少女で人生やり直し中_55_帰郷

それは久々の休暇だった。
鬼殺隊の隊士はみな忙しいが、特に柱の忙しさは群を抜いている。
だから1週間も長期休暇が取れたのは、本当に奇跡のようだった。

それでも恩ある師範の呼び出しとなれば、足を運ばないという選択肢はない。

前回先生に炭焼きの家族を託してから早2年の月日が経っていて、その間、足を運んでいないというのは、確かに不義理ではあるとは錆兎も思う。

だが、忙しいのだ。
柱と言うのは本当に忙しいのだ。

それは元柱である先生も知っているから…と、甘えた気持ちがあったのは事実で、本当に申し訳ないとは思っている。


それでも1週間もの休みに浮かれる義勇に、先生から呼び出しがあったから留守を頼むとは言えなかった。

…ということで、急遽、家族総出で狭霧山への小旅行となったのである。



あの時に義勇の腹にいた赤子はもうすぐ2歳でまたも男児の双子。
その上の双子はもう4歳になっている。

このあたり、義勇の一念が効いているのだろうか…。
皆、性別だけではなく宍色の髪に藤色の瞳で錆兎にそっくりな容姿をしていた。

だから義勇が産んでくれた自分の子なのだから4人とも可愛いには可愛いが、正直そろそろ義勇似の娘が生まれてもいいのではないだろうか…と、錆兎は思っている。

まあそれはともあれ、もうすぐ休暇と言う時に恩師である鱗滝先生から錆兎に大切な話があるので顔を見せるようにと連絡がきた。

それを無視するという選択肢はないが、一人でという言葉もなかったので、家族で向かう旨をあらかじめ鎹烏で伝えた。

こうして4人の子連れの旅となったので、両親だけでと言うとなかなか大変である。
なので、当然のように真菰も一緒だ。

そして大人3人と子どもと赤子4人の計7名でえっちらおっちら山登りである。


「そういえば先生とお会いするのは祝言の時以来だから、子ども達をお見せするのは初めてだな」
と、義勇はムフフっと嬉しそうに笑って言う。

これだけ錆兎の血を生み出したのだから大手柄だ!と浮かれる愛妻に錆兎は両手にそのうちの二人の赤子を抱きながら、先生だって義勇似の子もみたいんじゃないか?と、苦笑した。

全くもって錆兎の家の純血種と言った子どもたち。
性格も同じくのようで、上二人は歩けるようになったかと思えば好んで木刀を振るっていた。
今腕に抱えている赤ん坊もそんな子どもな気がする。

というか、揃って父親に瓜二つな男児の赤ん坊が二組も続けて生まれる可能性なんてそうはないんじゃないだろうか。

しかも揃って母親が大好きで、いつか義勇を嫁にするのだとそんな発言が飛び交うので、子どもの戯言とわかっていても、錆兎は実は面白くなかったりする。

自分だって義勇にそっくりな娘に、『おおきくなったら父上のお嫁さんになって差し上げます』と言われるのが、今の錆兎の秘かな夢なのだ。


万が一鬼が出た時用に、錆兎が荷物を背負いながら両手に赤子を抱き、義勇が上の双子と左右の手をつなぎ、真菰は手ぶらで歩いている。
狭霧山に入っても鬼はいないが熊などの獣がいるのでそこは変わらず。


幸いにして体力は有り余っている幼児二人は、険しい山道をものともせずにはしゃぎながら登っていく。

「普通…4歳児が登れるような山じゃないよね、ここ。
さすが錆兎の子だけあって体力バカだわ」
と、真菰が走る子どもたちを苦笑しつつ追いかけた。
そうなると左右の手が空いた義勇があたりの警戒役を交代する。


初めて足を踏み入れた山に興奮して二人で競うように駆け上っていく後ろ姿は、まるで会ったことがない頃の幼い錆兎が無邪気にはしゃいでいるようで、義勇はとても嬉しそうだ。

急な呼び出しだったものの、子ども達を先生に見せられるし、義勇も楽しそうだし、まあ結果的には良かったか…と、錆兎も子どもたちを追う義勇の視線を追って笑みを浮かべる。



最初ははしゃいでいるが途中で力尽きるかと思っていた上の二人だが、真菰の言うようにとんでもない体力の持ち主だったらしい。

この険しい狭霧山の山道を山頂の鱗滝先生の小屋まで自力で登り切った。

山の上の見慣れた小屋の隣には見慣れぬ大きな小屋が建っており、そこに2年前に預けた炭焼きの家族が住んでいるらしい。

かつて知ったるその一家の長子が錆兎達を待つ鱗滝先生の隣に立っていた。


先生の前まで来ると、それまで二人とはしゃぎながら走ってきた真菰が、
「はいっ!二人ともご挨拶っ!!」
と、そこはピシっと締めるので、二人は真菰の隣に揃って並んで、

「「初めまして鱗滝先生っ!
渡辺頼光(右近)ですっ!」」
と、共に頭を下げる。

まるで錆兎が幼くなって分裂したようなその姿に少し驚いていた鱗滝先生は、そのハキハキとした挨拶に表情を崩して、
「二人ともよく来た。炭治郎、この子たちと真菰を頼む。
わしはもう少し錆兎と義勇を待っていよう」
と、幼子二人の頭をぽんぽんと軽く叩いて、二人を隣の少年の方へとうながした。


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