気づけば大きなおなかを抱えたまま、義勇は18の誕生日を迎えた。
来年の今頃はきっと、大小の錆兎に囲まれているのだろうなと、おなかを撫でながらムフフっと笑う。
腹の子は間違いなく錆兎に似た元気で優しく強い男の子なのである。
そして何故か不死川が教えてくれた産着やおむつを縫いながら、彼が縫った見事な見本と自分が縫った不器用な形のものを比べてため息をつく。
あんな粗暴な男が何故こんな変な所で器用さを見せるのかがとても不思議だ。
料理だって特別に豪華なものを作るわけではないが普通に美味しい家庭料理を作って見せるし、柱を引退する日がきたら本当に花柱屋敷の下働きにでもなればいいんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、ふと思い出す。
そう言えば前世での弟弟子、炭治郎の炊く飯も美味かった。
やたらと『料理は火加減が命なんです』なんてドヤアッとした顔をしてたっけ…
と、そんな風に思った時、ハッと気づく!
そう言えば…来年の今頃は前世で炭治郎を助けた時期なんじゃないだろうか…。
うん、確かにあれは19の誕生日を少し過ぎた頃だったように思う。
はっきりした日付は覚えていないが、その頃になったらしばらく気を付けてやっていたら、あるいは炭治郎の家族を救うこともできるのか?
そうしたらあの少年は鬼狩りになることもないかもしれないが……
無惨討伐に深く関わっていた炭治郎が隊士にならなければ、何か未来は変わってしまうのだろうか?
錆兎の子が産まれるのだから、良い未来を作ってやりたい。
そう思えば炭治郎がいないよりいた方が良い気がする…
でもそれはすなわち、彼が悲劇に巻き込まれることで始まる人生なのである。
そもそもが錆兎が生存していることで他の柱にも影響して、不死川にしても煉獄にしても前世より早く強くなっている気がするし、それこそ前世では無惨戦ぎりぎりまで飲んだくれていた煉獄槇寿郎さえも普段は育て手をしているが、有事には戦線に復帰している。
もちろん、錆兎自身がとてつもなく強くなっているということもあるし、あるいは炭治郎が隊士になったとしても、それほど変わらないのかもしれないが……
絶対的に必要だというのでなければ、できれば家族を失くす悲しみは経験させないでやりたい。
…悩ましいところだな……
ふぅ…とため息をつくと、義勇は針を置いて縫い物に疲れた目を休ませた。
ああ、まだ1年ばかり時間があるのだし、もう少しゆっくり考えようか……
………
………
………
そう思ったのが悪かったようだ。
義勇は決して良くはない自分の記憶力を何故か過信していたようだ。
1年後…錆兎にとんでもない迷惑をかける羽目になるのだが、この時はまだ、そんなことを予想だにしていなかった。
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