青い大地の果てにあるものオリジナル _4_6_特攻

「ルビナス、わりいが今回は手加減なしだ。
記録のための探索とかなしでいっきに奥つっこむから」
怒りと不安の入り交じった余裕のない表情でひのきが言うのに、ルビナスは無言でうなづく。

「一族の事知ってるから鉄線はコーレアと行ってくれ。ホップは俺について感知頼む」
いつもならユリと離れるのをためらうホップも、今回ばかりはそれを了承する。


伊豆から一気に北上して車は富士の麓、樹海へと入る

「一族絡んでるなら車で固まっての移動は危険だ。この辺から歩くぞ。
ホップ、鉄線くれぐれも周り警戒しろ」
行ってひのきは先に車を飛び降り、あとの3人もそれに続いた。

「前方2kmに城風の建物、こいつだね」
ユリが言う。

「んじゃ、鉄線、このあたりの木、一気になぎはらってくれ。移動の邪魔だ」

「了解」
ユリは言ってクリスタルの能力を解除してステッキにする。
そして一気に炎で木をなぎはらった。

建物までまっすぐ炭化した木が崩れ落ち、道ができる。

「ホップ。武器は第二段階な。
なずながいない事を確認して誰だろうと銃ぶちこめ。鉄線は第一。ホップと同じくだ。
知った顔があってもためらうなよ」

「了解。どうせ俺は知った顔なんてないし大丈夫」
「了解。ためらうくらいなら来ないよ」
ホップとユリがそれぞれ言う。

「あ、ただし...つくしがいたら生け捕れ。なずなの居所知ってるかもだから」
「それも了解」
「えと...まあタマにそっくりな相手なら、な」
とそれも二人とも了承する。

「コーレアは...任せる。好きにやってくれ」
おそらく今の自分があれこれいうより適切な行動をとれるだろうと、ひのきはコーレアに言う。

「ああ。任せろ」
コーレアはポン!とひのきの肩に手をおいて前を見据えた。



「行くぞ」
ひのきの声にうなづいて全員能力を発動させると、前方の城に向かってかけだした。

4人が城の前までつき、ひのきとコーレアが閉ざされた門を叩き斬ろうとした時、いきなり
「開門~」
のかけ声とともに門がギギ~っと開かれた。

奥へと続く道の両側にはひのきやユリにとってはよく見知った顔が並んでいる。

「どうする?タカ」
とコーレアが聞いてくるが、ひのきは黙ってさっさと先に立って奥に進む。

「おかえりなさいませ、お館様」
と、ひのきが進む道々の両側に立つ一族の者が言って頭を深々とさげた。


「ど、どういうことなん?話と違うさ」
左右をきょろきょろ見回しながら言うホップに
「さあ?でもとりあえず進むしかないみたいだな。
でも油断するなよ、攻撃態勢はとっておけ」
とユリがひのきの後に続いた。ホップ、コーレアもそれに続く。


まっすぐ進んだ先の大きな扉が開かれると、そこは大広間になっていて、奥には玉座のようなものが二つ並んでいる。
その一つにはキチンと着物を着こなした同年代くらいの娘が座っていた。

ひのき達が広間に入ると、娘の横に控える青年が娘の手を取ってうやうやしく娘をひのきの前まで連れて来て、自分はひのきに向かって膝まづいた。

「おかえりなさいませ。お館様」
にっこりと微笑む娘をひのきは不機嫌ににらみつける。

「一位に...河骨の...紫苑か。なんの茶番だ?」
「覚えていらして下さったのですね。一位は嬉しゅうございます」

不機嫌なひのきとは対照的に娘、一位は嬉しそうに笑う。
そしてひのきに手を伸ばしかけるが、ひのきはそれをピシっと払いのけると言った。

「何の茶番かと聞いているっ!」
とさらに不機嫌に言うひのきに、一位は少し困った様な笑みを浮かべた。

「7年ぶりに帰っていらしたのに随分とご立腹のご様子でございますね」
「里を出てレッドムーンに身を投じたと思えばこんな所にわけわかんねえ城建てて何いってやがる!」

「あの子誰なん?」
イライラ言うひのきの後ろで、ホップがユリの肩をポンポンと叩き耳打ちする。

「ああ、あれな、あれが噂の元婚約者の一位」
説明するユリの声を聞きとがめて、一位はユリにもにっこりと微笑みかけた。

「ああ、お前は鉄線の...。元ではありませんよ。
お館様がこうしてお戻り下さったのですから一位はいつでもお館様に嫁ぐ準備はできてます。お前も良ければ戻っておいで。侍女としておいてあげましょう」
一位の言葉にひのきは大きく息を吐き出した。

「あのな~。貴景はどうした?
7年前俺が出て行ってからあいつが跡取りになったはずだろ?
なんで今更俺をお館様扱いしてんだよ、お前ら」

「わたくしは認めておりませんっ!
ブルースターなる不埒な輩が勝手にお館様を連れて行ってしまっただけでございます。
わたくしを始めとして一族の者もみなこうして貴虎様だけをお館様としてお待ち申し上げておりました」

「貴景は?」
さらに繰り返すひのきに、一位は言う。

「貴景殿は自ら一族のためにレッドムーンなる組織にお館様を取り戻す助力を乞うために異国にいらっしゃいます」

「マジかよ...」
ひのきはため息をついた。

「一位、お前レッドムーンてどういう組織か知ってんのか?」
ひのきの問いに一位はにっこりとうなづく。

「お館様を連れ去った憎きブルースターの仇敵ですわ。
例えそれが悪魔の組織であろうともお館様を取り戻すためなら一位は手を組む事をいといません。
そのために自ら望んでイヴィルなる化け物になった者もおりますし」


「...女って...こわ。」
青くなって思わずもらすホップ。

「俺は戻る気はねえし、一族をレッドムーンに関わらせるのもやめろ」
「嫌でございます。ブルースターが存在する限りお館様がそこに固執されるのですから。
例え悪魔と手を結ぼうとも一位はブルースタ‐をつぶしてご覧にいれますわ」

「...俺と敵対しても...か?」
刀に手をかけるひのきに一位はやはり笑みを絶やさず
「一族をお見捨てになる事ができますか?お館様に」
と言う。


「恐れながらお館様...」
そこで一位の横でかしこまっていた河骨紫苑がひのきをみあげた。

「お館様がお戻りになって一言"レッドムーンと手を切る"とご命令なされば一族皆、それに従いましょう」

「河骨!出過ぎた事を申すでない!一位はそのような事許しませんよっ!」
そこで一位の顔から笑みが消えて、厳しい表情になった。

「出過ぎた真似と申されるなら一位殿の方でしょう?
我らはお館様の臣下であって一位殿はその奥方様にすぎません!」

「妻だからこそお館様の心を乱すものは全て排除すると申しておるのです!
お館様の心を一族から遠ざけるものを全て排除するのが妻たる一位のつとめです!」
河骨の言葉に一位はこぶしを握りしめて叫んだ。

その言葉にふと嫌な想像がよぎってひのきが顔色を変える。

「おい、一位、一つきくが...」
「あ、はい、お館様なんでございましょう?」
一位は即顔を上げ、笑顔を浮かべた。

「...なずなを拉致ったのお前か?」
不安と恐怖で声がかすれる。

「...なずな?ブルースターの小娘でございますか?それなら...」
という一位の肯定の言葉にひのきは目眩を覚えた。そして直後、その言葉をさえぎるように
「そのジャスティスの娘でしたら俺が...」
と奥から声がふってきた。





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