「で?組み合わせはどうでした?
トリトマ君とアニー君が同室っていうのは少々不安はあったんですけど...」
奇しくも話題が人間関係に及んだ事で思い立ってきくシザーに大人組は一斉に顔を見合わせた。
そして最終的にコーレアが口を開いた。
他はどうとでも穴を埋められるがタカに崩れられると俺にももうどうにももならん」
「ひのき君が...崩れました?」
シザーが驚いたように目を丸くした。
「ジャスティスの中で一番安定してるし、これまでどんなきつい任務も彼が中心になってこなしてきたんで彼だけは大丈夫だと思ってたんですが...」
「ごめん。私のせい」
シザーの言葉にルビナスはグラスを持ったまま頭を抱えた。
「いや、お前だけのせいじゃない」
コーレアがその手からグラスを取り上げてテーブルに置くと、ルビナスの頭を引き寄せた。
そのまままた嗚咽を始めるルビナスの肩を抱いてなぐさめるように軽く叩くと、コーレアは本戦前日の一件をシザーとフェイロンに説明した。
「タカは元々強いわけじゃない。
幼い頃からの英才教育や訓練のせいで、一時的に感情を押さえ込む術に長けてるだけだ。
能力的には確かに他を凌駕しているが中身はまだ普通の10代の若者だ。
頼らないとならんのはしかたないがどこかで支えを用意してやらないとつぶれる。今回はたまたま立ち直ってくれたが、いつもそうだとは限らん」
「う~ん...」
シザーは腕組みをして考え込んだ。
「留守組もねぇ...できれば姫ちゃんは放したくないんですよね。
ぶっちゃけ...ひのき君と姫ちゃんセットで抜けられると基地内の人間の不安がね...」
「他にもジャスティスの女の子はいるんでしょう?その子達じゃだめなの?残るの」
ルビナスの言葉に
「駄目ですね」
とシザーは即答する。
「他のジャスティスの子達も含めた基地内の人間の精神安定のために必須なんですよ、彼女が」
「いったいどんな子なのよ?気が利くだけの子なら他にいないの?」
ルビナスがため息をつくと、シザーの代わりにフェイロンが答えた。
「たぶん...勘か頭が恐ろしく良いんだろうな。
相手がその時一番望んでいるであろう言葉や行動を察する事ができるんだと思う。
しかも...なずな君のすごいところはそういう風に見えないところだ。
ただ可愛くて気分で行動しているように見えて、一番相手の望んでるポイントをついてくるから最強なんだ。他人を乗せるのが恐ろしくうまい」
「あ、それあるね。僕らも彼女に仲裁されるまで犬猿の仲だったしね」
シザーが思い出して笑う。
「今回の車も原案は彼女なんですよ。
ジャスティスの過重労働を訴えるフェイロン君とスケジュール管理する僕の間で大喧嘩しまして。
車内が室内みたいに快適になれば基地内から出かける事多くても小旅行みたいで楽しいからって可愛くお願いされてとりあえず解決しました」
「ああ、確かに彼女は打てば響くようなところがあって、それでいてでしゃばってこないから...まあいると安らぐな、確かに」
コーレアもそれにうなづいた。
「研究するわっ!」
男3人の話を聞いて、こぶしを握りしめるルビナスに、フェイロンはうつむき加減に頭に手をあて
「やめとけ」
とため息をついた。
「なんでよ?研究すればある程度の行動パターンは割り出せるはずよ」
いかにも科学者らしいルビナスの言葉に、気持ちはわかりますけどね、と、シザーは苦笑した。
「科学で割り切れない事も世の中にはあるんですよ。
誰かが同じ事をしてもきっと駄目なんです。
確かに絶妙なタイミングで絶妙な言葉や行動っていうのはあるんですけど、それだけじゃなくて...うまく言えないけど、オーラみたいな物があるんですよね、彼女には。
側にくるだけでふんわりやすらぐような癒されるような」
「たしかに...あの人見知りの強いトリトマが初対面でわざわざ呼び止めて話をしてたしな」
それを肯定するようにコーレアがうなづく。
「ああ。あれはな、理解しようとするのも張り合おうとするのも時間の無駄だ。
女神様として人をコントロールしたい時に上手に使わせてもらうのが正しいぞ。
俺みたいにな。おかげで最近部内まとめるのが楽な事楽な事」
シレっと言ってフェイロンがポリポリ頭をかいた。
「うまいよね、フェイロン君は」
あははっとシザーは笑い声をあげる。
「まあ特別なのはわかったが...女神様といっても実際瞬間移動できるわけではないからのぉ。どちらかはなんとかするしかないじゃろう」
それまで黙っていたシランが結論をうながすように口を開いた。
「ま、遠征組優先だろうな。内部は妹様にご降臨願ってなんとかしろよ、シザー」
フェイロンが最終的に結論を下すと、コーレアも少し表情を厳しくしてうなづく。
「なるべく遠征組には余裕もたせてくれ。
実は...タカに指摘されて気付いたんだが、これからさらに不安要素があって...」
いつになく厳しいコーレアの声音に、シザーは不安げにフェイロンに視線を送った。
「戦闘についてか?」
それを受けてフェイロンがきくと、コーレアは重々しくうなづく。
「前回はフリーダムの部員がイヴィルにされてたわけだが...
最悪、ジャスティスの身内とかがそうされてる可能性もでてくるんじゃないかと...」
コーレアの発言に場の空気が一斉に凍り付いた。
「それは...可能性としては否定できねえな」
口に片手を当てて言うフェイロンにうなづいてコーレアが続ける。
「すでに身内がいない者もいるから、その可能性があるのはアニー、鉄線、ホップ、タカなんだが...タカ自身はなずな君がいれば自分は崩れないと言っていたし俺もそう思うから除外して、問題は盾なんだが...」
「きつい...ですねぇ。盾両方崩れる可能性あるっていうのは...」
と言うシザーは張り付いた様な笑顔を浮かべつつ、顔には血の気がない。
「タカは?それについてなんか言ってたか?」
フェイロンがきくとコーレアはいったん手の中のグラスからブランデーを一口口に含んで一息おくと続けた。
「鉄線は...親兄弟なら割り切ると言っていた」
「じゃあ盾はユリ君で行きましょう。
盾としての安定性は若干落ちますが、そのかわり彼女はアタッカーとしても支援としても使えるオールラウンドプレイヤーですから」
ホッと息をつくシザーにコーレアは苦い顔で首を横に振った。
「いや、タカは鉄線の方がやばいと言っていた。
皆が知ってるかどうかはわからんがタカと鉄線は親戚なんだ。
で、鉄線は分家の出なんだが、その一族にとっては本家は絶対の存在で、分家の人間は常々本家のために死ねと言って育てられるから、親兄弟は割り切れても本家の人間が出て来たら固まるかもということなんだ」
「いまどき...そんな世界あるんですね。ひのき君は?それでも大丈夫なんですか?」
驚くシザーにフェイロンが答える。
「タカは本家の嫡男だ。
だから奴はそういう意味では逆に誰を死なせても自分が生き残るように育てられてる」
「なるほど...でもそれじゃあ八方ふさがりですね。僕はアニー君の事は小さい頃から知ってますけど、彼は自分より弱い身内を殺せる様な子じゃないです。
妹がイヴィルになったらまず自分の方が殺されますね...」
「タカの話だと鉄線が家を離れたのが7歳と幼い頃だから、どこまで影響をうけているかが微妙な所だという事だったんだが...
デリケートな問題だからな。本人に直接確認をとるか悩むところだ」
コーレアが難しい顔でいうと、そういう事なら、とフェイロンが携帯を取り出した。
「おい、医務室の隣の部屋に5分で来い!間に合わなかったら基地内10周な」
いきなり電話の相手にそう言い放つと電話を切る。
「誰にかけたの?フェイロン君」
ルビナスが不思議そうに見上げると、フェイロンは
「元部下」
と短く答えた。
そしてきっかり5分後、バンとドアが開いた。
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