リトルキャッスル殺人事件sbg_1_プロローグ

 我妻善逸17歳。

人が良く女子に優しい…が、いつも優しさが空回りして報われない。
女子からは良い奴…の前に”都合の”の一言が添えられて語られ、日々良いように使われることが多い。
今回もそんな善逸の人の好さがトラブルに巻き込まれる一因となっていた。



「我妻、春休み旅行行こうっ!」

もうすぐ春休み。
朝、教師を待つ教室で、隣の席の女子が言った。

榎本由衣…小学校の頃から一緒のクラスメートである。
彼女に限ったことではないのだが、善逸はいつも同級生の女子に都合よく使われていた。
彼女たちにとっては別に都合よく使っているという意識はなく、単に善逸が断らない相手なのでなんでも頼みやすいだけなのかもしれないが。

だから今回の旅行の誘いも何かあるのかもしれない…
そう思って詳細を聞けば、同じくクラスメートの浅倉真由の伯父がペンションをやっていて、シーズンオフで予約客もいないため、
『自分の事は自分でやるって条件で一日1000円の食材費のみで泊まらせてくれんだって。でさ、男手足りないのよっ』
ということらしい。

おそらく向こうで気軽に使える男手が欲しいということなのだろう。
実は浅倉真由は去年の夏休み、高校生連続殺人事件に巻き込まれることになったオンラインゲームが届いたその日に失恋した相手である。

普通ならちょっと気まずいし嫌だと思うのかもしれないが、善逸は失恋しようとなんだろうと、一度好きになった女の子はずっと好きだったし、一緒に旅行できるのは嬉しい。

すこしばかりの雑用と引き換えにそれが叶うなら…と、二つ返事でOKした。
その翌日には真相を知って思い切り後悔をするのだが……



翌朝…善逸が机に鞄を放り出すと
「我妻、ちょっと…」
と、前のドアの所で隣のクラスの顔見知りの女子がチョイチョイと善逸に手招きをした。

工藤真希。
由衣と仲が良い陸上部所属のスポーツ少女だ。

同じクラスだったこともあったが、違うクラスになった最近はあまり話す事もなかった。
珍しいな、と思った善逸は、そこで思いつく。
由衣が言っていた旅行だ、当然仲の良い真希も行くのか。

「なに?旅行の事?」
ガタっと立ち上がってかけよると、真希は複雑な表情で善逸を見上げた。
「…やっぱり…ホントに行くんだ。」
その真希の意味深な言い方にギクリとする善逸。

…まさか…言われていた雑用以上の裏が…?

「えと…何か裏あったり?
真由のおじさんのやってるペンションに1000円で泊まらせてもらえるし、男手が足りないって言うから、おっけーしたんだけど?」
嫌~な予感がして言う善逸に真希は同情の視線を送った。

「えと…ね、元々は真由が彼氏と旅行って事で彼氏の友達3人連れてくるって言う話になって、私と利香と由衣も来てって事だったんだけど……」
「え?え?彼氏って…木村?!」
「…うん…」


木村は同じクラスにはなった事はないが同級生で…他人の彼氏をどうこう言うのはなんだが非常にヤバい奴というのが善逸の認識だ。

善逸の学校であまり柄のよろしくない事で有名な空手部であまりよろしくない噂を聞く輩で…つるんでいる面々も同じくあまりよろしくない噂が満載と言った男である。

「でね、あの連中と旅行って怖くて嫌だったんだけど真由一人にするのはもっと怖いからって話をね、3人でしてたら、由衣が生け贄連れてくるって…」

(そういうことぉ…?)
がっくりと肩を落とす善逸。
そう言えば由衣は昔から可愛いがちゃっかりした娘だった。やられた!と思う。

「やっぱ我妻の事だったんだね。
ま、我妻がいれば確かに安心だけど♪じゃ、また春休みだね♪」
サラっと不吉な情報を残して自分の教室に戻って行く真希。
その後ろ姿を青ざめた顔で見送って、善逸は諸悪の根源、小悪魔の登校を待った。

そして数分後、
由衣が後ろのドアから入ってきて席に着くなり、善逸は叫んで駆け寄った。

「由衣~!!!」
と、さすがに険しい顔をしてつめよると、
「おはよっ!どうしたん?恐い顔してっ」
にこやかに手をあげる由衣。

「どうしたん?じゃないっ!
俺死ぬじゃんっ!マジ死ぬってえぇぇ!!!」
と、善逸は叫ぶ。

今までトラブルに巻き込まれたのは偶然だった。
でも今回はどう考えても必然だ。

もう巻き込まれるのは最初からわかっている。
というか…今度は自分が殺人事件の被害者になるんじゃないか?とつめよる善逸に由衣はあははっと笑った。

「あ~真希あたりに聞いちゃった?」
「聞いちゃった?じゃないでしょうがっ!!
空手部4人に詰め寄られたら俺マジ死ぬよ?」
「あ~大丈夫っ。空手部っていっても格好だけだしさっ。
空手有段者の真由の伯父さんが止めてくれるよ、死ぬ前にっ」
悪びれずに言う由衣に善逸はため息をつく。

「無理…キャンセルする…。行かない」
死なないまでも痛い思いは嫌だ。
…というか、死なない保証すらない気がする。

しかし由衣はきっぱり
「無理っ。もう予約入れちゃったしっ。
他断っちゃったからね~。
どうしてもドタキャンするっていうならキャンセル料高いよっ?」
「高くてもいい。命には変えられないしっ」

さすがに…こうありえないレベルのトラブルに巻き込まれ続けてると、女の子の頼みは極力きいてあげたい派な善逸でも躊躇する。
お金で片がつくことなら、まだ去年のオンラインゲームのミッション達成金の残りを貯金してあるので、それで解決だ。

普段はことなかれで流されてくれる善逸のきっぱりとした拒絶に由衣はちょっと考え込んだ。

「我妻さぁ…真由のこと心配じゃない?」
その顔から笑みが消えて、真剣な瞳が善逸を見上げる。

「私達もさ…ホントは怖いんだよね…。
でもさ、真由だけで行かせるわけに行かないじゃん?」

確かに…由衣達にしても楽しくて行くわけではない。
男の自分ですら怖いのだ。女3人怖くないわけはない。

「お願い。ホントに仲いい我妻にしかこんな事頼めないんだよ」
由衣は真面目な顔で善逸に手を合わせた。

「でも…さ、俺が一人いてもしかたなくない?」
少し揺らぐ善逸に由衣は後一押しとばかりに言う。

「だから一人じゃないって。空手有段者の真由のおじさんもいるし。
でも4対1とかじゃあまりに分が悪いじゃん」

確かにそうだが…別に自分は武道有段者というわけでもないわけだから…いてどうなるよ、と、思った瞬間、善逸は思いついた。

「あ…じゃ、もう3人連れて来ていい?男だけど」
どうやら押し切られたっぽい善逸の言葉に由衣は笑顔で
「もちろん!じゃんじゃん連れて来ておっけぃ♪」
とうなづいた。



「…というわけなんだけど…」
まあ…あとはお定まりなわけで…。
その夜善逸は頼りになる勇者様に電話をかけた。

善逸が自身の命と望みをかけて電話した勇者様の本名は鱗滝錆兎。
去年の夏の高校生連続殺人事件で知り合って以来の友人だ。

頭脳明晰スポーツ万能、名門進学校海陽学園の生徒会長にして各種武道の有段者。
去年の夏の殺人事件の犯人を素手で取り押さえたと言う実績つきの猛者である。

彼が居ればたいていのことはなんとかなる。
優しく賢くたくましいと三拍子そろったスーパー高校生なのだ。

そんな彼には同じく例の事件の発端となったオンラインゲームで知り合った同性の恋人様がいるのだが、普段過ごしている寮でも同室なら長期休みで寮がしまるため帰る実家でも一緒に住んでいるという間柄で、今回善逸が電話を掛けた時も隣にいたらしい。

──孤島のペンションっ?!行きたいっ!!
とはずんだ声が聞こえてくる。

それに対して
──俺は良いとしても…義勇は危険だから駄目だ。
と渋る錆兎に

──大丈夫っ!錆兎が居れば危険なことなんて何もないっ!
と、そんなやりとりの末、恋人様には非常に弱いと定評のある勇者様は折れたらしい。
勇者とヒロイン?ご一行様の参加は無事決定した。

もちろんそこまで揃ったら最後の一人だってスルーしたりはしない。
最後に炭治郎に電話をかけて了承してもらって、めでたく4人揃ってヤンキーと行くドキドキ孤島のペンション旅行に出発だ。


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