「ん、きっかり5分だ。体はなまってねえな」
満足げにうなづくフェイロンに
「他人よびだすのになんでそんな俺様なのさ、フェイロン!」
とゼーゼー肩で息をしながらホップがへたりこんだ。
そんな二人のやりとりを見てクスクス笑いながらシザーがホップを中にうながす。
「んで...このメンツはなにさ?大人の危ない秘密の飲み会?」
シザーにもらったビールを一気に飲み干して喉の乾きを癒すと、ホップは周りを見回した。
「まあ、そんなところだ。こっちのな、変態女に食われたくなければ質問には正直に答えろ」
フェイロンに言われて思わず身を固くしてひくホップ。
「変態女って、失礼ね!フェイロン君!」
怒るルビナスに
「酔わせて襲うなんざ、まともな女のする事じゃねえ」
とフンとソッポをむくフェイロン。
「酔わされて...食われたんか?フェイロン」
それを聞いて見上げてくるホップの頭にフェイロンはゴツンとこぶしを落とす。
「くだらねえ事言ってねえで質問に答えろ。お前鉄線の一族の事知ってるか?」
フェイロンの言葉にホップはうなづいた。
「もちろんさっ!タカの親戚で...」
「詳しく知ってるのか?」
「うん、もう一生に一人にしか言えない秘密まで全部っ!」
と嬉しげにホップは言う。
「ほぉ...じゃあ鉄線の事ならだいたいわかると思っていいな?」
「だいたいじゃなくてなんでもって言って♪知ってても言えねえ事もあるけどさっ」
「んじゃ、とりあえず言える範囲で答えろ。鉄線は身内を殺せると思うか?」
フェイロンの言葉にホップが表情を厳しくする。
「そんな事させない。タマが身内手にかけねえとなんない事になったら俺が殺る!」
「そういう事聞いてねえ!鉄線にできるかどうか聞いてるんだっ!」
イラっというフェイロンを制して、今度はシザーがじゃあね、と柔らかい口調で聞く。
「殺すとかそういう話じゃなくてね、身内が敵にいるとしたらどうかな?
例えば...ユリ君が盾しててね、敵になった身内が自分のために防御してる相手を渡してくれって言ったら渡すと思う?」
シザーの言葉にホップ考え込んで注意深く答えた。
「裏切る可能性があるかって事なら、ない。
親兄弟相手でもタマは任務を遵守するし状況によっては手をかけると思う」
「じゃあね、それが本家の人だったら?」
「ああ、そういう事気にしてた訳か」
シザーの言葉にホップはホッとした声で言った。
「大丈夫。タマは本家に思い入れ持ってないから」
「え?そうなの?話違わない?」
シザーはポカンとしてコーレアを振り返った。
「そうなのか?
タカは分家は本家のために死ねって育てられると言ってたが...鉄線は違うのか?」
コーレアが戸惑ったように言うと、ホップは肩をすくめる。
「正確にはお館様のため、ね。個人崇拝なんさ」
「って事は本家の他の人は平気でもお館様の言う事なら聞いちゃう可能性があるって事だよね?」
シザーの言葉にホップは小さく笑った。
「タマ達の世代のお館様は今ジャスティスだからさ、無問題さ」
「え~っと...つまりひのき君だったり?」
「当たりっ。
えとな、正確にはタカがジャスティスになって本家の檜家は弟が継いでお館様なんだけどな、タマ達の世代は認めてねえっていうか...自分達にとってのお館様はタカだけだって家捨てて失踪したのも結構いるらしいさ」
「なるほどね。じゃあユリ君は無問題なわけね」
心底ホッとしたようにシザーは肩の力を抜いた。
「うん。タカはずいぶん同世代の奴らに好かれてたらしいさ。
タマの双子の兄ちゃんもいつかタカのために死ぬのが夢なんだって言ってたらしいし。
あ、でも失踪者続出ってのはタカには秘密な」
「はいはい」
シザーは軽く請け負う。
「そういう環境に育つとああいう子になるわけね。
...なんだかジャスティスであろうとなかろうと人生重くて可哀想ね」
ルビナスは大きくため息をつくと、ブランデーをグラスに注いで飲み干した。
「うん。でもさ、タマはお館様は誰より心身ともに強くて一族を率いていけるように育てられるから大丈夫だって言ってたさ。
お館様がいれば何が起きても大丈夫なんだって。
まあ俺はさ、別にそう育ってないから何でもかんでも大丈夫とは思ってねえけど、それでも大和撫子がついてるしなタカはつぶれんさ」
「今度は大和撫子?っつか、それなによ?」
また出て来た異名にルビナスはあきれたようにため息をついた。
「言葉としてはあるべき日本女性の姿を持った人をさす言葉ですね」
眼鏡に手をやって説明するシザーに
「だから?どういう人って聞いてるんだけど?」
とルビナスは手の中のグラスを回しながら言う。
「えとな...慎ましやかで、一歩引いて男性を立て、男性に尽くす甲斐甲斐しい女性。
丁度お前と真逆な女像だ。ルビナス」
フェイロンが言ってにやりと笑った。
「ま、確かになずな君はそんな感じだな」
真逆うんぬんには肯定も否定もせずにコーレアが苦笑する。
「まあどちらにしても鉄線が入るのはありがたいな。
他の事もだがとりあえず遠隔の感知能力がな結構欲しい気がしたから。情報収集に」
「ああ、それはそうじゃな」
シランもうなづいた。
「タマ...遠征組になるんか...」
ホップは少しうなだれた。
「俺は...やっぱりだめ...だよな?」
伺うようにシザーを見るが
「残念だけどね」
とシザーは首を横に振った。
「ま、いいさ。俺も姫見習って安らぎ空間作ってタマの帰り待つ事にしたから」
ホップが少し寂しそうにそれでも笑顔を浮かべると、コーレアが口をひらいた。
「いや、ちょっと待った。タカは鉄線と一緒ならホップも大丈夫だと言ってたぞ。
一度試してみる価値はあるかもしれんぞ」
コーレアの言葉にシザーとホップがそれぞれ別の思いでコーレアに目をやった。
「でも...遠隔二人です?」
とまずシザーが聞くと、今度はシランが口をはさむ。
「いや、鉄線を盾にしてホップを支援ではどうじゃ?
今回はひのきが正面の敵を一掃し、アニーが盾でワシは人形でひのきの攻撃範囲外にある罠をつぶしていったんじゃが、遠隔なら別にワシでなくても構わんだろう?
むしろ盾はどうしても近場に神経が行くから、支援能力者が感知能力に優れていると良いかもしれんぞ。
ワシのような老い先短いジジイよりは若者に戦闘経験を積ませてやった方がいい。
ワシの代わりにホップを入れんか?」
「じいちゃん...ありがと~!!!」
シランの言葉にホップがシランに抱きついて喜ぶ。
「シランさんにそう言われては仕方ありませんね。
じゃ、次は姫ちゃんとユリ君とホップ君がインで、シランさんとアニー君がアウトかな?」
最終的にシザーが結論として述べた。
「次の遠征はどのくらいになる?」
一応人選は決定ということでコーレアが聞くと、シザーは少し考え込んだ。
「今回は敵の科学者と種子のサンプルという貴重な資料を持って来てもらいましたからねぇ...できればある程度イヴィルについての情報をまとめてから出発して頂きたいんで、そうですね、半月くらい頂けますか?
一応次回は日本を予定してるんですが、基地情報ももう少し欲しいところですし、ね?」
と、フェイロンを振り返る。
「ああ、そうだな。今部下を数人調査に送っているから。
前回のイヴィルの事もあるし少し慎重に行動する様に言ってるんで時間がな、もう少し欲しい」
「その頃にはさきほど要望にあった車の改造も終わりますので、予定は8月3日あたりかな。仮ですけどね」
「じゃ、それまでにこっちも色々勉強させてもらう事にするわ」
ルビナスがにっこり笑うと、コーレアも
「そうだな。本部来てまもなく遠征だったからな。少しその間に本部を回るか」
とうなづいた。
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