少女で人生やり直し中_20_鬼退治

おとぎ話の麒麟児、きつねっこの少年錆兎は、その背景にふさわしいくらいには、強いだけではなく賢い少年だった。

「…焼いた痕からは再生しないという事は、焼けたところは変形できないと言う事らしいし、逃げられなくなるんだな。
ということは、本体が鬼の形状のものを出せる数が最初の8体分だとすれば、焼いて固定を繰り返せばとりあえず他に危害を加えには行けなくなる。
そうなればゆっくり安全に本体を探すことができるから、人数を投入しても大丈夫かもしれない」

新たに起こった一つの事象から、色々と分析をして口にする。


「確かにそうだが…別に他の奴ら呼ぶ必要なくね?」

と、そこでそう突っ込みを入れると少し困ったように笑うのは、少年自身もそんなことは百も承知で、単に先輩隊士を立てないと…という気遣いからの発言だからだろう。

わかりきっているやりとりは互いに敢えて口にせず、
「とりあえずあと7体、焼きに行こう」
と、錆兎は目の前で暴れている鬼を放置で部屋をあとにした。

そうして廊下をさらに進んだ次の部屋でもう1体。


「余裕だなっ!こっち側のを全部殺ったら中央に戻って津雲達を待つか」
と、2体目も床に逃避できないのを確認の上そのまま部屋に放置して、機嫌よく廊下を進む宇髄。

錆兎が褒められると無条件に嬉しいらしいきつねっこの末娘義勇もルンタッタとステップを踏みながら進み、村田と真菰はそんな風にテンションの高い二人に苦笑。

唯一先を行く錆兎だけが緊張した面持ちを崩さずにあたりを警戒している。

そして
──この奥からも気配がするな…
と、ある襖の前で足をとめた。


すると、下半分に綺麗な松の絵が描かれたその襖を、当たり前に前に駆け出してきた真菰が開ける。
気づけば村田も飛び跳ねるのをやめた義勇を背にかばい、戦闘に備えていた。

そのあたり、さすがに知り合い同士。
阿吽の呼吸である。

もちろんきつねっことその同期の新米隊士が静かに体制を整えるのに動き始めた時点で、宇髄は自分も戦闘態勢に入った。

真菰の手でそろそろと音もなく開かれた先にあるのは10畳ほどの畳敷きの部屋で、そのさらに奥に部屋があるらしく、やはり松の描かれた襖が見える。

廊下からそれを確認し、錆兎がまず手前の部屋へ足を踏み入れた。
そして頷くと、真菰がまた駆け出して、奥の襖に手をかける。

再度その小さな白い手で開かれる襖。

そこでまた本日3回目の朱雀が見られるのかと、おとぎ話に心を躍らせていた幼い少年の頃の気持ちに戻ったように浮かれた気分でいた宇髄ではあったが、襖が開いて奥の部屋の様子が明らかになった時点で、最後尾の宇髄の少し前にいる村田が拍子が抜けたように緊張を解くのに、自身も少し肩の力を抜いた。


部屋の中央に居たのは義勇が着ている小振袖よりもずっと豪華な大振袖を身にまとった少女。
怯えたように座り込んで震えていたが、宇髄達を見るとホッとしたような顔で

「良かったっ!助けにきて下さったんですね…」
と、涙に濡れた顔にぱぁっと笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

……が、錆兎と真菰が同時に動く。

真菰の刀はまっすぐこちらに向かってくる少女を足止めするために柱に着物の袖口をぬいつけるように突き刺し、錆兎は早い踏み込みから、真菰が攻撃しやすい位置に誘導した娘に

──壱の型…朱雀!!
と、これまで2体の鬼の首を焼き切った筆頭家秘伝の剣技をまた繰り出した。

ええっ?!!!
と、驚くところをみると、村田は状況についてきていない。

いや…宇髄も二人が同時に戦闘態勢に入るまでは、全くついていけなかったのだが……


ジュッという音とともに焼き切れて跳ね飛ばされた娘の首が床の上でサラサラと砂になって消えたことで、宇髄は付いていけないなりに想像したことが事実であったことを確信した。

「…鬼…だったのかよ。
お前らなんでわかったんだ?」
と、前の二体と同様、床下に逃げようとするも逃げられず、ばたばたと暴れる鬼を放置で、前方のきつねっこ二人に視線を向けた。


「ん~…気配、か。
山で育ったから…人であるとか熊、鹿、猪、狐…みな気配が違うのはわかるようになった。
特に鬼は生者の気配と全然違うから…」
という錆兎。
しかしその横で、真菰が、ないない、というように手を横に振って苦笑している。

「錆兎は別。
たぶん気配を感知する能力に長けてるのは、遺伝?
うちの先生は鼻が良くてね、人の感情の機微までそれでわかっちゃうし…。
それと同じ特殊能力だよ。
山育ちとか全く関係ないよ」
と、にべもなく却下しつつ、振袖を繋ぎとめていた柱から刀を抜いた。

「…でも真菰だって気づいてただろう?」
と、それに暗に自分だけじゃないと主張する錆兎。

ああ、まあそれはそうだ。
別に親族でもないのだから、遺伝というなら真菰が気づいていたのはなんなんだ?
…と、宇髄も思う。
正直宇髄だって柱にまでなったのだから、感知能力が低いわけではないはずだ。

と、図らずとも宇髄の疑問につながった錆兎の言葉に、真菰は二本指を口と鼻に押し当てて少し考え込むと、にこりと笑みを浮かべて答え合わせをする。

「えっとね…義勇は今回は初めて連れてこられたから挨拶という意味もあっての小振袖なんだけどね、奉公に出て実際の仕事をするのに大振袖はないかなって思って。
主が鬼ということなら、愛でて楽しむために置いているってこともないだろうしね。
ということで、鬼に化けられるなら人間にも化けられるだろうし、近寄ってこられないように拘束だけしておいて、あとは気配でわかる錆兎の判断に任せようかなって」

なるほど!
鬼かもしれないという判断も的確なら、そこで錆兎が決断するまでの時間を稼ぐために動くまでの判断の早さも並じゃない。

錆兎は確かに血筋もそこからくる才能も実際の能力もとんでもないが、真菰もある意味天才だ。
最高の補佐役だと、宇髄は感心した。

「とりあえず現在の状況と対応の仕方は私の鴉で鬼殺隊の本部に送るから、次の報告は村田の鴉、その次は宇髄さん、その次は義勇で、錆兎の鴉はぎりぎりまで置いておこうね」
「ああ、そうだな。
まあそこまで鴉を使うこともないと思うけど」

分かり合っている二人に、その順番の意味は?と聞いてみると、なんと二人だけではなく、義勇にもわかっていたらしい。

「えっとね…戦線離脱する可能性の順番?
真菰姉さんは…わりと前に出るし、危なくなった時に他を逃がす時間を稼いだあとに自分が抜ける素早さがあるから…。
村田と宇髄は…たぶん村田より宇髄の方が事故が少ない。
私は最後まで錆兎と一緒だし、錆兎が脱落するような状況ならもう全滅してる」

小さな手で指折り数えながらぽつりぽつりと説明する義勇。
1人蚊帳の外なのかと思えば、そういうわけでもないらしい。
彼女もまた、きつねっこの1人なのだ。

まあ…末娘で甘やかされた結果なのか、姉弟子兄弟子は敬語をやめろと言ったので敬語ではないにしても、飽くまで”さんづけ”をするのに、1人だけ”宇髄”と呼び捨てなのが、構いはしないが地味に気になる気はするが…


「本部に送るのもそうだが、津雲さんにも報告しておいた方がいいな。
悪いが村田、頼む」
と、宇髄が義勇とそんなやりとりをしている間に、錆兎からそう補足が入って、村田も津雲班に鴉を送った。


ということで、錆兎と真菰と村田が報告する内容を軽くまとめている間、手持無沙汰な宇髄がちらりと前方下を見下ろしてみると、義勇が巾着の中からちりめんの小袋を出して、その中に白い指を突っ込んでいる。

そうして出てきたのはまんまるい飴玉。

「宇髄、あげる」
と、赤い飴玉を差し出してくるので、
「お、おう。ありがとな」
と、受け取っておく。

なんだかよくわからないが、手に持っているのも邪魔くさいので口に放り込むと、極々当たり前の甘酸っぱい苺の飴玉の味がした。

それにムフフっと満足げな笑みを浮かべると、義勇は今度は
「錆兎~」
と、飴玉を手に駈け寄っていくが、他ではどうも義勇には随分と甘いように思う錆兎は、しかし
「すまん。俺は刀を振るう時に歯を食いしばるからな。
飴が口に入っているとそれが出来ん。
気持ちはすごく嬉しいがこの任務が終わってからな」
と言われてしょぼんと肩を落として戻って来た。

「…錆兎に…少しでも美味しいものをあげたかったのに…」
と、もう行動性がまるでいとけない幼女のようで、わけがわからないが憐れを誘う。

「あ~…そんならこれからは和三盆とかの干菓子にすればいいんじゃね?
それならすぐ口の中で溶けるしな」
と、ポンポンと頭を撫でつつ言ってやると、ぱぁぁ~っと明るい表情になって
「宇髄賢いっ!これからそうするっ!」
と、笑顔を向けてきた。

ほんとうになんだかよくわからないが、どことなく憎めない。
末娘…と真菰が繰り返すのがわかる気がした。


しかし、そんなほわっとした空気はバサバサッとした羽音で突如破られることになった。



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2 件のコメント :

  1. 宇随さんを発見!最早懐かしのウォーリー...^^;「その次は宇随さん」お暇な時にご確認ください。

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😀

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