食い散らかされた遺体にひどくショックを受けているようなのに、そのあとに錆兎の口から出てきたのは、
「少し動揺しているので判断を間違って、その間違った判断で行動するのはとてもまずいから…今から言う事がおかしくないか、判断してもらっていいか?」
と、言う言葉だった。
それに宇髄は呆れかえる。
まだ13歳でそれができると言うのは、筆頭の血筋の実家でそう育てられたのか、その後の元水柱の教育の成果なのか…
まあどちらにしても、こいつは上に立つよう出来上がった人間だな…と、思いつつ、
「おう、いいぜ。言ってみな」
と、返す。
それにややホッとしたように息を吐き出して、錆兎は一気に吐き出した。
「まずこの隊士が殺されたのは鴉が俺達の所に飛び去ったあとのことだ。
理由は…一番手前の部屋で殺されているから。
もし行きに殺されたなら、その時点で津雲さんから連絡が入るはずだ。
少なくとも俺達の所に来なくても、門で待機している先輩たちの所と本部には。
でもさっき待機組は何も言っていなかったから、何も連絡が来ていないのだろう。
だから奥で班が半壊して指揮系統が崩れたあとに、ここまで逃げてきて引きずり込まれて殺されたんだと思う。
つまり…この遺体は一番出口近くまで逃げてこられた最後の生存者と思われる。
…ということで…津雲さんの班に生存者がいるかどうかに関しては…ほぼ絶望的だ。
生存者の救出という理由がなくなった以上、安全を考えたら引き返した方がいいかもしれないが…俺達が探索した左側と同じ鬼なのだとしたら、知っていれば対応できる可能性も高いし、なにより最初にも話したが館を超えて被害がでるのは防ぎたい。
状況確認と…できたら鬼の本体を探って駆逐するため、最大限気を付けながら奥に進む。
そう思っているんだが…どう思う?」
動揺で青ざめた顔をして、正常な判断を下す自信がないと言いながら、宇髄からみても最適解を叩きだすのがすごいと思う。
「ああ、いいんじゃね?
ただ追加な。
惨状を見せる必要はねえけど、情報としては班員全員に開示したうえで、今言ったことを伝える。
そのうえで万が一があった時の撤退の合図と撤退手順を決めておこうぜ。
念のためな、てめえが引き受ける間に皆逃げろはなしな?
守りたいもんがあるのはわかるが、自分がくたばったら守れねえからな?」
と、一応頼られたわけなので、補足くらいは入れておかないとと思って言ったのだが、それまで青ざめていたきつねっこの少年はびっくりしたように目を丸くした。
「…ん?なんかおかしなこと言ったか?」
と、それに宇髄が首をかしげると、錆兎はぶんぶんと首を横に振る。
「いや、おかしくはない。ただ…」
「ただ?」
………
………
………
少しの間。
そしてほわっと笑みをみせていった。
「先生と同じことを言うから」
あ~、なるほど。
と、宇髄は納得した。
元水柱もそのあたりは心配だったのだろう。
姉妹弟子に囲まれた唯一の男子で、しかもなまじ強すぎるものだから、無茶をする。
普通なら問題ない場面でも自分が被ろうとし過ぎて危険に陥りそうだ。
「あ~…わかるわ。
お前、強いのはわかんだけど、無茶しそうな感じするもんな。
まあ師範の代わりにはなれねえが、俺のことは頼って良い先輩、なんなら兄貴くらいに思って困ったことがあったら言ってこい」
と言ってやると、
「兄さん…か。
俺は一人っ子で、なんなら本家の跡取りだったから父と先生以外は頼っていい上の人間を持ったことがなかったから…なんだか照れくさいけど、嬉しいな」
と、少しはにかんだように笑うので、なんというか…落ちてしまった。
実は頭領の長男の宇髄だが、正直弟という存在が可愛かったためしがない。
弟がいる周りに聞くとたいそう可愛いものだというのだが、宇髄自身の弟はというとクソ生意気で、自分以上にえげつないあれが?という気分だった。
が、今思う。
弟…可愛くね?
俺の弟が特別だったのか。
ようやく他の奴らの言ってたことがわかったぜ。
と、のちになんのかんので面倒見がいいと言われる音柱宇髄天元は、この瞬間に誕生したのである。
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