少女で人生やり直し中_30_炎の子、煉獄杏寿郎

──館内は広いし敵も多いから班に分かれて行動しようと思う。

全員が揃ったところで水柱はそう言った。


「全部で4班。
俺と真菰、宇髄、義勇に分かれて、それぞれに3人ずつつく感じな。
班分けは…」
と、さらにそう続ける錆兎が所属する班を発表する前に、不死川は
「俺はそのえんじの狐の班な」
と、宣言する。

「ああぁ??何勝手に言ってやがるっ!!
てめえはまだ身の程ってもんを…」
と、それに宇髄が怒鳴りかけるのを、
「宇髄、いいから…」
と、錆兎がそっと制した。

そして不死川に
「義勇は普通に強いんだが、あまり言葉が達者じゃない。
だから怒鳴ったり急かしたりはしないでやってくれ」
と、静かに言う。

それから少し考えて
「悪いが村田、お前は義勇の班でそのあたり助けてやって欲しい。
あと一人はどうするか……
希望者はいるか?」
と、参加者を見回した。

しかし普段仕切ったり錆兎と真菰以外と話したりしない義勇と、任務のたび問題行動を起こしている不死川の居る班に自分が!と申し出る人間はいない。

「なんだ。お前が決めちゃえばいいんじゃね?」
とコソリとささやく宇髄に、錆兎はう~んと唸りながら
「…本当は俺の班に入れようと思ってたんだが…本人が拒絶している時点で難しいし、じゃあ義勇と組ませるとなると、今度はそれなりに覚悟があるやつじゃないと色々…な」
と、こちらも小声で答えて言う。

「…上の指示聞けねえで我を通す時点でもうダメだろ」
「いや…もう少しだけ結論は待ってくれ…」

柱二人がこそこそと深刻な顔で話し合っているのを見てざわつく一同。
そんな中で一人の少年がピシッと手を挙げて言った。

「良ければ俺が入ります!」

よく通る声。
金と赤の派手な色合いの髪。
そしてこちらも圧倒的に正義の主人公臭がする。

「あ~お前は槇寿郎さんのとこの?
父上にそっくりだな」
とその声に少年に目を向ける錆兎。

「ウケルなっ!顔一緒じゃねえかっ」
と笑う宇髄。

「はいっ!煉獄杏寿郎ですっ!
昨年、父から水柱殿をよく見習うようにと言われて、先月最終選別を超えて以来ずっと、同じ任務につけることを楽しみにしてきましたっ。
俺でお役に立てるなら、その班に入らせて頂きます」

キラキラしいほどの爽やかさ。
こいつも七光り野郎かよっ!
…と、鼻白む不死川だが、まあ自分と同じ癸ならいいかと思う。

「じゃあ、杏寿郎は義勇班で。
ということで、他の班の構成を発表する」
と、その申し出を受け入れることにして、錆兎は各班を発表していった。


「以上16名、4人ずつ4班に分かれて行動する。
現場は5階建てで館というより城と言っていい規模の広さだ。
基本的に1階ずつ攻略し、全班が揃ってから次の階に向かう。
何か異常を感じた時には班員の鎹烏を順次飛ばしてくれ。
鴉は4羽全部飛ばして手元に残らないということがないように。
3羽目を飛ばす場合は、できうる限り退却して集合場所である階段前に戻ること。
戻れない場合は3羽目には現在どこにいるかを必ず託して救援要請し、飛ばした場所から移動しないこと。
4羽目まで飛ばして移動してしまうともう死ぬしかないからな。
4羽目は3羽目を飛ばしたあとにその場にとどまれなくなった時に、撤退場所を告げる最後の命綱だと思って欲しい」

最終的にそう指示が出て、全員で城へ。


白い羽織を颯爽と翻して先頭に立つ水柱と、その後ろに付き従う3人の隊士。
その斜め後ろの左右には、花のきつねっこの班と音柱の班。

「おい、行かねえのかよォ」
と、そこでぼ~っと立つえんじのきつねっこに不死川が声をかけると、彼女は
「…うん、行く」
と、どこか頼りない様子でこっくり頷いた。

「…どうしたんだァ?」
と、そんなきつねっこの少女の態度に不思議に思って聞いてみると、彼女はまたおっとりとした口調で困ったように言う。
「…私…鱗滝一門の末娘だから…」
「…だから?」
「…先頭に立ったことがない」
「ああ~?!!!」

意味がわからず聞き返す声がつい大きくなっただけなのだが、びくぅ!と構えるきつねっこ義勇。

いや、別に怒っちゃいねえよ、声が大きくなって悪かったなァ?
と、長子の不死川はそんなよく言えばおっとり悪く言えば鈍くさそうな義勇に悪い感情を持つどころか好意を感じたのだが、周りはそうは思わなかったらしい。

不死川がフォローの言葉を入れる前に村田が思わず義勇を自分の後ろに隠し、煉獄少年が
──それでは僭越ながら俺が先頭に立とうっ!!
と、こちらも白地に赤い縁取りの羽織を鮮やかに翻して、皆の先頭に立って歩きだす。

それに不死川に対しては危害を加えられるのを恐れるような目で見ていた義勇が煉獄には関心したように、

──さすが煉獄は違うな…前向きで……声がでかい…
と、ぽつりとつぶやいた。

それにむっとする不死川。
自分だって別に先頭を切って歩いてやっても良かったのだ。
というか、きっていいなら先頭を切りたかった。

そして…目に見えてイライラし始める不死川を空気が読めすぎる村田がハラハラ見守っている。

「あ、あのさ、前向きはとにかく…声がでかい、は、誉め言葉じゃないよね」
と、おそらく煉獄だけ褒められて不機嫌なのであろう不死川に聞かせるために言った村田の言葉に、義勇はきっぱりと
「不死川と違って煉獄は私を殴ったりしないし、明るく頼りにもなるいい奴だ」
と、謎な言葉を吐いた。

いや、色々率先してやってくれる煉獄がいい奴なのはわかるが、村田が知る限り不死川と義勇は今回の任務が初対面なはずだ。

もし万が一どこかの任務で一緒になっていたとしても、不死川が義勇を殴るようなことがあったとしたら、彼女と必ず一緒の任務についている錆兎や真菰が黙ってはいないだろうし、ましてや2人を同じ班になどしないだろう。

現に不死川の方も全く覚えがないらしい。

「ああぁ?!!!
てめえと俺は今回が初対面だろうがァ!!!
誰と勘違いしてやがるっ!!!!」
と、義勇を怒鳴りつけている。

うああああーーー!!!
と、フォローのつもりが思わぬ藪蛇になって焦る村田。

だがそれにも煉獄が
「よくはわからんが、とりあえず今は任務に集中だっ!
義勇も何かあったら俺の後ろに来るといい!」
と間に入った。

それに不死川がまたピキピキとして一触即発。

「名家のおぼっちゃまは余裕だなァ、おい。
何かあっても柱の父ちゃんがなんとかしてくれるってかァ?」
と、今度は煉獄に絡み始めた。

無理だ、もう無理、俺じゃ無理!!!
と、村田は頭を抱えるが、煉獄は謎のスルースキルの持ち主なのか、
「いや、元柱だ!
半年ほど前に母が亡くなって気落ちしすぎた父は鬼殺隊を辞めてしまってなっ。
それ以来、剣術から遠のいてしまって稽古もつけてもらえなくなってしまったくらいだから、俺が何かしでかしても責任は全て俺が持つことになる。
それでも俺は炎の煉獄の家の長男として、父の跡を継いで炎柱になれるべく精進しつつ、弟を立派な剣士に育てなければならんし、柱だった頃に父が絶賛していた水柱を参考にさせてもらおうと思っているんだっ」
と、目力という言葉がよく似合う特徴的な目をカッと見開いて、内容を聞けば随分と悲壮な状況に思えるような話を実にハキハキと口にする。

村田はなんだか悪いことを聞いてしまった気がして反応に困ってしまったが、驚いたことに不死川は何とも素直に
「よく知りもしねえのに、いい加減なこといって悪かったっ!」
と、いきなりガバっと頭をさげて謝罪した。

悪い奴ではない。
それは村田も常々感じていたことではあるのだが、こんなに潔く謝罪を口にできる男だったのかと、そこにとても驚く。

その頃には普段自分の過去を多くは語らない不死川の事情を村田は全く知らなかったのだが、父親を頼れず自分が大黒柱になって下をなんとかしてやらなければならないという煉獄の立場に、彼は昔の自分を見たようだ。
そして、必死に家と弟を守ろうとしているのであろう煉獄に共感と好感を持ったらしい。

煉獄の方も元々心が広く、そして根に持つ人間でもないようで、不死川の謝罪を受け入れつつ、

「縁があって同じ班になったのだから、共により多くの鬼を倒して互いに頂点、柱を目指そう!
あとは…そうだな、隊士ではあるが義勇はやはり女性なので、なるべく怪我などをさせないよう、俺たちが守っていく方向で」
と、さきほどの義勇の発言も気に留めているのか、暗に不死川にも義勇に対する労わりを求めてくる。

不死川自身も元々はろくでもない父親を見て育ったので、おんなこどもを殴るようなことをする気はないし、むしろそんな奴は外道だと思っているので異論はない。

「仕方ねえなァ。
どこぞの外道と間違われたままなんて腹ァ立つからなァ。
きっちりそんなケチな外道との違いをみせつけてやるぜェ」
と言う。

それに実に空気を読まない義勇がむっとしたように
「…いや、人違いじゃ……」
と口にしかけるのを、今度こそ先読みした村田が慌ててその口を手で塞いで阻止をして、
「とりあえず、今は任務。鬼退治頑張ろうなっ」
と強引に話題を変えて、事なきを得た。


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