少女で人生やり直し中_40_不死川実弥の悲報

不死川が下弦を倒したと聞いたのは、煉獄が柱になった2か月後。
錆兎と義勇、それに真菰が3人揃って休暇を取って、狭霧山に戻っていた時だった。

鎹烏がそれを伝えてきた時は、義勇は

──思っていたより早かったな…
と、驚きもせずにそう言って、真菰も

──確かに煉獄君は早かったけど、不死川君はもう少しかかると思ってたよね~
と、驚き、それから、
──でもまあ、めでたい。彼もお祝いしてあげないとね。
と、笑った。


だが、錆兎の表情はどことなく浮かない様子で、

──錆兎、どうしたの?何かきがかりなことでもあった?
と、真菰が顔を覗き込んで聞くと、いや…と言いつつも

──なんだか良くないことが起きているような気がしている…気のせいだといいんだが…
と、難しい顔で首を横に振る。

──ふ~ん?それは不死川君絡み?
と、少し小首をかしげて聞く真菰に、錆兎は
──ん~…わからん。まあ、俺も少し疲れているのかもしれないな。
と、このところ忙しかったから、と、苦笑して、そのくせ、先生に稽古つけてもらおう!と竹刀を片手に外に出た。

そうして義勇と裏の畑にいる師匠の所に行こうと錆兎が掘っ建て小屋の木戸をガララと開けた時、一羽の鴉が飛んできて、錆兎の肩にとまる。

隊士に与えられる鎹烏の中には特に特徴的な容姿や性格をしたものもたまにいるが、だいたいは見た目は普通の鴉なので、見分けはつきにくい。

だが、師匠が匂いで色々なことを知るように、錆兎も気配で察するので、その鴉の持ち主がわかったと同時に、ああ、嫌な予感というのは当たるものだなと思いつつ、

──どうした?要。あるじに何か起こったのか?
と、肩にとまった鴉に手を伸ばして腕にとまらせると、視線を合わせるように自分の目の前に持ってくる。

そう、それは煉獄杏寿郎の鎹烏、要だった。


──テガミ…テガミをヨメ…
と、差し出した要の足には手紙が括り付けてある。

鴉の口頭ではなく手紙なあたりで、込み入った話なのだろうということは想像がついた。
しかも休暇の終わりを待たずに急ぎとなれば、あまり良い知らせではないのだろう。

嫌な予感しかしない手紙に目を通してみれば、なるほど、確かに深刻な内容だった。

不死川が柱に就任するきっかけになった下弦だが、これは不死川を救って鬼殺隊に入るきっかけを作ってくれた兄弟子と共に倒したらしいが、その戦いでその兄弟子が命を落としたというのである。

不死川は当然、柱になれたことを喜ぶよりも兄弟子の死とそれを救えなかった自分…そしてその結果自分だけが柱になったことで荒れているらしい。

自分だけではどうしようもない。
出来れば早急に戻ってきてもらえないだろうか…というのが、煉獄の要望だった。

錆兎はう~んと唸って考え込んだ。

戻るのは良い。
だが、これはもう自分がなんとかできるものではない。
本人が割り切って気持ちを切り替えるしかないんじゃないだろうか……

──錆兎、どうしたの?誰の鴉?困ったことでも起こった?

と、眉をしかめてその場に立ち尽くす錆兎の前に回って、ひょいっとその顔を見上げる真菰に事情を話すと、彼女も難しい顔で腕を組んで考え込んだ。

「…あ~…それは…困ったねぇ…」
とため息交じりに言う真菰に錆兎は黙って頷く。

寄り添ってやりたいのは山々だが、修行を始めてからずっと一緒にいて支えになってくれた姉妹弟子に囲まれた自分があれこれ言っても人間関係の全てを失くした不死川には辛いだけなんじゃないだろうか……

不死川はああ見えて根は優しい男なので、普段なら相手が心から向けた善意であればそれが多少見当はずれなものだったとしても苦笑交じりに受け取ってくれるが、今はそんな余裕はないだろうし、下手な慰めなど相手を傷つけるだけな気がする。

──錆兎ぉ~!ほら、こんなに立派な大根が採れたよ!今日は鮭大根にしようっ!!
と、そこに土だらけの大根をかざしながら、笑顔で駆け寄ってくる義勇を見て、これを失ったとしたら…と想像するだけで錆兎は泣きそうになった。

無言でぎゅうっと自分をだきしめてくる錆兎を不思議そうな目で見上げる義勇。
ちらりと事情を問うように視線を向けた先で真菰は苦笑している。

「えっとね…不死川君のね、恩人でもある兄弟子が死んじゃったんだって。
で、その兄弟子が死んだ時に一緒に倒したのが下弦だったから、不死川君が柱に昇進することになったらしいよ。
でも本人すごく荒れてるらしくてね…」

「…そうだったんだ…。
でも大丈夫だよ。不死川は結局立ち直って普通に柱やっていくから…」
と、義勇は背伸びをしてさらにグイィっと錆兎の首を引き寄せると、その頭をよしよしというように撫でる。

「…義勇は…絶対に絶対に俺より先に死なないでくれ……」
と半泣きで言う錆兎。

前世で義勇が男の時には錆兎はいつも自分の前に居て、自分より強くて、弱音なんて吐いたりすることはなかったのだが、男より弱いはずの女に生まれ変わったらこんな風に弱いところも見せてくれるのが面白いなと思う。

「大丈夫だよ。だって私は錆兎の継子だから、私の任務は錆兎が管理してるし。
いつも錆兎と同じ任務にしかつかないし、錆兎と一緒の時は錆兎の後ろが定位置だから、錆兎が死なない限り私も死なない」
と、当たり前のことを告げると、そうだった…と錆兎は肩の力を抜く。

「それにね、不死川の先輩と違って私は女だから、錆兎も私も寂しくないよういっぱい錆兎の子を産むつもりだし?」

「ああ、それはいいなっ。大家族を作りたい。
義勇に似た女の子をいっぱい産んでくれ。
どれだけいても何不自由ない生活を送れるよう頑張って仕事するから」

「…私は錆兎に似た男の子で地を埋め尽くしたいんだけど…」

「は~い、そこで終了ね、二人ともっ。
お姉ちゃん寂しいし、不死川君の様子見に水柱屋敷に帰らないとでしょ?
義勇は着替えをまとめて、錆兎はその大根、帰ったら煮てあげるから洗って包んで。
私は鱗滝さんに事情話してくるからっ」

いつのまにやらバカップルののろけ話に変わり始めたところで、とりあえず弟妹弟子については大丈夫と判断した真菰がそう言って帰宅の準備について仕切り始める。


そうして錆兎は大根だけではなく師範が持たせてくれたいっぱいの野菜を、義勇は真菰と半分にした3人分の着替えを背負いつつ、しっかり手をつないで師匠の小屋をあとにする。

その二人の前を義勇と半分にした着替えを背負って走りだそうとすると、後ろから二人に、
「「真菰(姉さん)も死んだら嫌だからな(ね)」」
と、口をそろえてそう言われて、恋人同士の中ですこしばかりあった疎外感も吹き飛んで
「はいはい。こんな弟妹弟子を遺して死ねないでしょ」
と、笑う真菰。

「まあ…私の定位置は義勇みたいに錆兎の後ろではないけど、私が死ぬようなことになる前に錆兎が介入するだろうしね」
と、そこは3人一緒のきつねっこ。
生きるも死ぬも一緒でしょ、と、言うと、二人もコクコクと頷いた。


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