少女で人生やり直し中_61_弟子たちの最終選別

師匠と弟子、2代で隊士とするため鍛え上げてきた弟子たちが最終選別を終えて戻る予定の7日目の朝、錆兎は師匠の鱗滝先生と真菰で藤襲山の麓で3人を待っていた。

義勇も来ると言ったのだが、あいにく彼女は最近腹に5人目がいるとわかったところで、大事を取って花柱屋敷に預かってもらっている。


「ねえ…私の教え方が何か悪かったの?」

時間があるので真菰がそんな話をしだすので、錆兎が即
「真菰のせいではない」
と答える。

そして
「水の呼吸の隊士の育て方としては俺よりも上手かったと思う。
ただ…あの二人は本来水の呼吸の適性があるとは言えないから…」
と、くしゃりと頭を掻いて言う錆兎言葉に

「飽くまで水の呼吸にこだわっていたら岩は斬れない子ども達で…だからわしは護身術としての剣術や体術を教えて諦めるのを待つかと思ったのだが、真剣に打ち込んでいる様子を見てそのままにするのも酷かと錆兎を呼んだんじゃ。
水の呼吸をわずかばかり身に着けさせれば岩を斬れないでも最終選別は超えられる。
だが自身に合わぬ呼吸では普通以上の鬼は斬れん。
わしに教えられる呼吸は水だけじゃが…錆兎は実家で他もかじっておるからな」
と、先生が小さく息を吐き出した。


「え?それじゃあ?」
「ああ、それでも最初は隊士にするのは炭治郎だけの予定だった。
禰豆子に関しては先生に打診された時に断った。
だが…髪まで切って覚悟を示されるとな……
綺麗な髪だったのに…」
と錆兎はそれを受けて項垂れる。

なまじ山で真菰と義勇以外の女性を知らずに育っているので、そのあたりの女性に対する考えは重くて生真面目だ。

真菰もあの瞬間は驚きはしたものの、おそらく自分はそれで動かされはしないと思う。
だって、髪は伸びるもの!と、にこやかに流す自信がある。

まあそんな裏事情を明かされないまま自分は禰豆子に諦めさせるために無駄な時間を使わされていたのかと思えば腹も立つが、二人してずいぶんと落ち込んでいるのでここは追及しないで上げようと思った。

「それで?
じゃあ二人は錆兎が直接教えていくの?
それとも才能のある呼吸の柱にでも継子に出すの?」

「…できれば他所に。
本当は性質的には煉獄家あたりがいいんだろうが…」

「煉獄と言うことは…炎なの?あの子達」

「いや…そこが難しい。
ただ、水でないことは確かだ。
普通ならここに来る前に他の育て手にお願いするのが筋だったが、竈門一家自体がよくわからん。
そもそも義勇が何故特別に鬼が彼らを襲うと思ったのか…
あと先生がおっしゃるには炭治郎の家の長子に受け継がれているヒノカミ神楽という舞が呼吸の型に似ているという。
その二つに何か重要な関連性があるとしたら、彼らを半端な場所には送れまい。
そう考えると柱の家でさらに元柱が育て手をしている煉獄家で試してもらうのがいいんじゃないかということだ」

「ふ~~ん……」
言っていることはよくわかる。

でも…
「理由はそれだけ?」
と、真菰がコテンと小首をかしげて聞くと、錆兎はギクっとした顔で視線をそらせた。

「……」
「……」
「……」
「……ほかの理由は?」
とさらに聞くと困った顔をされたので
「あのね、事情とか全部教えてくれないと、何かあった時に間にはいってあげるのも難しくなるよ?」
というと、諦めたらしい。

俺の勘違いならいいんだが…と前置きをしつつ、
「禰豆子が俺を見る目がキツい。
何か嫌われるようなことをしたのかもしれんが、礼に外れるようなことはしていないはずだし、気が合う合わないの問題なら距離を取った方がお互いのためだと思う」
というので、真菰は脱力した。

これが他の男との人間づきあいだとすればやめておけばいいくらいに真意を追及する性格なのに、相手が異性となると一歩引くどころか思い切り逃げるのは、義勇と出会って異性を意識した頃に真菰が女心がわからないとかなり叩いたせいだろうか…。

あとは…隊士になってそれまで自分と義勇しか女の居ない世界で生きてきたところに急に女に追い回されるようになった経験から、義勇以外の女はそういう意味では全く興味がないということもあって面倒なのだろう。

本当は逆だよ、嫌いじゃなくて好きだからガン見なんだよ、と、教えてやってもいいのだが、それを言えば余計に逃げるだけだし、禰豆子にも恨まれること請け合いなので、真菰も余計なおせっかいは控えておくことにした。

まあ…錆兎は何があっても義勇以外に恋情を感じることはない男だし、逆に義勇も錆兎以外は視界に入らない女なので、このどちらに対しても他が恋情を向けるのは時間と気力の無駄だ。

早々に引き離して他に目を向けさせてやるのがよろしい。

「まあ…錆兎は弟子を取るには時間がなさすぎるしね。
現役の柱は忙しいのに加えてすでに4人も息子が居て、時期に5人目が生まれるとなれば、先にそっちの面倒見ないとだよね」
と言ってやると、頷きつつも錆兎はまた、

「あ~…それなんだが…息子たちもしばらく他にお預かりになる。
少々事情が出来て俺に時間がなくなった。
お館様にも許可を頂いて、当分は通常業務からも外れることになる。
だから申し訳ないが、真菰にはその分頑張ってもらいたい」
と、第三の理由があると語りだした。

「え?なによ、それ。聞いてない」
と、当然言うと、錆兎は
「すまん!俺も本当に数日前に知った。
お前、昨日まで長期の任務に出てただろう?
いう暇がないまま今日になったんだが、ちょっとここで口にすることではないんで、あとで話す」

弟弟子だけあって錆兎はたいていは姉弟子の真菰のいうことは尊重するが、こういう言い方をする時は本当に今話せないし話さない。

だから真菰も
「絶対だよ」
と、あとで言うといったことに対しての言質はとったうえでここは引くことにする。

そうこうしているうちに弟子二人が山を駆け下りてきた。

当たり前に元気で…当たり前に笑顔で……
最後になるはずだった3人のきつねっこ達が生還するまでは当たり前ではなかったそれに、先生が天狗の面の下で涙を流す。

先輩で…師匠でもあるきつねっこ二人はそれぞれの頭を撫でながら、ちょうど任務後に近くを通りかかったから美味い飯でも食いに行こうと思って待っていたんだ、と、そこはバレバレの嘘をつき、二人の頭を撫でまわした。

そこで、さあ行こう!となって後ろから感じる視線に振り向けば、どこか寂し気な目の黄色い頭。

その特徴的な容姿に錆兎は思い出した。

「あ~!お前、もしかして桑島さんのところ弟子か?!
良ければお前も一緒に生還祝いに飯食いに行かないかっ?」
と声をかければ遠慮されるが、隣の炭治郎が

「善逸も行こう!この3人は俺の師匠なんだっ!
入隊半年は上の階級の人が任務に同行するということだし、錆兎さんは柱だから一緒になることもあるだろうしなっ!」
などと、余計に臆されることを口にするが、禰豆子が

「善逸さんも同期だしね。
これから一緒に戦う仲だもの。
良ければ来ませんか?」
というと、喜んでついてくる。

こうして総勢6名で美味いウナギを食ったあと、いったん師匠の元へ戻るという善逸を見送って、5人もとりあえず水柱屋敷に戻った。

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