それは最初の柱合会議が終わった夜のことだった。
情緒が多少不安定だったとしても柱ともなれば任務に就かないわけにはいかない。
そういうことで不死川はその日も軽めの任務に就いて、深夜を回る頃には新たにお館様から拝領した風柱屋敷に戻っていた。
煉獄のものでも錆兎やきつねっこ姉妹のものでもない。
あとは誰がいたかァ?と思って浮かぶ少女の顔。
でも彼女も今日は任務についていたはずだし、こんな風に鴉を飛ばしてきたことはない。
花柱胡蝶カナエ…彼女とはいつだって、不死川の方から暇な時に花柱屋敷を訪ねるという、一方的なものだった。
じゃあ、本当に誰なんだ?
と、不思議に思って鴉に向かって手を伸ばすと、パタパタとせわしなく旋回していた鴉は
──不死川さん、花屋敷に来てぇ、急いで来てぇ!
と、あの屋敷の少女たちの誰かが言付けたのだろう言葉を繰り返している。
もちろん不死川がそれを無視できるはずなどなく、今置いたばかりの日輪刀をひっつかんで、大慌てで夜道を昼間にはしょっちゅう往復をした花屋敷まで走っていった。
夜は鬼の時間である。
それをしっかり認識している鬼殺隊の非戦闘員がいる各施設は全て、日が落ちると門を閉めて施錠しているはずだ。
なのに不死川が急ぎ駆け付けた花屋敷では、まだ年端も行かない少女たちが施錠どころか門の所で半泣きで不死川を待っていた。
…不死川さん、不死川さん…と、その姿をみかけると駆け寄ってくる少女達。
「お前ら、夜なのに危ねえだろっ!カナエはいねえのかっ?!」
と、抱き着いてくる少女たちを両手で受け止めると、館の中に促そうとする不死川だが、少女たちはその場から動こうとせず、口々に
「不死川さん、柱になったんですよね?」
「強い?すごく強い?」
などと聞いてくる。
それはつい先ほどまでは口にされたくはなかった事実である。
兄弟子を犠牲にして柱になったのだということを、不死川は納得できていなかった。
しかし泣きながらそれを口にしてくる少女たちは、今なにか柱の力を求めているのだというのはさすがにわかる。
そして、この自分を信頼しきっている少女たちの希望を打ち砕くような発言は、不死川にはできなかった。
たとえ自分の中で納得できないことだったとしても、それを飲み込んででも肯定してやりたいと思ったのである。
「おお、強えよ。
なにせ十二鬼月っつ~鬼の中でも特別に強い鬼を倒して柱になったんだ。
多少の鬼なんざぁ敵じゃねえ」
そう言ってやると、少女たちの泣き顔の中に笑顔が広がった。
大丈夫、きっと大丈夫よ…不死川さんがいるもん…
と、心の底から信用され頼られるのは、どこか心が満たされるものだった。
…が、事情を聞こうと手招きして呼び出した一番年長の女子に話を聞いた瞬間、一気に体中の血がさ~っと引く思いをする。
悠長に悦に浸っている場合じゃない。
彼女達が自分を呼んだ理由はとんでもないものだったのである。
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