花屋敷には親を鬼に殺されたり、あるいは親に虐待されたりと、家族の元で暮らせなくなった少女たちが多数暮らしている。
それこそ不死川の妹たちくらいの幼い少女がほとんどで、そんな少女たちの面倒をみてやっていると妹たちを思い出して温かい気持ちになる。
だから不死川はこの屋敷の手伝いが好きだった。
まだ少女たちもまだ本当に幼い分、優しくしてやればまだ甘えたい頼りたい盛りなものだから、無邪気に懐いてくる。
そんな中でカナエよりは4歳ほど下の少し年長のしっかり者の少女が、不死川にまとわりつく幼い少女たちをかき分けて不死川を見上げると、
「カナエ様が大変なんですっ!
助けに行ってくださいっ!!」
と、いつもは手伝おうとしても自分は大丈夫だと不死川に何か頼んでくることはないのに、今日は必死な形相で懇願してきた。
それだけで十分非常事態だ。
話を聞けばそれもそのはず。
「カナエ様から上弦の弐に遭遇したという連絡がきたんです。
でも柱以外が来ても犠牲者が増えるだけだから、誰も寄こさないようにということで…
おそらく討ち死にされることを想定して花屋敷の今後の指示について鴉を寄こされたんだと思います。
今日、カナエ様は夕食の時に、現在ほとんどの柱が遠距離の任務に就いていて、今夜は何かあっても自分が出ないととおっしゃってたので、助勢は望めないと覚悟なさったのかと。
それでもしのぶ様はその指示を聞かず、すでにご自身の鴉で緊急事態を鬼殺隊の方へ報告後、現場に向かわれたんですが、カナエ様が敵わない相手ではしのぶ様まで…
だから、こちらに入院中の隊士の鴉を借りて、不死川さんにご連絡させて頂いたんです」
そう言ってしゃくりをあげる少女。
普通なら慰めてやるところだが、そんな時間はない。
一刻も早く助勢に行かねば!!
不死川がとりあえず
「カナエはどこにいんだ?」
と聞くと告げられる場所。
「わかったっ!!俺がなんとかするから、お前たちはちゃんと門を閉めて鍵かけて、帰ってきたら食えるよう、美味いもんでも用意して待っててくれぇ!」
と、それでも放置するとそのまま外で待っていそうな少女たちに安全を確保させて、夜の街を疾走した。
いやだ!もう大切な人間を失くすのは絶対に嫌だっ!!
匡近の犠牲でなんとか下弦を斬った就任したての柱と言えるのか自分でも疑問なひよっこに、上弦の…しかも弐を倒せるかと言われれば、もうこれは否というしかないのだろうが、最悪稀血をばらまいて、体中干からびても敵を足止めして、カナエだけでも逃がすのだ!!
絶対に…今度こそ絶対に自分より先に死なせたりはしねえ!!!
そう決意して走っていると、前方に黄と赤の派手な髪。
しかもそっくりな色合いと後ろ姿の二人組で、なんだか凝視してしまう。
「おおっ!不死川の所にも連絡が来たかっ!!」
と、ちらりと後ろを振り返るのは不死川がよく知る煉獄の方。
「あ、いや…俺のとこには花屋敷から直接助勢の依頼が来たんだけどな…。
そっち…父ちゃん?
つか、柱以外は無駄だから来るなっつ~こと言ってたって聞いてんだけど?」
と言うと、もう一人が振り返る。
杏寿郎を渋くしたような男。
声も若干低いだろうか…
「柱の座を辞したとはいえ、炎の呼吸を極めた元炎柱だっ!
煉獄槇寿郎、まだまだ若造に遅れはとらんっ!!」
とだけ言うと、また前を向いて走り始めた。
確かに年齢からすればまだまだ現役で十分こなせる時期にその座を辞したため、柱並みには戦えるのだろう。
強者特有の圧がある。
下手すれば…いや、下手をしなくとも、なり立てのひよっこ柱の自分よりは強そうだ。
なんとかなるかもしれない。
…いや、絶対になんとかしてみせる。
花柱屋敷を出た時の悲壮感はだいぶ薄れてきたが、あとは時間との勝負だ。
まだカナエが無事なうちに、急いで現場にかけつけなければ!
こうして夜の街を柱と元柱3人で、目指すは街の東の外れ。
間に合え、間に合え、間に合え、と、3人皆が心の内で叫びながら、ひたすらに疾走し続けたのであった。
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