水柱の18歳の誕生日兼祝言はものすごい騒ぎだった。
なにしろ柱だけではない。
彼と任務を共にしたことのある隊士や立ち寄ったことのある藤の家の関係者、助けられた街の人々までお祝いだけでも…とさすがに入りきらぬ屋敷の外で列をなしている。
もちろん彼女も親しい親族のようなものなので、そのあたりは彼らの同期が手伝いを買って出ていて、真菰は新郎新婦の姉のようなものということで綺麗に着飾って祝言の場に出席している。
大広間には新郎新婦…そしてなんとも驚いたことに病を押してお館様までいらしていて、奥方様と共に仲人として式の間だけでも…と、錆兎と義勇を囲んでいた。
──派手にすげえな、さすが鬼殺隊の御旗だけあるわ。
とこちらも3人の嫁を連れて正装で参加している宇髄。
──さすが父上が目指せとおっしゃっていた手本となる柱ですねっ!俺も大勢に愛される柱を目指します、父上!
──義勇さんも今日は本当にお綺麗ですね、私も兄上のお嫁様を早く拝見したいです。
と、目をキラキラ輝かせる煉獄兄弟。
──…あのきつねっこのチビがもう結婚か…。早いものだ…
と、煉獄父は自身の息子たちに重なるところがあるのだろう。
どこかしみじみとした口調で言う。
もう柱の座は辞してはいるが、医療所である花屋敷の管理者でもあり元柱でもある胡蝶カナエも参列していて、隣には妹のしのぶと不死川。
──白無垢姿の義勇ちゃん、綺麗ねぇ。真菰ちゃんも嬉しそうで良かったわぁ
とにこやかに言うカナエに、しのぶが
──のんきなこと言ってないで、姉さんもさっさと結婚して幸せな家庭を築けばいいのよ
と、相変わらずツンとした口調で言う。
「錆兎兄さんみたいに働き者で優しくて花屋敷を手伝ってくれるような人がいいって思ってたけど…まあ、姉さんには優しくて花屋敷を手伝ってくれる人はいるみたいだし?
少しばかり意気地がないのがたまに傷よねっ!
さっさと言えばいいのにっ!」
と、その言葉に赤くなって互いに視線を逸らす二人。
その様子にしのぶが、じれったい!と両手を腰に当てて、はあぁ~と息を吐き出した。
そんな参列客達も目に入らぬくらいには緊張している二人。
それもそのはず。
予定では最終選別に挙げた仮祝言のようなことを正式にするということで、普通に鱗滝先生と真菰と…あとは義勇が約束してしまったので宇髄も参列してもらって、身内でささやかにする予定だった。
もちろん指輪とか衣装とか料理とかは義勇にとって良い思い出になるように良い物をそろえてやる気ではあったが、何故こんな大掛かりなものになっているのか、錆兎自身にもわからない。
なにしろ隣には少なくとも今の柱全員、一度もみたことがないんじゃないかと思われる、お屋敷以外に足を運ばれたお館様。
錆兎が柱になった頃に柱で見知っていた元柱達も生存している者は皆参列してくれている。
義勇の隣には奥方様とお館様の5人のお子様たち。
館の外には大勢の藤の家関連や町の人々がお祝いに駆け付けてくれているという。
お殿様の結婚とかじゃないんだから…と脳内で思っていると、隣の義勇が
──お殿様の結婚みたいだ…
とクスリと笑うので、同じことを考えていたのかとそれがおかしくて、錆兎も釣られて笑ってしまった。
そうしてどちらからともなく、着物に隠れた手をぎゅっと握り締める。
最終選別前の晩の狭霧山でままごとのような祝言で共に生きていくことを誓い合ってから早5年。
その短い間に自分たちの仲はこんなに多くの人に認められて祝ってもらえるようになったのだと思うと感慨深かった。
義勇は昔から綺麗な少女ではあったが、5年前はまだあどけない子どものようだったのが、
雪のように白い肌や豊かな黒いまつげに縁どられた澄みきった大きな青い目など基本的なパーツは変わらないものの、まるで天女と見紛うばかりの本当に美しい花嫁になったと思う。
そして義勇だけではなく自分も成長して随分と体格も良くなったため、握った手のひら一つとってもあの頃よりむしろ義勇を小さく感じた。
個人差ではなくはっきり感じる性別の差。
それを改めて意識して、錆兎は頬を赤らめる。
おとぎ話のように、ただ二人でいつまでもいつまでも一緒に暮らしましたとさ、というだけではなく、そこで男女の伴侶として生きていくのだ、と意識すると、ただ祝言を挙げられて嬉しいというあの時と違い、このあとの諸々を想像してしまって起こりかける体の変化に慌ててそれを振り払った。
隣の義勇はどう思っているのだろう…と視線を向けると、錆兎の視線に気づいてただニコッと可愛らしく笑うので、何も意識していないのだろうと思う。
どういうことをすればいいのかは、自分にはお年頃になった頃に自分で処理する方法まで全て宇髄が教えてくれていた。
本当に面倒見が良い兄貴分を持って良かったと思う。
先生には聞けない。
そうなると同期に頭を下げるのも恥ずかしいし、どうしようかと思った。
とはいうものの、錆兎には本当に痒い所に手が届くほどに色々と面倒をみてくれる宇髄だが、さすがに女である義勇にその手の話をすることはできまい。
そうすると…義勇には誰かきちんとその手の話をしてやっているのだろうか…と不安になった。
なにしろ一番身近な年上の女である真菰は錆兎が知っている限りでは恋人がいた様子が全くない。
姉…が生きてた頃はまだ義勇は10歳以下の少女だったはずだし、知らなかったらどうしよう…。
もしかして今日、自分が性教育を教えることになるのだろうか……
表面上はにこやかに対応しながらも、突然沸き起こった疑問。
余裕はない。
正直に言うと、8年ほど前に初対面で一目ぼれした相手がこんなに美しく育って白無垢を着て微笑んでいるのだから、普通に余裕なんてあったら男として何かがおかしいと思う。
楽しみなような不安なような、そんな気持ちを抱えながらも、一生に一度の祝言なのだからしっかり心に刻みつけねば…と、錆兎は隣の花嫁に視線を向けた。
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