少女で人生やり直し中_37_就任祝い

その日の水柱屋敷はかなりにぎやかだった。
煉獄が炎柱に就いた祝いの席を設けるということがさりげなく広まったらしい。

日中なので遠くの任務に就いている場合以外は夜までは時間がある。
まず主賓の煉獄とその弟の千寿郎はもちろんのこと、他の柱達も祝いを手に続々と顔を出しに来た。

宇髄と不死川くらいは来るかと思っていたが、よもや他の柱達まで来るとは思っていなかった錆兎はもてなしの準備が…と焦ったが、そこはさすが真菰は抜かりはない。

「一応ね、あたしたちと杏寿郎兄弟以外にも30人くらいは対応できるように料理用意してるからね。
時間がない人には槇寿郎さんに持っていくのと同じ折詰を持って行ってもらえるよう用意してるから大丈夫」
と、頼りになる姉さんっぷりだ。

普段はぼ~っとしている義勇も、今日はせっせと料理を運んだり酒を注いだりと忙しく立ち働く。

すごいあたりでは、なんと奥方様とお子様たちまでいらっしゃった。
これにはさすがの真菰もびっくりだ。

慌てて錆兎を呼びに来て、丁重にお出迎え。
今日はお忍びでいらっしゃったらしく、同席していた柱達も一斉に座を開ける。

「本当はお館様もいらっしゃりたかったようですが…」
などと言われて、煉獄も大いに恐縮するという一面も。

お子様たちは水柱屋敷に珍し気に目を走らせながら、真菰が用意した菓子に舌鼓を打った。


実ににぎやかに楽しく時間が過ぎていく。
そんな中で錆兎は真菰と宇髄にこっそりと
「あまり良い状況にならなかった時のために、煉獄兄弟のいない間に行ってきたい。
だから、ちょっとここを任せて大丈夫か?」
と、声をかける。

「うん、大丈夫だよ。
折詰とお酒、それに船盛とつまみは用意してあるし、それを一緒に運んでもらえるように村田を呼んであるから。
勝手口から出て」
と、まったくお前が行った方がもしかして良くないか?と思えるほど卒なく気が利く真菰の言葉。

「…私も行く……」
と、それに義勇がひたりと寄り添ってくるので、まあいいか、とそれを了承。

裏に行くとすでに折詰とつまみの重箱を背負って船盛の包みを抱えた村田が待機していた。

「村田、いきなり申し訳なかったな」
とそれに頭を下げる錆兎に、村田は
「いやいや。俺も煉獄には世話になったしね。
でもさすがに柱に交じって祝いを渡す仲ではないし、これぐらいはさせてよ」
と、にこやかに言う。

「じゃ、行くかっ」
と、錆兎はそれにもう一度礼を言って、真菰が持たせてくれた銘酒の瓶を手に村田と義勇と共に屋敷を出て炎柱屋敷へと向かった。



水と炎…なんて対極な気がするが、実は鬼殺隊の中では双方極力長く柱の座を空けないという暗黙のルールのようなものもあり、常に存在する柱として割合と関係が深い。
そしてそのせいではないのだろうが、実は館も他に比べると割合と近い。

錆兎が柱になりたての頃、まだ幼く隊士としての経験も浅かったため、宇髄と共によく水柱屋敷に様子を見に来てくれたのが、炎柱煉獄槇寿郎だった。

その際、自身にも錆兎と年の変わらぬ息子がいて、いずれ自分の跡を継ぐだろうから、その時には自分が今錆兎を気にかけているように気にかけてやって欲しいと言っていた、あの、強く頼もしい、いかにも父親といった雰囲気の炎柱が、酒に溺れて刀を捨ててしまったということは錆兎にはにわかには信じがたい事実だった。

杏寿郎のため…と言いつつ、今日こうして炎柱屋敷を訪ねるのは半分はそんな気持ちを抱える自分のためである。

不思議なことに、いつもぼ~っと空気を読まない義勇は、錆兎のそんなどこか不安な気持ちを感じ取っているようで、──大丈夫…と、錆兎の腕を取って寄り添ってくれた。

こんな時、物理的にはいつも自分が義勇を守っているという自負がある錆兎なのだが、心は義勇に守られ支えられているのだなと実感する。
義勇といるといつもすごくホッとして、何があっても大丈夫、乗り越えられないことなどないのだと思えるのだ。



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