「タマ!」
ホップが驚きの声をあげた。
にっこりと奥からユリにそっくりな人影が姿を現す。
鉄線つくしだ。
と、ゆったりと一位の左に控える河骨と対象になるよう一位の右側に控える。
「...抹殺...」
4人全員が固まるのも気にせず、一位はつくしに笑顔をむけた。
「おお、さすが鉄線。もう守備よく?」
「はい。お館様を一族から遠ざける要因だから排除せよとおっしゃる一位殿のご命令は確かに」
一位に笑いを含んだ声で答えるつくし。
「んで、これがその証拠のクリスタル」
と、つくしは手の中のクリスタルのペンダントを指でクルクル回してみせた。
「これってジャスティスが生きてる限りその身から離れないらしいですよ?」
「うそ...だ」
思わず口からこぼれ出るが、確かにそれからは自分達が普段身につけているのと同じ力を発しているのを感じる。
ひのきは体中の血が凍り付くのを感じた。何かが自分の中で崩れ落ちて行く。
「あ、俺は命令に従っただけなので、苦情は一位様にお願いいたします」
つくしは言ってまた一位の横にかしこまった。
「...が...を...たよ」
「はい?」
その場にカクンと膝をついてうつむくひのきの言葉を聞き取りかねて、一位が膝を折る。
「俺が何をしたんだよっ?!!!」
ひのきが叫んだ。
頭がガンガンして吐き気がする。
「...なんで...だよっ!!
生まれてからずっと自分のために何かした事なんかなかったじゃねえかっ!
一日24時間ずっと一族のためだけに自分を殺して生きてきただろっ!!
俺が自分のために何か望んじゃいけなかったのかよっ!
一つくらい自分のために何か望むのがそんなに悪かったのかっ!!!
それが悪いってんならなんで俺を殺さないでなずなを殺すんだ?!
俺を殺せばいいじゃねえかっ!」
自分が自分の幸せを望んだせいでなずなは殺されたのか...悔恨と自責の念が胸を締め付けた。
自分がなずなを望まなければ...いや、自分さえいなければ...。
床をこぶしで叩くひのきの手をそっと取って一位が胸元に持って行く。
「一族の者全員お館様をお慕いしております。
お館様は一族全員の心の拠り所でございますから」
「やめろっ!」
ひのきはその手を振り払った。
「そんなのわかってるっ!わかってるから今までやってきたじゃねえかっ!!
でも俺だって人間だっ!俺の気持ちはどうなるんだよっ!!
そんなに感情持っちゃいけねえなら、いっそ殺せよっ!殺して剥製にでもして飾っとけっ!!
そしたら一生逃げねえぞっ!!!」
言って絶句したままうなだれた。衝撃が強すぎて涙すら出ない。
「まあ...感情持っちゃいけないとは言いませんから...とりあえず敵討ちでもしてみます?」
からかうような口調で言うつくしに、ちょっと引く一同。
「…もぅ…いい。終わらせてくれ。鉄線、ホップ、コーレア、誰でもいいから…俺ごとこいつら撃てよ」
敵を討っても、誰を何人殺しても、どれだけつらい思いをして手を汚しても、どんなに後悔しても、何をしてももうなずなは戻ってはこない。
もう汚れた自分の手を洗ってくれるという優しい手も、傷ついて戻った時に抱きしめてくれる優しい腕も二度と戻ってこないのだ…。
もう何をしても何の意味もない…
虚ろな目で言うひのきにぎょっとした顔をして慌てるつくし。
「ちょ、ちょっと待った。それは…やめとけよ?ユリ」
「ああ、やるなら真っ先にお前だけ殺ってやるっ!」
逆上したユリがアームスを変形させて三節棍にする。
ホップも機関銃を単体のライフルにかえた。
「お前ら…やる気ないならいい」
ひのきは刀を逆手に持ち自らにむける。
「うあ、お館様を止めろっ!馬鹿ユリ!!」
ブスリと刀が貫いたのは、あわててひのきの前にかばうように出されたつくしの手だった。
虚ろな目で、それでも少し不思議そうに見上げるひのきに、つくしは痛みに少し顔をゆがめながら
「勘弁して下さい」
とそれでも少し笑みを浮かべると、
「発動」
とクリスタルに刀が突き刺さってない方の手をやり唱えた。
するとクリスタルは光に解け、くないとなってつくしの手に収まった。
「つくし…それは…」
目を見開くひのきに
「なずな様のクリスタルとはまた別物ですよ。
せっかく一位達をかたづけるまではなずな様をこっそりかくまわせて頂こうと思ってたのに…」
と、苦い笑いを浮かべる。
「じゃあ…なずなは?」
「はい。ご無事ですよ。隠れ家で一族の者に護衛させてます。
と、いうわけで長の俺を始めとする鉄線一族はこれよりお館様の下に付かせて頂きます」
と、つくしはひのきの前に膝まづいた。
「なんだよっ!そういう事かよ、カッコつけやがってクソ兄貴っ!」
涙目でユリが殴りかかるのを避けて、つくしは
「お前こそなっ、気付いてフォローいれろよっ!
俺がお館様の意に添わない事するわけないだろっ!」
と、ユリの頭をこづこうとして、今度はユリに避けられる。
「ああ、本部から新しいクリスタルの持ち主が日本で見つかったと連絡があったんだが、鉄線の兄貴だったのか」
コーレアが小さく笑った。
「んじゃ、そういうことで、ご命令を、お館様」
つくしがひのきに向かって膝まづくと、ひのきは立ち上がった。
「ここに今潜んでる味方はいねえんだな?」
と確認するひのきに、つくしは笑みを浮かべてうなづく。
「俺以外は全員なずな様をお守りしております」
「おしっ。全員容赦するなっ!
悪魔と手を結んだ時点でもはや一族と思うなっ!殺れっ!」
ひのきは言って日本刀を振り下ろした。
「承知っ!」
鉄線兄妹はそれぞれ左右に分かれて敵の退路を断ち、ホップは後方の敵に機関銃を乱射する。
そしてコーレアとひのきが正面の敵を切り裂いた。
あっという間に累々と屍が並ぶ中にジャスティスが5人たたずむ。
「…片付いたな」
コーレアが発動を解いてつぶやいた。
「ああ…終わったな」
ユリも言って発動を解く。
「いやあ、まじ血の気引いた、どうなる事かと思ったさ」
ホップが苦い笑いを浮かべながら発動を解いて言うのに、つくしは
「敵を騙すにはまず味方からというからな」
と発動をといた。
「タカ?」
コーレアが日本刀を手にしたままその場に立ちすくむひのきに心配そうに声をかけると、ひのきは振り向いて
「鉄線、つくし、今回は悪かった。…お前らにも嫌な戦闘させたな」
とつぶやいて頭をさげた。
「いやいや、私は元々一族、特に河骨は大っ嫌いだから清々した」
とユリが本当に清々しい顔で言うと、
「場所も名称も関係ないです。お館様のいる場所が俺にとっての一族ですから。
お館様の意向に背いた時点でこいつら敵なのでどーでもいいです。
鉄線は所詮場所じゃなくて人につく人種ですから」
とつくしも言う。
「実は…ひのきが一番ダメージうけてない?」
ユリの言葉にひのきは
「いや、俺は…」
と否定しつつ首を横に振るが遺体として転がる河骨の長、紫苑の前にしゃがみこみ開いたままの目を閉じさせると
「こいつにも…気の毒な事したな。
俺は…こいつらにどうしてやれば良かったんだろうな」
と、またつぶやいて肩を落とした。
「肝心の黒幕の一位は逃げたっぽいっですけどね。
ま、良かったんじゃないですか?あの怖い女と一緒にならずにすんで。
なずな様可愛いですよね。癒されるっていうか。天国と地獄ほどの差がありますね」
と、つくしが話題を変えようと口を開いた。
「そいえば姫今どこに?」
と、ホップがその話題にのる。
「ああ、案内しますよ。灯台下暗しっていうか…まあ結構ありがちな場所なんですけどね」
つくしは言ってクルリと反転すると出口へ向かう。
「ここは…念のため爆破しておいた方がいいな。全員でたら鉄線頼む」
コーレアの言葉に
「ほいさっ」
とユリは軽く敬礼した。
そして全員でたあと、ユリの範囲で城は炎に包まれて崩れ落ちた。
パチパチと夜空を炎が染めるその様子をじ~っと眺めるひのきに、つくしは後ろから声をかけた。
「あれが全部じゃないんで。
一族は少なくはなりましたが本家は先のお館様が急死なされた後、末子の貴行様が継いでいらっしゃいますし、河骨もそれに従い地元に残って本家をもりたてている者も修行を積みながら20歳になってブルースターに入れる時を待っている者もおります。
俺は一位がやばい計画たて始めたあたりでお館様に忠誠を誓っている手勢10数名連れて一位の所に潜り込みましたが、鉄線も分家で地元に残ってる奴らもおります。
お館様が気に病まれる事はありません。
みんなそれぞれそれなりにやってますから。
俺らは別にお館様にどうあって欲しいじゃなくて、俺らがお館様の事好きで勝手についてきてるだけですから、お気になさらず。
さあ、なずな様の所にご案内しますから…とりあえず宿に」
うながされてひのきはみんなの待つ車に乗り込む。
そして車が動き始めると
「着くまで少し…一人にしてくれ。」
と、ひのきは一人寝室へと消えて行った。
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