身元引き受けの了承をされてからはひたすらに特訓だった。
炭治郎は錆兎に、そして禰豆子は真菰に刀を教わる。
そうしている間に炭治郎は何かをつかんだようである。
半年ほど経ったある日、とうとう岩を一刀両断にすることができた。
一方の禰豆子はなかなか岩を斬ることができない。
──私の教え方が悪いのかなぁ……
と、小首をかしげる真菰。
「いや、俺よりお前の方が説明とかは得意だろう。
俺はむしろ禰豆子は無理に隊士にならなくても良いんじゃないかと思うんだが…」
と、それにそう答える錆兎に禰豆子は青ざめて、真菰が、バカっ!と、錆兎を殴る。
「一所懸命やってる子にそれはないでしょ、錆兎っ!!」
と自分よりもはるかに大きくなった弟弟子を見上げてケンケンほえる真菰に、錆兎はいつもなら即譲って謝るのだが、今回は違った。
「ずっと思っていた…。
炭治郎はともかくとして、禰豆子は普通に恋をして好いた男と所帯を持って子を産んで…幸せなばあさんになった方が良い気がする。
それが出来ない状態になってから後悔しても遅いだろう?」
その言葉は真菰には聞き覚えがあった。
誰の事を思い描いて言っているのかもわかる。
「でもねっ!カナエちゃんは後悔してないと思うよっ!!
不死川だって子が産めないからって一緒になるのを躊躇するようなちっちゃな男じゃないっ!!」
自分だって同じ道をたどる可能性が高いことを考えると、それを否定されるのは我慢がならなくて、珍しく感情的に返す真菰に、錆兎は、まあ落ち着け…と苦笑する。
「別にお前たちの人生を否定しているわけじゃない。
ただ、物理的にそういうことになる可能性が高いと言っている。
禰豆子はそれも覚悟のうえで隊士を目指しているのかどうかということだ。
男なら体力が落ちて隊士を続けるのも辛くなって引退して所帯を持つということもあるが、女は時期を逃すし、義勇のように隊士をやりながら子も産んで家族も持ってというのは特殊だからな。
そういう女の幸せと言われているものと引き換えにしてまで、何を失ってもいない状態で完全に他人のために鬼を斬り続けられるのか、ということだ」
「それは確かに……」
と、錆兎の言葉にまず炭治郎が頷いた。
「…まあ…私たちと違って家族もいるんだよね……」
と、何かあれば悲しむであろう家族の気持ちをおしてまで…と言われると、真菰も考え込んでしまう。
しかし禰豆子にしてみれば他の選択肢などない。
好きだと思った相手は知ったその時にはもう妻帯者だった。
それ以上の男など居るとは思えないし、そうじゃないなら亭主など要らない。
──…女じゃダメ…なんですか?
と、泣き出しそうな気持をグッとこらえて言うと、
──ダメというわけではないが……
と、歯切れの悪い言葉が返ってきた。
悲しさやら悔しさやらがグルグルと脳裏を駆け巡る。
そして出た結論は…
──わかりましたっ!
と、グッと腹に力を入れて顔を上げた禰豆子に、ややホッとした顔の男性陣。
だが、彼女の出した結論は、おそらく彼らが期待していたことと真逆である。
──女…やめますっ!
というなり、禰豆子は刀を抜くと、長い髪をグッとつかんでザクっと斬り落とした。
床に散らばる黒髪。
さしてオシャレをする余裕などないが、それだけは丁寧に丁寧に洗い梳かしてつやつやに保っていた長い黒髪が自らと離れて床に落ちていく様子を、禰豆子は目を決して背けるまいとでもしているかのように凝視する。
唖然とする一同。
──…これで認めてもらえますか?
と向けられる強いまなざしに、その場にいる3人全員がため息で応えた。
──とりあえず…何か変わるかもしれないから、明日からは俺が禰豆子をみる。
と、錆兎が言ったところで、この件は終了。
そして2か月後…禰豆子も岩を斬って炭治郎と共に最終選別に臨むこととなる。
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