──…ということで、一件落着だなっ!俺は真菰を手伝ってくるからこっちは宇髄頼むっ!
下弦の首が落ちて砂となって消えるのを確認すると、錆兎はまた白い羽織を翻しながらあっという間に走り去っていった。
それを呆然と見送る義勇班。
本当に呆然…だ。
──うむ!やはり柱になろうと思えば基礎体力もかなり必要だなっ!戻ったら精進せねばっ!!
もう毒気が抜けるというか、ここまで差を見せつけられればさすがに妬む気もさからう気も起きずに素直に感心する不死川。
そこにまた、いきなり宇髄のキツイげんこつが降ってきた。
目がちかちかするほどのそれに、不死川は、いってぇ…と頭を押さえるが、今度は文句を言うことはない。
自分はそれだけのことをしてしまったのだという自覚はさすがにある。
「てめえな…もう錆兎には許可取ってるから言うが、自分が置かれている状況考えたら、もう錆兎に土下座で礼言うところだぞ!!」
と言う宇髄の言葉にも
「わぁってるっ!さすがに今回は俺がやらかしてるし、あいつが居なければ他人巻き込んで死んでるとこだったから、あとで土下座しに行ってやらァ」
と、応じるが、──そんなもんじゃねえっ!!…と、さらにげんこつを落とされた。
そしてとんでもない事情を明かされる。
「今回てめえの任務にわざわざ柱の錆兎が入ったのは偶然じゃねえっ!
てめえのためにわざわざ申し出てくれたんだよ、あいつが」
「…へ?」
何故?初対面だよな?
と目を丸くする不死川に宇髄は言う。
「てめえはな、除隊されるとこだったんだよっ!!」
「はああ???」
その後、明かされた事情はこうだ。
甲以上の人間が半年以下の隊士の任務の補佐に入るということになったのち、柱合会議でそのことについての下からの報告があがってきたので、お館様が話題に出される。
その中で一人の新米隊士がいつも上の言うことを聞かずに問題を起こすということで、これをどうするのがいいか、と、お館様が口に出された名が不死川だった。
悲鳴嶼と宇髄、それに錆兎以外は古参の厳しい柱達だったこともあり、即刻除隊を進言。
宇髄は別に他を巻き込めないように遠くの任務に放り込んで、役に立てばそのまま他と引き離して使えばいいし、死ねばそれまででいいんじゃないかと提案した。
悲鳴嶼は古参達と同意見。
そんな中で、錆兎だけが、おそらく剣技や呼吸を教える者はいても、人との付き合い方や集団行動の意味を教える者がいなかっただけだろうから、見捨てずにそのあたりを教えていってやりたいと申し出た。
責任は自分がとるからもう一度だけ任務に就かせてやって欲しいと、古参達を説得。
元々宇髄とは正反対に年寄り受けがたいそう良い錆兎の説得で、古参達は錆兎がそうまでいうなら、と、納得。
もちろん柱の総意とあればお館様も異論はない。
最終的な条件としては、任務で一人も死者を出さない、もちろん鬼は殲滅、さらに任務終了後に不死川が集団行動の意味を理解したうえで反省し謝罪を行うこと。
この3点がなされて、それまでの諸々を不問とするということだった。
「元気なわけじゃねえよ。
あいつはな、実はてめえらも芝居なんかにもなってるから知ってるだろうが、平安時代の鬼退治で有名な頼光四天王の筆頭渡辺綱の子孫だ。
源氏武者垂涎の剣技を全型受け継いでいる唯一の跡取りで、絶対にあいつを生かさねえとって大勢が死んで身代わりになって逃がされたから、自分以外の人間が死ぬ痛みを常に感じて生きてるし、そうやって自分の命以外すべてを失くして今に至ってるから、なんなら自分が先頭に立って真っ先に死にてえって思っている。
そんなあいつがそれでも死ねねえって思えるようになったのは、義勇を嫁にもらうことになって守っていかねえとってなったからで、それでも自分の手の届く範囲にいる奴は救いたいし守りてえってやつだ。
で、あいつの師範が人の機微まで匂いで探れるみてえに、あいつにも特殊技能があってな。
気配をさぐることにとんでもなく優れてんだよ。
今回、この地下室にてめえらがいることがわかったのも、あいつがてめえらの気配で探し出したんだ。
ただ広範囲で微弱な気配をたどるのにはとんでもない精神力がいるらしくて、簡単なことじゃねえ。
だからここにたどり着いた時点ですでにあいつはぶっ倒れそうなくらい疲れてる。
だが奴いわく、疲れをどこまで隠せるかが上に立つ人間に必要な資質だそうだから?
たぶん…この任務が終わって館に戻ったらぶっ倒れるな。
それでも死人を出さねえことが条件だから、あいつはこっちが非常時だからってんで真菰に任せている他全部を補佐しに戻ったってわけだ」
「よもやっ!!さすが水柱殿っ!!
父が見習えと言っていたのがよくわかった!!」
と、感動したように声をあげる煉獄に、宇髄が
「あ~、やめとけっ!あれは見習うなっ!
過労死するっ!!」
と苦笑するが、
「いや、常に心の炎を燃やし続ける姿勢はぜひ見習いたいっ!!」
と、さらにキラキラした目で言われて、
「これが炎柱になるとしたら、今後はさらに暑苦しい柱合会議になりそうだな」
と、あきらめたように肩をすくめた。
一方で不死川は力の入らない体をグッと起こして、それまで杖代わりにしていた刀を鞘に納める。
ぽたり…と、床に落ちる血。
懐から手ぬぐいを出して、自分で斬った腕にグルグルと巻いて止血をした。
「…おい、どこ行くんだ…」
「…まだ鬼は残ってんだろォ」
ふらふらと錆兎が戻っていった壁の穴の方へと歩み寄る不死川に宇髄が声をかける。
それに不死川がそう答えると、宇髄は両手を腰に当てて、はぁぁ~とため息をついた。
「てめえ…俺の話きいてなかったのか。
”死人”出さねえことが条件なんだよ、てめえも含めてなっ!」
「こんくらいじゃ死なねえよ」
「死ぬわ、ボケ。
稀血垂れ流して歩いたら鬼ホイホイだ。
1体なら斬れたとしても囲まれたら終わるだろうが。
それを助けに行かねえとなんねえ人間にはおおいに迷惑だわ」
別にそうあって欲しいわけではないが、錆兎に対するのと違って、宇髄は不死川に対してはずいぶんと容赦なく斬り捨てる。
「錆兎とてめえはぜんっぜん違うからなっ」
と、それを口に出してもいないのに何故だかわかられたらしくそう言われて不死川は驚きの視線を宇髄に向けた。
それに宇髄がにやりと笑う。
「錆兎に対すんのとてめえに対してが天と地ほど違うとか思ってやがったろ」
と言われて、もう否定するのもばかばかしくなり、
「てめえは人の心を読む系の妖怪かぁ?」
と返せば、またげんこつが返ってきた。
「あいつは御旗だ。
煉獄も…そういう系な。
隊士や…なんなら柱を目指す奴らが、こんな風になりてえってキラキラした目で見る対象だ。
だいたいはなれねえんだがな(笑)
まあ、夢見させて引っ張り上げるために存在する見本みたいなもんだ。
俺は…まあ派手に良い男だし強いのもみんな知ってるが、目指す奴はほぼいねえ。
おとぎ話で言うとだ、主人公の周りにいる強くて派手にカッコいいお助け人とか、そういう役な?
で、実質やることっちゃあ、主人公の補佐や裏方だ。
主人公が倒れねえように余分な作業引き受けて、御旗が汚れねえように、なんなら汚い仕事があれば引き受ける。
あとは何より重要なのは、主人公に助けられんのが当たり前の一般人と違って、主人公の負担にならねえ。
だから俺は錆兎を助けにはくるが、自己管理はしっかりしていて、体調管理に必要な休息は絶対に取っている。
だからあいつの足手まといには絶対にならねえ。
世界中の登場人物にぶら下がられてるからな、主人公の勇者ってやつは。
少しくらい助けても助けられる必要はないってやつがいてもいいだろ。
俺は最初にあいつと同じ任務になった時にあの人柄に惚れ込んでな、あいつにとってのそういう役割の人間になってやろうと思った。
てめえも同じ方向の人間だと思うぜ?
他に自分の主人公を見つけるか、錆兎の補佐役になるかはわかんねえが、俺にとっては同等の奴だから、気を使ってやる相手じゃねえ」
ずいぶんな言われ方だが、不死川の中では、ああ~そうだよな…と納得できてしまった。
常に品行方正でみんなに平等に誠実で優しく強くなんて柄じゃない。
ずっとそうあらねばならないと言われたら、柱になんてなれやしない。
別に隊士の手本になりたいなどとは思わない。
それでも皆が目指す立派な柱が必要だというのは、それもそれで理解できる。
水柱の渡辺錆兎がその役割を担うものだと言われれば、なるほどそれも納得だ。
そんなことを考えていると、それまでずっと黙っていた義勇が
──まあ…不死川は最終的に最後まで生き残る柱になれるから…
と、それも唐突に言う。
へ?と思って不死川が振り向くと、義勇は
──私も錆兎についていきたかった…
と言いつつ、疲れたようにそこにしゃがみこんで、苦笑する村田に
──そんなこと言って立てないだろ
とおぶわれて、うつらうつらし始めたので、その言動の意味は聞けなかった。
その様子に自分も一気に疲れていることを思い出した不死川もその場にしゃがみこむ。
確かに今追ったところで何もできないし、疲れ切った自分が今一番貢献できるとしたら、これ以上体力を落とさず、死人0人に貢献することだけだ…と思いながら…
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