少女で人生やり直し中_33_水の呼吸 拾弐の型

──水の呼吸 拾壱の型…凪

義勇の構えた刀の間合いに入った鬼の攻撃がことごとく消えていく。
錆兎の事は強いと認識していた村田だったが、義勇がここまですごいとは思っていなかった。

“義勇も普通に強い”という錆兎の言葉は、彼女の兄弟子であり恋人であるらしい錆兎の欲目だと思っていたが、そうではなかったことをたった今知ってとにかく驚く。

増えた鬼は見た目こそ下弦の鬼達と同じだったが、能力は劣化版らしい。
奥の二体とは圧も違えば強さもおそらく違う。

一応攻撃手としては煉獄と不死川で対応は出来ている。
まあそれも義勇の凪の援護があってこそだが……

ただ、斬っても斬っても減らない。
斬って消えた分、すぐ追加される。

そうなれば、最初は対応できていたこちら側も疲れで動きが鈍くなってくるのは自明の理というものだ。

まず少女で体力がない義勇の動きが悪くなる。

それに不死川が
「疲れたら休んどけェ」
と声をかけた。

「…でも…私が居ないと…」
と言う義勇に、今度は煉獄が
「俺は体力があるからなっ!
義勇が回復するまではなんとかするっ!
疲れて倒れるよりは休んで元気になってまた補佐をしてくれっ!」
と、畳みかける。

そう言われれば、完全に戦えなくなるよりは少し休んで…と義勇も思って少し下がった。
それを村田が護衛する。


だが、少年二人も余裕があるわけではない。
普通に疲労がたまっていたところに、これまでは義勇にまかせっきりで良かった防御部分も自分で担わなくてはならないとなってくると、体力が加速度的に減っていく。

先に崩れたのは血を流している不死川の方だった。
ガシっと刀を床に突き立てて、それを支えになんとか身を保ちつつゼイゼイと荒い息を吐く。

動け、動け、動けェェ!!!
と、うわごとのようにつぶやくも、体は言うことを聞いてくれない。

隣の煉獄もそろそろ厳しそうだ。
立ち位置がどんどん後ろに下がっている。

あ…汗で滑ったっ!!
と、気づいた不死川が慌てて後ろに倒れかける煉獄を支える。

そこに鬼の鋭い爪が映えた腕が伸びてきた。
やられるっ!!!

………
………
………

目の前で鬼の腕が斬られて床に落ちて砂となって消えた。

視界に入るのは真っ白な羽織と宍色の髪。


──俺が来るまでよく耐えた。

と言うその後ろ姿は、開始前の説明時の腰の低さが嘘のように毅然としていて頼もしい。

──義勇、あと1度だけ凪を使えるか?無理なら宇髄、補佐を頼む。一気に一掃するから。
──イケるっ!!
と錆兎のその言葉に義勇が即答する。

それに、そうか…と、振り向き微笑む姿は神々しいまでにおとぎ話の主人公だ。

そうして義勇を助け起こす宇髄に、錆兎は
──渡辺の技ではないが…水の呼吸の俺独自の技だ。一見の価値はあると思う。
と言って、刀を構える。

──そりゃあ休暇を潰して来た甲斐があったもんだなっ
と、さきほどまで絶望的で悲壮なほどの状況だった戦闘が、まるで冒険活劇の芝居のような様相を呈してきた。


そうして若き水柱は
──水の呼吸 拾弐の型…獅子爆流…っ!!
と言う掛け声と共に敵の中に特攻する。

すさまじい闘気。
刀の先から浮かび上がる水の獅子が蘇生する間もなくとてつもない数の鬼をかみ砕いていく。

…これが…柱、かァ……

目にしてしまえばもう妬む気も起きないほどの圧倒的な力。
隣では煉獄も食い入るようにその剣技に見入っている。


迫る青い獅子に、不死川達には余裕を見せてあざ笑っていた下弦の鬼達の顔に怯えが走った。
下弦が出した分身たちはすでに一掃されていて、本体の前まで来た水柱はぴたりと止まる。

そうして刀を担ぐようにして不死川達を振り返ると、なんでもないことのように
「どちらか、こいつら斬りたいか?」
と聞いてきた。

それはつまり…柱への切符を欲しいかと言うことに他ならない。
この任務の前だったら、不死川も迷うことなく手をあげていただろうが、今回の事で思い知った。
十二鬼月を自力で斬る力があるから柱なのだ…。
だから首を横に振る。

「いや…実力もねえのに柱になっても仕方ねえ。
これから自力で倒せるくらいに精進するわ」
と言う不死川の横で煉獄も頷く。

「そうか、じゃあ…っ!!」

そんなやり取りの間に部屋の一方だけ崩れた壁から逃げようとする鬼二体の首を
──水の呼吸 壱の型 水面斬りっ!!
と、交差した手を一気に振りほどいてスパ~ン!!と斬り落とす錆兎。

「…すげえな…基本中の基本の型だけで下弦の首落とせんのか…」
と、さきほどの技も派手ですごかったが、基本的な技でも圧倒的な威力を誇るその練度に不死川は驚愕した。



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