「ホップは鉄線と同室でなくて良かったのか?」
一号室ではコーレアとホップがそれぞれ荷解きをしている。
若者組ジャスティスがそれぞれカップルなのは明白なわけだし、若いのだから色々あるだろうと気をつかうコーレアの言葉に、ホップは苦笑して首を横に振った。
「いや、俺らはまだそういう事してねえし...」
「ほお、意外だな。タカよりもお前の方がそういう経験多そうなんだがな」
とコーレアは少し驚いて言う。
「うん、まあそれはそう。
フリーダムであちこち回ってた頃は一週間限定彼女とか何人もいたし。
でもタマは...違うからさぁ。
しても良いって言ってはくれてるけど、俺の気持ちの整理がつかないっつ~か...」
「大切すぎて手が出せないって奴か?」
そういう意味では軽く遊んでいるらしかったホップの意外な言葉が微笑ましくて、コーレアは笑った。
「うん、タマは完璧好みだからさ~。
出会ってから二日目にさ、初めて二人で話した瞬間、二目惚れしたっ。
んでさ、タマってつけたの。あだな」
「ああ、そう言えば二人して変わったあだ名で呼び合ってるよな」
お互いにお互いしか呼ばないあだ名。それに改めてきづいてコーレアは言った。
「うん。特別って事アピールしたくて、一生懸命考えたんさ。
他と一緒じゃ嫌じゃん。
だから他の奴が絶対に呼びそうじゃなくて、でもタマっぽい名前」
「それで"タマ"か?」
ヨーロッパ人のコーレアにはなじみのない名前だ。
「うん。日本ではポピュラーな猫の名前なんさ」
「ああ、猫の名前だったのかっ」
納得してコーレアが笑った。
「そそ。元々タマはきまぐれなとこあるからキャットってあだ名あって、俺も猫っぽいな~って思ってたんだけど、他人と一緒じゃいやだしさ。
そしたらタマが逆にポチってあだ名つけてくれた。
これは日本でポピュラーな犬の名前」
「猫に犬かっ。なかなか面白いな」
興味をひかれてコーレアは荷解きの手を止めてホップをむきなおった。
「確かに鉄線は...猫っぽいよな。野良の黒猫って感じで」
「そそ!そうなんさっ!わかってんじゃん、コーレア。
飼い猫じゃなくて高潔な野良猫なんさ。
いつも縛られずに伸び伸びと優雅に飛び回るタマがさ、安心して休みに帰れる空間を作るのが俺の夢だからさ、慎重にいきたいんさ、ステップ進めるのも」
言ってホップは少し伏し目がちに笑った。
「最近戦況もきつくなってきたしな。
タマはさ、心身ともに傷負うの構わず突っ込んでいくからさ。
ボロボロになって戻ってくるタマにとって〇ックスがプラスになるなら良いけどマイナスになるなら、しばらくお預けかな~なんてな。
その見極めがつかなくてさ、まだ」
「難しいなぁ...」
う~んと腕組みをしてコーレアはうなった。
「男はな、そういう時こそしたいんだけどなぁ」
「だろ?今まではさ、タマみたいなタイプとつき合った事なかったしさ。
データが足りないんさ」
「ふむ...まあなんだ、遠征では色々あるからな。
その中で何かわかってくるかもしれんし頑張れ」
日本についたら少し何か企画してやるかな...コーレアは心密かに思ってまた荷物整理に没頭した。
「...っ...タカっ...なに...して...」
こちらは3号室。
部屋に入るなり鍵をかけてなずなを抱き上げてベッドに直行するひのき。
いきなりベッドに押し倒されて口づけられなずなは慌てて小さな抵抗を試みるが純アタッカーのひのきの力にかなうわけもなく、軽く片手で封じ込められる。
「なにって...愛撫」
にやりと言って片手でなずなの両手を封じて片手で器用になずなの前あきのワンピースのボタンを外していくひのき。
「ちょ...だめっ...隣の部屋...人が...」
「寝室は防音。...ま、俺は聞こえても良いけど?」
クスクス笑いながらひのきはことを進めていく。
ひのきはたいていはなずなの意志を尊重してくれるが、これだけは強引にしたがる時はたいてい本人がとても余裕がない時なので抵抗は無意味だ…ということもわかっているので、なずなは諦めて無駄な抵抗を投げ捨てた。
まあいつものことではあるのだが、二人の体力差と言うのはジャスティストップと底辺なので、ひのきの方の体力に合わせると、終わるころにはなずなの意識は宇宙の彼方だ。
「...やりすぎた...」
ひのきは言ってベッドに半身起こして前髪をクシャっとつかむと息をついた。
軽く体を重ねるはずだったのが、やっぱりなんのかんの言って自分自身が日本に戻るのに不安を感じてるせいだろう、抑えがきかなくなっていた。
「...ごめんな」
聞こえるはずもないのだがそう言ってなずなの頭を軽くなでると、ベッドの引き出しをあさって部屋着兼寝間着の浴衣を出してなずなに着させる。
自分も同じくなずなが縫った浴衣を着ると、なずなの横にもぐりこんだ。
いつものなずなの桃の香り。
行為が終わった少しけだるい状態でなずなを抱きしめてこの香りを嗅ぐのがひのきはとても好きだった。
どんなに心がささくれだっている時でもそれで心のトゲがす~っと抜けて行く。
(温泉かぁ...)
信州の山奥の実家は風呂が普通に温泉だったのだが、あらためて言われるとなずなと温泉もいいなぁ...などと少し和んだ気分になってくる。
通常...自宅でもなくどこぞの秘境でもない限りは男女が一緒に入れる所など少ないという事は当然脳裏にはない。
ルビナスに頼んでみるか...と一瞬思ったが、なにかちゃかされそうで嫌だな、と思い直す。
やっぱりここはコーレアに言ってコーレア経由で友人つながりでルビナスに...思いつくといてもたってもいられない気分になって、ひのきはベッドを抜け出した。
「コーレア、ちょっといいか」
一号室をノックすると
「おお、タカ。どうしたん?」
とホップが出てくる。
「タカか、まあ入れよ」
部屋のベッドの上で腹筋をしていたコーレアがドアの所に立つひのきに声をかけた。
「ん、ちょっとお邪魔するな」
ひのきが中に入るとホップがドアをしめた。
「どうした?女性陣に聞かれちゃまずい話か?」
「二人で話したいなら俺居間に行ってようか?」
コーレアとホップがほぼ同時に言うのに、ひのきは首を横に振った。
「いや、全然。単にコーレアに頼みがあってな」
「おう、できる事ならなんでも言え」
コーレアが気軽に言うと、ひのきはうなづく。
「えとな...日本ついたら温泉...寄れねえかなと」
ひのきの提案にコーレアは腹筋をやめ、ベッドの端に座るとうなづく。
「おお、それいいな。体にもいいし、リラックスするしな。
後でルビナスに言ってみよう。
できればたまには宿で一泊くらいできればなお良いんだけどな」
さきほどのホップの事もうまくすれば良い方向にいかないだろうか、と内心思いながら諸手をあげて賛成するコーレアに、少しホッとするひのき。
「温泉旅館とかなら和食の勉強にもなるしな~」
ホップが別の観点から賛成した瞬間、ひのきはハッとした。
「もしかして...今日の夕飯もお前となずなが作る予定だったか?」
「うん、そのつもりだったけど...?」
いきなり慌てるひのきに不思議そうに答えるホップ。
「わるい...お前一人で作れるか?」
口に手を当てて言いにくそうに言うひのきに、ホップは事情を察して笑った。
「やりすぎ?」
「ああ、まあ。なんていうか...日本戻るのが憂鬱でつい...な。
まあおかげで俺はすっきりなんだけど、ちとやりすぎて...なずな熟睡中」
「なあ、タカ、立ち入った事聞いて悪いが」
タイムリーな話題にコーレアが言いにくそうにそれでも口を開いた、
「ああ?なんだ?」
「その...な、逆もあるのか?」
「逆?」
「いや...その...なずな君が...な、嫌な事とか滅入った事とかあった時にしたがるとか...」
コーレアの言葉の意味を一瞬計りかねてひのきはきょとんとしたが、やがてようやく理解して否定した。
「ああ、そういう事な。
いや、なずなから誘ってくる事自体ねえから。
俺達がし始めた頃って俺がもうつぶれかけてた時期で、そのまま今まで続いてるって感じだし、そもそもなずながあまり滅入った様子見せる事がない。
元気なく見える時は大抵体調崩してるからやったら死ぬし」
ひのきの答えにコーレアは
「そうかぁ...」
と肩を落とした。
「なんだ?ルビナス...じゃねえよな?」
おそるおそる聞くひのきにコーレアは苦笑する。
「いや、あれは女じゃないから、俺にとっては」
その答えにひのきはちょっと考えこむようにうつむいた。
そして
「鉄線なら...」
と口を開く。
「ありかもな」
「な、なんで?!」
ひのきの言葉に身を乗り出してきいたのはホップだ。
「あ~、なんつ~か...苦手だから、本音を言葉にすんのが。
本音を口にせず役割をこなせって環境で育ってるからな。
でも滅入った時はそれなりにベタベタしたくなるし...そうすると一番手っ取り早い。
滅入ってるとか言う本音こぼすより〇ックスしたいって言う方が言いやすいんだ」
「それ...タカの事じゃなくて?」
ジト~っとあきれた視線を送るホップに、
「鉄線もだ。あいつの辞書に恥じらいなんて文字はねえ!」
とひのきは両手を腰に当ててきっぱり断言する。
「もう賭けてもいいぞっ!」
「まあ...どちらにしても宿は取れるように尽力はつくそう。
そこからは本人の判断に任せるという事で」
コーレアが複雑な表情でかすかに笑みを浮かべた。
「んじゃ、飯頼んだっ。俺は部屋帰る」
言うだけ言うとひのきは一号室を後にした。
そして3号室に戻ると短いメールを打つ。
”いい加減あの馬鹿を襲ってやれ。”
勘のいいあいつの事だ。これで通じるだろう。
送信、というボタンを押して送信が終わると、携帯を放り出してまたベッドに戻り可愛い顔で熟睡中の愛しの彼女を抱きしめた。
一方2号室。
ルビナスの質問に一通り答えて、所在なげに布団の上に寝転んで専門書をめくっていたユリは枕元の携帯が振動するのに気付いて携帯を手に取って今きたばかりのメールを開く。
「...なるほど」
短いメールの内容に目を通してつぶやき、考え込む様に天井を見上げた。
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