そういうことで進むしかないということは決まったわけなのだが、前方からは何かとても嫌な圧がある。
特に気配に敏いというわけでもない村田ですらどこか身震いしてしまうような恐ろしい空気が……
そのうえで煉獄は
「不死川…君は自分の暴走の責任は負うべきだ」
と、初めて不死川に対して責を問うような発言をした。
それに不死川は少し驚いたようにわずかに固まって、それから
「…ああ、わかってる」
と、真剣な顔でその言葉を素直に受け入れる。
それでさらに非難の言葉が続くのかと思えば煉獄はにこっと笑って言った。
「しかし俺たちは仲間だ。
その責は俺も共に負おうと思う。
だからこの先に俺たちに倒せない強さの敵がいるとしたら、俺と君で食い止めて、女性である義勇とその護衛の村田を逃がすぞ。
いいなっ」
「…煉獄……」
と、なかなか感動的な場面でも、きつねっこの末娘はその空気をぶちこわすかのように
「将来は二人とも立派な柱になるけど、今の新米の煉獄や不死川なら、まだ私の方が強いと思う」
と、発言してくれる。
もうなに?お前、空気は破って壊して作り直すものだと思ってる?
と、まとまりかけた班の空気を無意識に粉々に粉砕する親友の大切な姫君に泣きたくなる村田。
現に不死川はヒクリ…と頬を引きつらせるが、空気を読まないことにかけては義勇と張るらしい煉獄が
「そうかっ!でも君は水柱の大切な女性だからなっ!
俺の父は立派な柱だったが愛する妻を亡くして心が折れてしまった。
水柱にはそうなって欲しくはないし、そうなられては鬼殺隊としても困るだろう。
だから申し訳ないが、今回は自分の身を生かすことがすなわち鬼殺隊の柱を折れないようにすることだと思って、俺たちに守られて欲しい!」
と、キラキラしい笑顔で宣言した。
すげえな、煉獄杏寿郎、まじめにすごいよ。
…と、そのスルースキルとキラキラしさに村田は感動しつつも呆れかえる。
錆兎のため…と言いきられれば、義勇もそこは異論をはさむことなく、いざとなった時には速やかに撤退することを了承した。
そうして方針が完全に決まると、煉獄と不死川が並んで奥への戸を開ける。
その先にあるのは広い部屋。
四方は石の壁に囲まれていて窓も出口もない。
つまり、逃げられそうな場所がない。
…よもやっ…と、煉獄が小さなため息と共にそんな声を漏らす。
「…これは…こいつらを倒して気長に助けを待つしかねえってことか…」
と、青ざめながらもおそらくそれが唯一の道であろう可能性を不死川が口にすると、部屋の最奥に居る二体の鬼がくすくすと笑い声をあげた。
──俺たちを倒すんだってよ、兄弟。
──面白い冗談だね。
そんなことは前方から感じる圧で不死川にもわかっている。
それでも自分が引き起こしてしまったこの事態は、命に代えても他の班員を生還させることで収拾しなければならない。
刀を構える不死川に、鬼達はとどめを刺すべく笑って言う。
──へぇ、やる気なんだ。見たところ新米君らしいね。強さの違いがわかんないみたいだよ、兄弟。
──そうみたいだな。ひよっこのくせに下弦とは言え十二鬼月を倒せるつもりでいるらしい。
その言葉を聞いて、不死川は愕然とした。
ああ、そうかよォ、これが十二鬼月というやつか…。
どうりで圧がすごい。勝てる気がしねえ。
何が『たまたま下弦の鬼を斬らざるを得ない状況に陥って』…だ!
こんなもん斬ろうと思って斬れるもんじゃなねえ!
しかも俺より1歳も年下の13歳、入隊半月の時にだぁ?!!!
不死川は内心舌打ちをする。
今日の錆兎の話を聞いて、下弦に当たって斬り捨てることができれば楽に柱になれると思っていたが、そんな簡単なものではない。
たとえ下弦と対峙する機会があっても普通は勝てない。
そう、勝てないのだ。
自分と同い年の柱があまりに簡単に斬り捨てた話を聞いていたから、愚かにも自分も当たり前に機会があればできるなどと思い込んでいた。
彼は下弦に出会えたから柱になったのではない。
出会った下弦を斬り捨てられる実力があったから柱になったのだ。
そんな簡単なことが今までわかっていなかった。
その結果、班員3名を今死の危険に晒している。
ああ、申し訳ねえなんて言葉では言い表せねえ!
すまねえ、てめえら。
せめて可能な限り時間稼ぎをする。
そして真っ先に死ぬ。
誰一人、俺より先には死なせねえ!!
不死川はそう決意して、刀でサクッと自らの腕を斬りつける。
タラリ…と流れる血。
不死川の稀血の事を知っている本人と義勇以外の二人は驚きの目を彼にむけた。
それに対して本人が説明する前に、鬼の方が口を開く。
──稀血だ、兄弟。
──ああ、稀血だな。
──なんて旨そうな匂い…
──ああ、匂いを嗅いでいるだけで酔ってきた…
その鬼の言葉にホッとする不死川。
倒せないまでも時間が稼げればと思ったが、これはもしかして倒せるかっ?!
そう思って刀を手に一気に鬼に肉薄したが、すさまじい殺気を感じて飛びのいた。
避けたつもりだったが、わずかばかり胸元に薄く傷を負う。
驚きに前方に目を向ける不死川に、鬼はにぃぃ~っと笑って
──なあんてな、言うと思ったかぁ?
──雑魚鬼なら酔って動けなくなるかもだけどね、俺達下弦になるとむしろ元気になるくらいだよ。残念だったね。
と2体揃ってあざ笑うように言った。
──ねえ、兄弟?
──なんだ?
──稀血で気分が良くなってきたから、もう何体か兄弟を増やしちゃおうか。
──ああ、そりゃあいい。そうしよう!そおれ、稀血を絞ってこい!!
と、鬼が手を振ると、なんと部屋がたくさんの鬼で埋め尽くされた。
下弦の鬼はその向こう。
にやにやと完全に青ざめる不死川を眺めている。
頼りになると思っていた稀血で返って事態を悪化させてしまった。
そのことに絶望する不死川。
──みんな…何から何まで本当にすまねえ!!
もし逃げる道があるのなら、自分が一人残って喰われている間にでも逃げて欲しいと思うが、その逃げ道がない以上、全員が道連れである。
詫びても詫びきれない、償うことができない。
そう項垂れる不死川だったが、そこで
──諦めるなっ!心を燃やせっ!!
と、ドデカイ声で叫んで刀を抜く煉獄。
──たとえ敵が強かろうと、刀が折れようと心は折るなっ!生きている限り負けではない!!
そう続ける煉獄に後ろでぱちぱちと手を叩く義勇。
──仕方ない…。私もやるか…。水の呼吸 拾壱ノ型を見せてやる。
と、驚いたことに刀を抜く。
いや、隊士なのだから驚くことではないのだが、少なくとも村田は義勇が刀を抜いたところを初めて見た気がする。
さらに気になって
──水の呼吸の型って拾までだよね?
と、自身も水の呼吸の隊士なのでそう聞くと、義勇はにんまりと
──錆兎も使えない私独自の型。とっておきだ。
と笑った。
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実は岩を斬れる末娘(#^.^#)にばっきり心を折られるのかな...^^;さねみん😢
返信削除義は今回は防御担当&巻き込んでしまった班員の命の危機なので、心折れてる余裕もないですね😅💦💦
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