「あ……奥方様…でございますか?」
「ん…まあそんなもんだ。まだ籍は入れてねえが」

「さようでございましたかっ。知らぬ事とは言えご挨拶もせず失礼致しましたっ!
奥方様、河骨の長、杉でございますっ!
犬馬の労を厭わず尽くさせて頂く所存ですので、何でもお申し付け下さいっ!」

今度はなずなに向かってガバっと土下座する杉に少し困って、それでもなずなは再度その前にしゃがみこむと、だから、顔を上げて下さいなっ、とまたその肩に手をかけて顔を上げさせる。

「ジャスティスの睦月なずなです。
今回はご協力ありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します。」
と、硬直する杉ににっこり微笑みかけた。

「ジャスティスっつってもなずなは攻撃力皆無の治癒系だからあちこちから狙われてるし、いつ何時お前らに守ってもらう事になるかわかんねえからな。死ぬなよ?杉」

同じくその前にしゃがみこんでなずなの肩に手をかけて言うひのきに、杉は
「一命にかけてっ!」
とまた土下座した。

「ま、話進まないんで、忠犬の挨拶はこれくらいにしてもらって、話続けていいですか?」
ツクシの言葉にうなづくと、ひのきは立ってなずなを席にうながし、杉も空いてる椅子にうながした。

「というわけで、ですね、敵を防ぐのは河骨に任せるとして、副部長様はどうするんです?同行します?
俺的には鉄線の方で集めさせる情報を提供するって形で手を打って欲しいんですが。
時間がないのでどうしても念入りに安全対策するってわけにもいきませんし、そうするとぶっちゃけ邪魔なんですよね。何ができるわけでもない人間に付いてこられても。
鉄線の人間なら他の手をかけさせずに勝手に情報集めますし」
全員が席についたのを確認して続けるツクシ。

「正論だけど…あそこまでハッキリいわなくても…な」
困った顔のホップにヤレヤレと肩をすくめるユリ。

コーレアは再度助けを求めるようにひのきに視線を送った。
鉄線と河骨の両家がそろうだけでも薄氷を踏む思いなのにこの上ルビナスか…とさすがにひのきも頭を抱える。

(なずな…悪い。なんとかできねえか?)
と、頼もうとした瞬間、なずながぽつりとうつむき加減にささやいた。

「私が…お願いしても駄目…です?」
チラリと視線だけをツクシに向ける。

「私も攻撃力0の最弱ジャスティスなので無理にとは言える立場ではないんですけど…
タカには言ったんですけど今回は心中色々と複雑なものがあって…気心知れた話相手がいると若干…悲しい気分がまぎれるかな…なんて。
かといってこういう状況で戦っている皆さんにそれを求めるわけにもいきませんし…」

うっ…と言葉につまるツクシ。そこに杉がガタっと立ち上がって叫ぶ。

「駄目じゃないですっ!
護衛必要なら河骨で用意致しますっ!奥方様のご希望ならいくらでもっ!!」
杉の言葉にツクシがあわてる。

「護衛なら鉄線で出すっ!河骨の仕事は外だろうがっ!!」

「でも…良いんですか?」
上目遣いにきくなずなに、ツクシは大きくため息をついた。

「なずな様のご要望ならなんなりと」
半分は河骨に対する意地だったりするのだが、ツクシは渋々了承した。

「ありがとうございます。ツクシさん」
両手を胸の前で合わせてニッコリ可愛らしい笑みで言ったあと、
「杉さんも…お心遣いありがとうございました。嬉しかったです」
と、杉にも笑顔で礼を言うのを忘れない。

「いえっ!奥方様のためでしたらっ!」
自分にまで礼の言葉をかけてもらえた事に真っ赤になって恐縮する杉。

自分達に初めて無駄死にをするなと言ってくれたお館様が選んだだけあってさすがに優しくて可愛らしい奥方様だと嬉しくなる。

「んじゃ、そういうことでっ!
基本、河骨は外の守り、鉄線は情報収集及びお館様達のサポートのために内部に数人散らせます。
で、中でも俺とツツジはなずな様を専属で護衛しますんで、お館様達はご自由にどうぞ。
副部長様は死にたくなければ情報収集に夢中になってなずな様の側を離れたりしないように。
近場にいれば助けるけど、サポートできる範囲外ふらついたりしたら見捨てるんでそのつもりで。
基地内の調査は基地攻めが終わるまでそのまま続行します。
重要な情報持って逃げられてもなんなので河骨の人員の手配ができるなら明日あたり行きますか?」
ツクシが半分やけくそのように言うと、ひのきはうなづいて杉を伺った。

「もちろん!我らはいつでも出立できる準備はできておりますっ」
視線に気付いて杉はうなづいた。








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