少女で人生やり直し中_58_身元引き受け

「話は先生から聞いた。
お前たちは隊士になりたいということだが……」

禰豆子がこれまで見ていた錆兎はいつでも笑みを浮かべていた。
住み慣れた故郷を離れる子どもたちが少しでも心細さを感じないように、大丈夫、大丈夫と言いながらこの狭霧山まで誘導してくれたのである。

ところが今目の前に座る彼に笑みはなく、むしろ難しい顔をしている。
その表情から、おそらく自分たちが隊士になるということに賛成していないのだと禰豆子は悟った。
兄も当然それを感じているのだろう。
とても緊張した様子で錆兎に次の言葉を待っていた。

「正直…お前たちが隊士になることに俺は反対だ。
隊士達のほとんどは失うもののない者ばかりだからな。
それに引き換え、お前たちには残された者がある。
それを置いて命を危険に晒すよりは、今あるものを守った方が良いと思う」

そう言う彼の言葉に炭治郎も禰豆子も一瞬言葉を失った。
正義のために…人を守るために隊士になると言えば賛成してもらえると思っていた。

立派な考えだと彼に褒めてもらえると思っていたので、禰豆子は泣きそうになって下を向く。
だが、兄は彼なりに色々考えてのことだったのだろう。

「でもっ!」
と、彼をまっすぐ見据えて言う。

「母や弟妹達は錆兎さん自身がそう判断して連れてきてくれたように、鱗滝先生のそばで暮らせば安全です。
男手も俺だけではなく、弟二人もいずれ大きくなって家を守れます。
錆兎さんは鬼殺隊の最上位に当たる柱だと聞きました。
それでも俺達みたいに特別じゃない一般の人間を守るためだけに雲取山まで来てくれた。
他の人にとっては偉い人でもない、ただの炭焼きの一家だけど、俺にとっては何より大切な家族です。
だから俺は、あなたが俺達を救ってくれたように…そんな小さな人を守れる男になりたい。
誰かの大切な人を守れるようになりたいんです」
と身を乗り出すようにしていう兄に、錆兎はうむむ…と顎に手を当てて考え込んだ。

そうしてしばらく考え込んでいたがやがて顔をあげて、今度は鱗滝先生に視線を向けて
「先生は…もう弟子をおとりにならないと思ってました」
と言う。

それは暗にそう言っていたのに何故?その理由如何では…ということなのだろう。
そう言えば先生は自分たちが隊士になりたいといった時に悩みはしたものの止めはしなかった。

ただ、──死ぬ以上に辛い経験をすることもある。その覚悟はあるか?…と聞かれただけだ。


だからもし彼の言うように先生がもう弟子を取らない心づもりでいたならば何故反対をされなかったのか、禰豆子も気にはなる。

そうして兄も含めて3人の視線が向いたところで、先生は言った。

「この兄妹には才がある。
才がある者が多く隊士になれば、それだけ多くの市井の民が救われるだけではなく、隊士自身も救われる。
彼らがここで暮らしていても、わしが亡きあとはどうなるかはわからん。
それならば、隊士として生きるのはもちろん、力をつけて引退をして育て手をするもよし、自身の家族を守るも良しだ。
力と経験はあって邪魔になるものではない。
それでも彼らが命を落とすのを哀れと思うなら、お前の下で生存する確率を上げる剣技を身に着けさせるのが良いと思った」


その言葉を炭治郎は神妙に聞き、禰豆子はキラキラとした顔で聞き、そして…錆兎はため息交じりに聞いた。

しかし、
──これ以上…特別な命を抱えきる余裕はありません…
ため息のあとに錆兎の口から出た言葉はそれだった。

しかしそれも先生の予想の範囲内だったようで、
「お前が一人で抱えるわけではないだろう?」
という。

「真菰も義勇も…それに他の若い連中とも仲良くやっていると聞いている。
お前は元々は強くて出来すぎる子どもだったからな…無理をすれば手に抱えきれるくらいのものなら無理をする。
そのくらいならもう手に余ると諦めがつくくらいのものを抱えて時にはそれを他人に託すことを覚えた方が良い」

「…もしかして…これは俺のため…ですか」
と、その師匠の言葉に錆兎は苦笑した。

「…それもある。
この子たちの将来、お前の現状、…そして世のため人のため…と言ったところだな」

「…先生には敵いませんね…」
と、現在鬼殺隊で最強の御旗と言われてなお、弟子はいつまでたっても弟子らしい。

「わかりました。とりあえず最終選別を超えたら水柱屋敷で身元は引き受けましょう」
と、最終的に師匠の意志に折れた形で、入隊後は二人の身柄は錆兎に引き取られることになった。


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