「宇髄…すまないが明日の任務を代わってもらえないだろうか…」
「おう、いいけどよ、なんだ?嫁か子の体調でも悪いのか?」
というか、自分が断っても錆兎の頼みなら代わりを引き受ける柱はやまといるが、たまに言ってきた時に断ったら二度と打診されることもなくなる気がするので、断れない。
ただ、そんな相手なので理由は気になる。
なので聞いてみると、
「あ~…狭霧山から先生が下りてきて…一緒にでかけるから…」
と返ってくる。
なるほど、律儀な性格をしているだけに恩ある師範が山を下りて訪ねてくるとなれば、それをもてなさないという選択肢はないということか…
と、そこまで聞いて思った宇髄だが、続く錆兎の言葉は
「先生と俺が両方教えた弟子が最終選別でな。
先生としてもこれが今度こそ人生最後の弟子となるとおっしゃっているし、俺にしてみれば初めての弟子だ。
これはもう…藤襲山で見守るしかないだろうということで……」
で、宇髄はぽか~んと口を開けて呆けてしまった。
いやいや、どこの世界に弟子が心配だからと試験会場まで付き添う師範がいる?!
そう言ってみれば、錆兎は
「付いていくわけではないっ!当たり前だろうっ!
師範同伴などとバレれば合格したあとまでずっとからかわれて可哀そうだからなっ。
こっそり見に行く」
と、こっそりという形容詞があまりに似合わない様子でのたまわる。
こいつ…こんなキャラだったっけ?
と、遠い目になる宇髄。
「まあ、藤襲山で一番強くて厄介な奴は俺の時に真菰と義勇と村田と4人で倒したからなっ。
合格するのは間違いないんだが、弟子二人とも最終選別を超えた後は狭霧山に戻らずに俺の家に来ることになるから、先生とは当分会えないし一緒に飯でも食おうかと…。
先生は俺たちの前に大勢の弟子を全員なくしている方だから、最後の育て手としての思い出は良いものにしてさしあげたい」
なるほど、現代の錆兎の人の好さの原点はその自分がすべてを失くして引き取られた時の師範との関係にあるのだろう。
思い切り重荷を背負って挫折してすべてを失くしてという人並外れて過酷な人生の中で、ゆがみもせずにまっすぐ育ったのはその恩師の指導の賜物だ。
大好きな先生に恩返しをしたいというのは、確かにとても錆兎らしい。
その先生の育て手人生最後の弟子をきちんと自分が引き継いでいくというところもみせたいということなのだろう。
そういうことならば、と、宇髄は納得して快く任務の交代を引き受けた。
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