そして食後。今度は男3人、連れ立って風呂に行く。
「じゃ、何か聞けたら報告してよ?コーレア。私だって協力したんですからね」
と、大人組の部屋ではルビナスが言ってコーレアを送り出し、ホップ達の部屋では
ひのきに明日基地攻めなんだから夜は控えろって言っておいてくれよ」
とユリが言うのに
「聞いてたなんてバレたら殺されるって。
でもま、姫食事ん時きつそうだったから注意はしとくけど」
とホップが手を振り、ひのき達の部屋では
「危ねえから鍵かけとけよ。俺は鍵持ってくから、絶対に鍵開けんじゃねえぞ?」
とひのきはまるで留守番の子供にでもするような注意をしつつ、部屋を出てしっかり鍵をかけた。
「露天風呂、いいなぁ...」
すでに内湯に入った後なのでかけ湯だけして露天風呂に直行する男達。
広々とした視界におもむきのある岩風呂で頭にタオルをたたんで乗せたホップが思わずつぶやいた。
「確かにゆったりするな」
とコーレアも同意してうなづく。
「んでさ、実はコーレア今回の部屋割りって気を使わせてる?」
3人湯の中に落ち着くと、ホップが口を開いた。
「ああ、まあ。気にするな。
おかげで俺もこうやってのんびり湯につかれる事になったしな」
コーレアがゆったりと手足を伸ばす。
「気持ち良いな、本当に。夜の涼しい空気の中温かい湯は格別だな。
女性陣にも勧めてやるか」
というコーレアの言葉にひのきが思い切り嫌そうに顔をしかめた。
「やめてくれ。行くならルビナスと鉄線だけで行かせろ。
金輪際なずなは誘わせるなっ。あいつら風呂の中でろくな話しねえから、偉い目にあった」
「なんだ?なんかあったのか?」
聞かれてひのきは口をつぐむ。
「いいじゃん、他誰もいないんだし、何あったん?」
さらにホップに聞かれてひのきは渋々口を開いた。
「あいつら...風呂の中で猥談に花咲かせてて...戻ったなずなに口や手で奉仕するって何かって質問された」
「なっ...」
コーレアがむせて咳き込み、ホップは
「んで、ムラっときてやっちゃったんだ?」
のんきに笑うホップにひのきは顔をしかめた。
「ホップ、お前もな、気をつけねえとマジ鉄線に襲われるぞ?」
「いや、もう襲われたし」
ホップが言うと、ひのきとコーレアが声を揃えた。
「「襲われた...のか?」」
「うん、ムラっときたからって...いきなりイカされた後、最後はタマが上で...」
「おい...男女逆じゃねえのか...」
あきれて小さく息を吐き出すひのき。
コーレアは
「まるで...ルビナスだな」
とやはりため息をついた。
男湯で噂になっているとも知らず、ルビナスは部屋でせっかくだからと日本酒をのんでいた。
明日は基地攻め。
当日は飲まずに体調を整えようと、今日のうちにのむ。
今回はなずなもいることだしひのきは崩れないだろうし、ユリは冷静な性質らしいしこれも崩れないだろう。
ユリがいれば大丈夫とお墨付きだからホップも大丈夫だろうし、もちろんコーレアが崩れたところなど長いつきあいになるが見た事がない。
今回は楽勝だと若干安心感がある。
「一人でのむのもつまんないわね。早くコーレア帰ってこないかしら...」
と、つぶやいた瞬間、ふいに部屋の明かりが消えた。
「な、なに?!」
あわてて辺りを見回すルビナスの首筋に冷たい物があてられた。
「騒ぐな」
いつのまにいたのか気配すら感じさせずに横から聞こえる声にルビナスは硬直した。
「大人しくしていれば今は危害は加えん。話がある。ゆっくりこちらを向け」
こんな時なのに音楽的な綺麗な声だ、とルビナスは思った。
そしてゆっくり横を向いてその人物が目に入ってくると、ルビナスは息を飲んだ。
「ユリ...?」
少しの癖もない綺麗な黒髪の下の端正な顔はまさにさきほどまで一緒にいた鉄線ユリで、思わずつぶやいたルビナスにその人物は
「...の親族だ。鉄線土筆(つくし)という」
と名乗った。
親族...というには似すぎている気もしたが、とりあえずルビナスは
「その親族が...いったいこれは何の真似なのかしら?」
とうながす。
ルビナスの言葉につくしは少し辺りをみまわして人がいないのを確認すると口早に言った。
「時間がないので手短に言う。
現在檜を始めとして鉄線、河骨の一族3家はレッドムーンについている。
今回の日本の基地で迎えうつのは一族だ。心してかかられよと、お館様にお伝え願いたい」
つくしの言葉に驚いて目を見開くルビナス。
目の前の人物は鉄線と名乗った。一族というなら一族なのではないだろうか?
「で?あなたは...違うのかしら?」
と一縷の望みをかけてきくが、つくしは小さく首を横に振る。
「俺はお館様には恩ある身ゆえ、忠告に参ったまで。
ここを一歩でたその瞬間からお館様の敵となる」
言ってつくしはルビナスの首に手刀を落として気絶させ、窓の外に跳躍し、夜の闇へと消えて行った。
左手がピリピリする。
昔からたまにこういう事があった。
それは決まって双子の兄つくしが何か秘密裏に行動している時だ。
5歳の時、ひのきと二人して落とし穴に落ちていたつくしを発見したのも、その感覚が教えてくれたからだ。
漠然とした不安。
ベランダに出て外を見回したとき、ユリはコーレア達の部屋のあかりが消えている事に気付いて廊下に飛び出した。
「ルビナス?!」
ドアをノックするが応答がない。
「くっそ!」
ドアをガン!と足で蹴るとユリは大浴場に走った。
迷わず男湯ののれんをくぐり、そのまま土足で風呂にのりこむ。
「鉄線!どうしたんだ?!」
ただならぬユリの様子に驚く3人。
「ひのき、つくしが来てる!何かあるんだっ!」
ユリの言葉にひのきは湯から飛び出してタオルをまくと、脱衣場へ急いだ。残りの二人もそれに続く。
「タカ、どういう事だ?!」
事情のわからないコーレアがきくのにひのきは手早く服を身につけながら答える。
「つくしは鉄線の双子の兄貴だ。んで?何かあるって?」
と、それだけ説明するとひのきは今度はユリに聞いた。
「わかんないけど...落とし穴ん時もそうだったけど、つくしが何か企んでる時ってなんか左手がピリピリすんだよ、私。
んで、ベランダ出てみたらコーレア達の部屋の明かりが消えてて...ルビナスになんかあったのかもしんないっ!」
「それを早く言えよっ!コーレア!急ぐぞ!」
ホップとユリを置いて素早く移動できる攻撃特化二人が先に部屋に向かう。
コーレアが鍵を使ってドアを開けると、暗い部屋の中央あたりにルビナスが倒れている。
「おい!ルビナスっ!大丈夫かっ?!」
コーレアが飛び込んでペチペチとその頬を叩くと、ルビナスはすぐ目をあけた。
「あ...コーレア...彼は?」
「彼?」
聞き返すコーレアの後ろでひのきが聞く。
「つくしか?」
その言葉にルビナスはうなづいてひのきを見上げた。
「ユリにそっくりで...親族って言ってたけど?」
「親族どころか鉄線の双子の兄貴だ」
ひのきが大きく息をはきだすと、ルビナスが驚いて目をみひらく。
「んで、奴に何かされたのか?」
さらに聞くひのきに、ルビナスはハッとしたようにコーレアを見上げた。
「俺に聞かせたくない話か?
だが基地攻めまで時間もねえし、変なタイミングで知るよりいい。
別に何言われても驚かんから今言ってくれ」
あえてコーレアに何か言いたげだったルビナスの様子を察してひのきがうながす。
「...そうよね、隠しておける事じゃないし、君の理性を信じるわ」
一瞬考え込んだもののすぐに決断して、ルビナスはつくしの伝言をひのきに伝えた。
話を聞き終わってひのきは何か苦いものでも飲み込む様につばを飲み込むと、うつむいて
「......そうか」
とだけ答えた。
「俺より鉄線の方が心配だが...悪いコーレア、任せていいか?」
やがてユリ達の足跡が近づいてくるのに気付いてひのきがコーレアに視線をむける。
「ああ。まかせろ」
コーレアが返事をすると、
「さんきゅ。任せた。ちと部屋戻る」
と部屋を出て行った。
入れ違いに入ってくるユリとホップ。
ユリの方はとりあえずルビナスからつくしの伝言をきくと、コーレアがフォローを入れるまでもなく
「あ...んの馬鹿一族っ!!ちょうどいい!全員ぶっ殺してやるっ!!」
と拳を握りしめて叫んだ。
「もう明日とか言ってないで今からぶっ殺してこよう!!」
とペンダントを手に息を巻いたとき、開いてるドアからひのきが顔面蒼白でかけこんできた。
「ルビナスっ!なずなはっ?!!」
その言葉に全員顔面蒼白になる。
「わ...私は知らない...わ」
ルビナスが言うとひのきは今度はユリに目をむけるが、ユリも首を横に振った。
「...っ!クソッ!」
ガン!とドアを叩くときびすを返す。
「タカ?!」
コーレアがその腕をつかむと、ひのきは
「随行したフリーダムに一応探させて見つかったら連絡くれ。
俺はこれから着替えて基地乗り込むから」
とその腕を振りほどいた。
「待った!!俺も行く!」
と、コーレアが言うと、
「丁度いいやっ。今からぶち殺しに行こうって言ってたとこだし、私もやらせてもらう」
と、ユリが、
「俺タマの飼い犬だからタマが行く所ならどこにでも」
とホップがいい、結局全員着替えて車に乗り込んだ。
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