少女で人生やり直し中_44_救出

カナエっ!!!

3人が現場に着いたのは、まさに、冷たい氷の蔓のようなものが倒れている胡蝶カナエとそれをかばうように寄り添うしのぶに向かって伸びてきた時だった。

怪我や死を避けるとか、被害を減らすとか、そんな気を回す余裕もなく、とにかくカナエに向かって走り寄った不死川はそのままの勢いでカナエを抱き上げて横へと駆け抜け、同じく不死川の動きを見て察したのだろう、杏寿郎も同じくしのぶを抱き上げ駆け抜けた。

そして…その4人に敵の攻撃が届く前に、4人をかばうように立ちふさがって

──炎の呼吸 伍ノ型 炎虎……!!!
と、低い声と共に繰り出した槇寿郎の技が、氷の蔓を蹴散らした。


おいおい…と、それを見て不死川は思う。

これが自らの能力のなさを痛感しすぎて自信を無くして柱を辞した者の技だというのか?

確かに怪我で戦闘力を失ったカナエを屠るために向けた刃だとしても、不死川から見たら敵の放った攻撃は決して軽いものではない、十分に威力のあるものだった。

それを軽く…ではないのかもしれないが、はたから見れば完全に霧散させてしまうくらいの練度の技を使いこなしているなんて、まだまだ現役いけんじゃねえかよォ、おっさん!!と声を大にして言いたい。

現にそれを放った真っ赤な服を着た白い髪の優男は、

「…あれえぇ?
せっかく中途半端に苦しまないようにきっちり殺してあげようと思っていたから、結構力をいれた攻撃だったのになぁ…。
さすがだね。
柱がこんなに早く駆け付けてくると思わなかったよ」
と、にこにこと食えない笑みを浮かべて言った。

それに槇寿郎はその鬼とは対照的にブスっとした顔で
──”元”だ。今は引退したただのジジイにすぎん。
と、答える。

「…ええっ?!!柱じゃないの?!
ちょっと、今の鬼狩りの層って厚いんだね。
俺も何人かの柱とは対峙したことあるけど、君、人間にしては十分強いと思うよ?
それでも引退できるくらい下が育ってるのかぁ…」
と、驚いた!と目を丸くする鬼。

そうしているとまるで普通の気のいい人間が世間話でもしているようだが、その目の中には確かに”弐”の文字。
十二鬼月の中で上から2番目…つまり無残も含めた鬼の中で3番目に位置する鬼だ。
気を緩めることは出来ない。

そのあたりは柱経験の長い槇寿郎が一番よくわかっているのだろう。

小声で
…撤退しろ…
と指示を出す。

…で、でも父上……
…おい、おっさんそれは……
と、戸惑う杏寿郎と不死川の二人に、

…若造二人いても何も変わらん。むしろ邪魔だっ
と、短く斬り捨てた。

そして一瞬の間をあけて、
…怪我人がいるだろう……
と言う。


確かにそうだ。
医術の知識のない不死川から見ても、カナエは重傷だ。
呼吸がおかしいように感じる。

幸いにしてしのぶはまだ無傷なようなので、自分か煉獄、どちらか一人が胡蝶姉妹と撤退しようか…と、思い直したのだが、そこで、後方から、ドン!ドン!とすごい音がした。

振り向くと大きな氷の女性の像が立っている。

「童磨の技は吸い込んだら強力な冷気で肺の機能が停止してしまうそうです!」
としのぶが言っている間にも彫像から冷気が吐き出された。

完全に虚を突かれた形になって、しのぶを下ろして身軽な杏寿郎と無傷なしのぶはとにかく、前方の童磨と対峙している槇寿郎とカナエを抱きかかえている不死川は間に合わない!!

まずい!!
と、思ったその瞬間……

──水の呼吸 拾壱ノ型 凪…
──水の呼吸 拾壱ノ型 獅子爆流!!!

と、二つの声がはもって、冷気が消え、同時に青い獅子が2体の彫像を粉々に打ち砕いた。


すまんっ!!待たせたなっ!!!
ときらきらと光の粒の零れ落ちる青い刀を手に彫像の居た後ろから槇寿郎の居る最前へとぴょお~ん!と移動する宍色の少年。

──ごめん、待たせたねっ!
と、同じく跳躍する花のきつねっこ。

そして最後に自称鱗滝一家の末娘は
…うん、待たせた。
と、テチテチと徒歩で不死川達の横を通り過ぎて、錆兎の横に並んだ。


「あれれ、また柱が増えた…のかな?」
とやはり笑顔で言う童磨に

「時は平安、花の京都の帝の元で、鬼退治ならこの者と名高き大将源頼光率いる四天王筆頭、渡辺綱の技を受け継ぐその子孫!渡辺錆兎ここにあり!
十二鬼月上弦弐童磨、いざ尋常に勝負っ!!」
と、刀をかざして口上を述べる錆兎。

光とか正義とか、そんな圧がすごい。
これ、やっぱりおとぎ話の一場面か?!
と思わず唖然と眺めていると、一歩後ろに控える真菰が小声で、

…早く、早く、今のうちっ!!さっさと撤退してっ!!
と、手でシッシッというように合図してくる。

なるほど。
柄にもなく口上など述べているのは、鬼の関心を完全に引くためだったのか…。


「あ~~知ってる!!
人間の頃にも聞いたなぁ。
芝居にもなってるよね、頼光四天王と大江山の鬼の話。
そういえば…あの方が以前強襲をかけたけど一部仕留めそこなったって言ってたから…今仕留めればきっと喜んでもらえるよねぇ」

と、どうやら無惨の側からすると重要人物だったらしく、自分たちのことはどうでもよくなったらしい。

人間だからとか鬼狩りだからだとかを超えて相手が錆兎を殺したがっているというのは不死川も初めて知ったし、それをとてつもない強敵の元に残していくのは気が引けるが、錆兎もそのつもりで飛び込んできたのだろうし今はカナエの救出が最優先事項だ。

錆兎の他にもきつねっこ姉妹と煉獄親子がいることだし、と、不死川は戦線離脱させてもらうことにした。


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