青い大地の果てにあるものオリジナル _3_1_帰還

「みんなお疲れさま~」
車が一ヶ月ぶりにブルースター本部基地の駐車場に着くと、出迎えの人間を代表して
シザーが声をかけるが、若者組は一切聞いていない。

「ファ~、ただいまっ!」
とトリトマはファーに抱きつき、アニーは
「毎日ジャスミンに会えるのだけを楽しみに頑張ってきました」
とジャスミンの頬にキスをする。

そしてひのきは
「今後二日は一切俺達に構うな!押し掛けて来たら殺すっ!」
と言い捨てるとあっという間になずなを抱き上げて消えた。

「みんな任務の報告~;;」
とつぶやくシザーの肩をポンポンと叩いてコーレアが
「すまんな、俺がするから」
と苦笑いを浮かべた。


攻撃特化型ジャスティスの跳躍力をフルに使って自室まで辿り着くと、ひのきはなずなを連れて部屋に入り鍵をかけた。

「おかえりなさいって言う暇もなかったわ」
ようやく移動が終わって口を開いて苦笑するなずなを抱きしめると、ひのきは
「ただいま...って言う暇も惜しかったから」
と言ってなずなの唇に深く口づけた。

「なずなが欲しくて死にそうだった」
とその場でなずなのブラウスをたくし上げてせわしなく体をまさぐるひのきになずなはあわてて
「タカっ...せめてベッド行ってからっ」
とその手を制する。

「ああ、仕方ねえな」
ひのきはまたなずなを抱き上げ寝室に入り、ベッドに直行した。
そのままなずなの体を性急に押し倒す。

そうして一通り愛し合って、ひのきはなずなを強く抱きしめた。

「俺...帰ってきたんだな」
懐かしいなずなの桃の香りのする髪に顔をうずめてひのきはつぶやく。

「...うん...おかえりなさい...」
激しい感覚がようやく収まって脱力しながらも、なずなはひのきの短い髪に指をからめて、そのまま梳くように優しくなでた。
ひのきはしばらく軽く目を閉じたままその気持ちの良い感触に身をゆだねる。

「...帰ってきてくれてね...すっごく嬉しい。ありがと...」
と、心地良い優しい可愛らしい声がゆったりと全身を幸せで包み込んだ。

「...俺にはもうなずなのとこしか帰る場所ないからな...他にはもう何にもない」
「うん...帰ってきてね?
どれだけ寄り道しても良いから。どれだけ傷ついても汚れても...絶対に帰ってきてね」

なずなの柔らかい優しい声にそれまで堪えていた物がこみ上げて来た。嗚咽がもれる。


「俺の手は汚れきってるから...なずなまで汚すかもしれない。
なずなは真っ白なのに...この世の誰より綺麗なのに...汚したくない。
なのに帰れないのは怖いんだ」

「大丈夫よ?汚れたら私が洗ってあげるから。
大丈夫。どんなに汚れて帰ってきても他の誰にわからなくても私にはちゃんとそれがタカだってわかるから。洗ってあげる」

「...うん」

「この手がね...今までずっと私やみんなを守ってくれたの。そしてこれからもね。
そうでしょう?
私は知ってる。分かってるから。
この手はね、私にとっては世界で一番大好きな大切な手だからね?
何度だって洗ってあげるから」
なずなはひのきの手を取って口づけた。それからクスっと笑いをこぼす。

「でもタカ、お腹...すいてない?
お腹すいてる時ってね、すごく滅入るものなのよ?」

「そういえば...減ってる」

「うん。じゃあお風呂入って来て?お湯はってあるから。
その間に温める物温めて用意する」

「ああ。そうする」
ひのきは素直にそれに従う事にしてベッドから抜け出した。




「長い遠征本当にお疲れさまでした。
みなさんお疲れでしょうし場所移しましょうか?」
シザーは若者組が去った後、大人組に声をかけた。

「フェイロン君が良い酒用意して待ってるので」
という言葉に
「それは何よりありがたいな」
とコーレアが笑顔で応じる。

「では行きましょう」
シザーが先に立って歩き出した。

そして着いた先は第4区。
医務室の隣の空き部屋にソファーとテーブルが運び込まれている。


「よお、お疲れ」
中に入るとフェイロンがソファから立って戸口まで出迎えにくる。

「そっちもな」
コーレアは応じて軽く手をあげた。

「適当に寛いで下さい。お話はゆっくりお聞きしますので」
とシザーがうながし、フェイロンは
「ブレンデーにウィスキー、ワインに日本酒に紹興酒、なんでもあるぞ。何を飲む?」
とグラスを並べる。

「あら、おつまみも各種揃ってるのね。
フェイロン君はこんな気は利かないだろうから...
シザンサス君かしら?」
ルビナスも上機嫌でカナッペをつまんだ。

「ああ、いえ。それは姫ちゃんからの差し入れです。
空きっ腹に飲むと体に良くないからって」

「姫ちゃんて...最強彼女ちゃん?」
ルビナスの言葉にシザーは吹き出して

「ええ。僕たちは最終兵器様と呼んでますけどね。ね?フェイロン君」
と、フェイロンを振り返る。

「ああ。別名女神様、だな。フリーダムの部員はみんな信者と化している」
振られてフェイロンも小さく笑った。

そんな話をしながらもそれぞれソファーに落ち着く大人組。
シランは何故か紹興酒、コーレアとルビナスはブランデー、フェイロンはウィスキー、シザーはワインをそれぞれ手にして乾杯をする。

「で、まあ堅苦しい話はおいおいということで、まず今回の遠征は一ヶ月と長かったんですけどどうでした?
車の乗り心地とか、物資とか、その他何かこれが欲しかったみたいな要望があったら言って下さい」

「無理ならしかたないが...できれば一つの部屋で同室は二人までが好ましいな。
一人になりたくなった時に居間と寝室に分かれられるからな」
コーレアの言葉にシザーはうなづいた。

「ああ、そうですね。まあその辺りは車の数を増やす事で対応しますね。
理想は全員個室ですか」

「いや、居間は共有が良いかもな。
むしろ居間を一つにしてその分寝室を増やした方が良いかもしれん。
居間が複数あってもどうせ一部屋に集まるから。」

「そうですか。そうですね、じゃあそういう感じで改造しましょう」
シザーがうなづいてブレイン本部に即メールを送った。

「あとミニキッチンなんて無理?
私は料理しないけど、たまにはコーレアの手料理が食べたいわ」
「お前なあ...」
ルビナスの発言にコーレアはあきれた顔で首をふる。

「じゃあ、それも。上部は居間1部屋で寝室3部屋。下部はバストイレを2にキッチンかな。火は危ないので電磁調理器になりますけどね」
シザーはそれもメールで送った。
そして空になったグラスにワインを注ごうとしてフェイロンにワインの瓶を取り上げられる。

「お前はもうやめとけ。コーヒーいれてやるから」
「大丈夫ですって」
「大丈夫じゃねえ!」
フェイロンは言って、残ったワインを一気に飲み干し
「これでもう飲めねえだろ」
とニヤリと笑った。

「誰か...この俺様勇者をなんとかして下さい...」
シザーが頭に手をやってため息をつくと、コーレアは笑顔で言った。

「北欧支部と違ってブレインとフリーダムの各本部長は仲がいいんだな。やはり若いからか」

「いえ...」
と言いかけるシザーの頭にゴンと拳を落とすと、フェイロンは

「まあな。ダチだから」
と答える。

「ええ、まあ。やりやすい事はやりやすいですよ」
断言されてシザーはこぶしを落とされた頭を押さえながら同意した。




0 件のコメント :

コメントを投稿