──俺…おかしくないか?
善逸に頼まれて同級生の女子を柄の悪い空手部の面々から護衛するために行く孤島のペンション旅行。
錆兎と一緒の旅行。
だって本物の女子高生だ。
義勇がいくら海陽学園内では生徒会長の錆兎のパートナーの姫君として遇されていたとしても、所詮はただのDKである。
錆兎だって男子校育ちだから男子高校生としては少しばかり綺麗な顔の義勇をそばにおいてくれていたとしても、本当に可愛い女子高生に囲まれたらやはり目が行ってしまうかもしれない。
以前も炭治郎のストーカーのことで女子高の文化祭に行った時にそんなことを心配して身なりを気にしすぎて逆に錆兎に嫉妬されたわけなのだが、義勇的にはどうしてもそこは気になってしまう。
だって錆兎はかっこよすぎる。
そう、かっこよすぎるのだ。
日本で一番賢い高校と言われる海陽学園の頂点に君臨する生徒会長。
成績はもちろん毎回首席で、各種武道の全日本レベルの大会で優勝経験を持つ武道の達人。
そんな感じなのでスタイルも抜群で性格も良く…そして何より顔が良い!!
芸能人どころか芸術作品のモデルとなっている古代の神々にも負けないほど神々しいレベルの顔の良さだと思う。
凛々しく精悍で…それでいて笑みを浮かべると夢見心地になるほどの甘さだ。
これに惹かれない女性がいたとしたら、どこか情緒が欠落しているに違いない。
そんなことを思っていると、頭の上からため息が聞こえる。
「義勇…あまり周りの目を気にされると俺が嫉妬のあまり善逸を見捨ててこのまま帰りたくなってしまうから、やめてくれ。
お前はどうせ女子高生が…と思っているのだろうが、俺のライバルは女子高生だけじゃない。
お前は可愛すぎるから空手部の連中だって油断ならないと思っているんだからなっ」
と、そう言いながら待ち合わせの船着き場に行くのに海辺の風が思ったより冷たいと、錆兎は自分の上着を脱いでそれで義勇を包むと、上着ごと義勇を抱き寄せる。
義勇は細いし何より錆兎がデカいので、そうしてぶかぶかの錆兎の上着を羽織って錆兎の腕に抱え込まれていると、本当にただの美男美女のカップルにしか見えない。
そして一人横を歩く炭治郎はそんなバカップル丸出しな二人を微笑ましく思いつつ、さすがになんだか自分は邪魔なんじゃないだろうか…自分も同級生の女子たちと共に向かうという善逸の方に同行すればよかったかもしれないな…と、少し思った。
そんな3人よりも一足先に待ち合わせ場所に向かっている善逸。
女4名に囲まれている。
「ね、今日来る我妻の友人ってどんな子よ?」
女子の集まりなのでもう話題はそれ一色。
善逸はそれに対して少し考え込む。
「あ~、一人は男なのにすごく可愛い子だよ?
もう一人はすごく面倒見が良い真面目な奴…
後の一人は…たぶん東京都内の…違うな、日本の高校生の中で一番頼れる勇者様かな」
「え~、なにそれ?強いの?」
キャラキャラ笑う女性陣。
「めっちゃ強いよ。俺が知ってる中で最強」
なにしろ殺人犯を素手で取り押さえたやつだもんなぁ…と、善逸は当時に思いを巡らせた。
少なくともちょっといきがっているだけの普通の空手部の高校生くらい、錆兎が居れば全く怖くないと思う。
錆兎ほどじゃないにしろ炭治郎も空手をやっていると言っていたから二重に安心だ。
「少なくとも今回来るうち二人は俺よりははるかに強いし、お役立ちだよ」
と、そんな風に和やかな会話が続く中、のんびりと電車を降り埠頭に向かう一同。
しかしその和やかな空気も
「よぉ、真由。お前らもこの電車だったのかっ」
と後ろからかかった声で急に凍り付いた。
「あ…剛」
少し硬直する3人と並んでくるりと振り向く真由。
仲間たちと4人組で歩いていた木村は他の3名より一歩前に出ると、真由に並んでその肩を抱いた。
同じく女3人に並ぼうとする男3人をさりげなく避けて善逸を防波堤にしようと回り込む女性陣。
「我妻一人なのかよっ。ダチには逃げられたのか?」
それに男性陣の一人、田端がちょっとムッとしつつ、しかしすぐニヤニヤとからかいの表情を浮かべる。
「ああ、3人合流して一緒に来るから。
友人の一人が少し人見知りなお坊ちゃまだからね。
いきなり世慣れたお姉さんの間に放り込まれたら緊張するだろうし」
善逸は内心怯えつつもを気合と根性でひきつった笑みを浮かべて言った。
「も~、世慣れたお姉さんって何よ、世慣れたお姉さんってっ!」
少しかわった空気に少しホッとして、軽く善逸を叩く由衣。
あとの二人も男3人を完全に無視して、善逸にじゃれつきはじめて、さらに男性陣の顔が険しくなった。
(怖い、怖い、怖い、怖いっ!!みんな早く合流しないかなっ)
義勇が緊張するためなるべく合流を遅くするよう3人は船着き場までは別に来ることになっていたのだが、身の危険を感じてそう思う善逸。
せめて炭治郎だけでも一緒に来てもらえばよかった…と、その選択を思い切り後悔した。
そんな事を考えつつ若干早足になる善逸に女性陣は小走りについていく。
そして…埠頭の船着き場に着くと、クルーザーの甲板に中年の男性が立っていた。
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